ワシントンDC開発フォーラムの皆様
今回のご連絡は次の9点です。
【1】8月のBBLのご案内
(7日・貿易・環境、21日・債務問題、28日・パートナーシップ)
【2】7月31日のBBLのご報告(PRSPプロセスの改善に向けて)
【3】「地球に乾杯!NGO」新着情報
【4】国際開発ジャーナル9月号から本フォーラムのリレー連載スタート
【5】GRIPS開発フォーラム・情報モジュールへのコメント募集
【6】ODA予算に関する緊急提言(ODA総合戦略会議民間委員有志)
【7】わが国のODA戦略について(対外関係タスクフォース)
【8】東アジア開発イニシアチブ(IDEA)閣僚会合の開催
【9】第3回日米CSOフォーラムの開催
―――
【1】8月のBBLのご案内
(7日・貿易・環境、21日・債務問題、28日・パートナーシップ)
米国ワシントンDCには、多数の経済協力関係者が、政府、実施機関、世銀グ
ループ・米州開銀・IMF、企業、NGO、シンクタンク・大学、メディア等
で実務や研究に携わっています。その情報・知見を活かして個人の資格で自由
かつ率直な議論を行い開発戦略に関する政策論議を深める(かつ出席者間の親
睦を深める)とともに、記録を世界各地の関係者に発信して現実の政策立案・
実施に反映させるために、ブラウンバッグランチを開催しています。8月分の
開催予定は次の通りですので、お時間とご関心のある方は是非ご出席くださ
い。(なお、9月以降は、ポスト・コンフリクト、日本と世銀の関係等のテー
マにつき現在調整中です。取り上げるべき関心事項等ありましたらお寄せいた
だければ幸いです。)
[日程・テーマ]
8月7日(水)
「貿易・環境・開発の相互連関と日本にとっての意味合い」
キックオフ:吉野裕氏(ヴァージニア大学経済学博士候補)
8月21日(水)
「途上国の債務問題と日本の役割」
キックオフ:玉木林太郎氏(在米日本大使館公使)
8月28日(水)
「開発パートナーシップにおける日本のリーダーシップ
−日本・UNICEF事業協力を例に考える−」
キックオフ:久木田純氏(UNICEF事業資金部/日本・MDB他担当)
[開催要領(各回とも)]
時刻: 12:15-14:00
(次第)12:15頃から 食事(各自持参)、適宜自己紹介
12:30頃から キックオフ
13:00頃から 自由討議(14:00終了)
場所: JICA米国事務所・会議室
1776 Eye Street, N.W. Suite 895, Washington, DC, USA
Tel: 202-293-2334、Fax: 202-293-9200
出席方法:会場準備等の関係上、開催前日正午までに、本フォーラム連絡担当
(紀谷、info@developmentforum.org、Tel: +1-202-238-6796)に出席を希望
する回と氏名・所属先をご連絡ください。
―――
【2】7月31日のBBLのご報告(PRSPプロセスの改善に向けて)
「PRSPプロセスの改善に向けて−本フォーラムでの議論を総括する−」と
のテーマで意見交換を行いました。キックオフ担当のIMF財政局・緒方健太
郎氏からのプレゼンテーションを受けて、出席者により、テーラーメードの開
発戦略を支援する際の課題、日本のPRSPへの関与のあり方、ガバナンスと
オーナーシップの関係、民間貿易・投資とインフラ整備の方策等につき議論が
行われました。取り急ぎ冒頭プレゼンテーションの概要を次の通り送付しま
す。レジュメ・資料、そして議論も含めた全体の記録は追ってウェブサイトに
掲載する予定です。現在、メーリングリスト(devforum)上で引き続き議論をし
ておりますので、参加されたい方は本フォーラム連絡担当
(info@developmentforum.org)まで氏名・所属・問題関心をご連絡ください。
「PRSPプロセスの改善に向けて」(IMF財政局・緒方健太郎氏)
本フォーラムの色々な局面において、PRSPに関し様々な視点から議論がな
されてきたが、これについて私なりの視点でまとめてみた。この作業において
私なりに疑問に感じた点や気付いた点について、若干の私見もお話したい。こ
れらが、今後の本フォーラムの議論の活性化に資することとなれば幸いであ
る。
1.総論:PRSPとは何か
(1)PRSPが何であったかは重要ではない
PRSPを議論するに当たっては、まず、PRSPとは何であるかを考える必
要がある。この際、もちろん、PRSPとはそもそも何であったのか、何を目
的としていたのか、を究明することはそれ自体無意味ではない。しかしなが
ら、本フォーラムでの議論、国際社会における他の多くの議論を観察してみる
と、PRSPの目的は何であると考えるかは、個々人、組織や国によって、さ
らには議論の進展に応じて時間とともに変化していると見るべきだと思われ
る。硬直的な運用等、多くの批判を受ける世銀自身ですら、PRSPをmoving
targetであるとか、evolving processと呼んでいるとのことであり、経験の蓄
積や議論の進展に応じて軌道修正するのは必至であろう。
そう考えると、PRSPが何であったかは重要ではない。3年後に予定されて
いる再レビューの段階で、現在までの2年余の経験及び今後3年の経験を踏ま
え、PRSPが何になっているか、を見据えていくことが重要であろう。そこ
で、PRSPとは「開発に向けたより良いアプローチの模索プロセス」である
と捉え直してみてはどうだろうか。ただし、もちろん、PRSPは闇雲な模索
を行うプロセスではなく、より良いアプローチが備えているであろう要素につ
いて、一定の作業仮説を置いて模索を行うプロセスである。すなわち、「より
良いアプローチ」が何になるにせよ、貧困削減への適切な配慮、広範な参加プ
ロセス、オーナーシップといった要素を含むであろうという作業仮説である。
(2)我々は何をすべきか
若干結論の先取りにもなるが、PRSPに対して我々(日本)は何をすべき
か、という点に関し、現在までに出されてきた意見を簡単にまとめてみたい。
様々な視点から多くの意見が出されてきたが、概ね、防御的な対応、自己改革
的な対応、そして攻撃的(積極的関与)対応というモードに分類できると考え
る。
(a) 防御編
防御的な対応としてまず挙げられるのが、「PRSPショック」やより直接的
には「貧困削減ショック」に負けるべきではないという点である。開発問題に
はsilver bulletは無く、被援助国や援助国、機関毎の多様性は維持されるべ
きである。そうであれば、PRSP(貧困削減)を画一的に適用しようとする
潮流に流されてはいけない。一方、PRSPが「より良いアプローチの模索プ
ロセス」だと漠然と理解されているとすれば、「我が国はPRSPとは別に独
自に援助する」と言えば、「より良いアプローチの模索とは別枠で援助」と翻
訳されてしまう。したがって、自らの軸足をしっかり定めつつ、我が国自身の
開発援助にPRSPというラベルを貼るプレゼンテーション上の対応が重要で
あろう。
(b) 自己改革編
「防御」といっても、我が国の開発援助が絶対最良であるわけではない。PR
SPが無くとも様々な改革が必要であったであろうし、たとえ実施時に最良で
あったとしても時代の変遷や状況の変化に応じて不断に見直しされるべきもの
である。したがて、PRSPという模索プロセスの過程で得られる様々な知見
から学習し、不断の見直し・改善に資するという姿勢が重要である。例えば、
貧困への理解や、社会改革とマクロ政策の関係、貧困削減と成長の関係等につ
いて蓄積された経験や集約された知見から学ぶものがあろう。また、PRSP
の時代は前述のように「バイ援助は独自に」という姿勢が評価されにくい時代
なのであるから、ドナー協調等についても改善していく必要があろう。
(c) 攻撃編
さらに進んで、PRSPプロセスにより積極的に関与し、貢献していくべきだ
という意見もある。これには、大きく分けてPRSPの枠組みへの貢献と、P
RSPという枠組みに対応する中身への貢献があり得る。特に、枠組みへの貢
献として、後述するように、我が国は、画一的な処方箋ではない各国の状況に
応じた柔軟なテーラーメイドの処方箋への必要性を理解し、そのようなアプ
ローチを(影響力を持って)支持できると考えられ、そのことをもってPRS
Pプロセスに貢献していくことが可能なのではないか。また、中身の貢献とし
ては、東アジアの開発経験の共有が重要である。この点についても、後述のよ
うに、様々な議論がなされている。
(d) 我々の憂鬱
このような我々がなすべきこと、なし得ることに関連して留意すべき点や克服
すべき点を3点指摘しておきたい。
まず、本フォーラムでも多くの指摘がなされてきたように、我が国には開発援
助政策・哲学が希薄で、動きの速い開発社会の展開にうまく対応できないので
はないかという点。確かに、何を議論するにも、まず、「何がしたいのか」が
分からずして「何をすべきか」は導けない。しかし、現実問題として、大上段
に振りかぶった国としての援助政策や哲学を短期に醸成するのは至難であり、
これが成されなければ他は議論できないとなれば前に進めない。
次に、PRSPとMDGの微妙な関係がある。PRSPはMDGを達成する
ツールであり、個々のPRSPにはMDG達成に向けた視点が必要であると言
われている。これ自体はその通りだが、対象国に違いがあることに留意してお
く必要がある。すなわち、MDGは全世界を対象としている一方で、PRSP
は譲許的融資を受ける国のみを対象としている。このようなMDGとPRSP
の狭間に落ちるものに、対中所得国援助がある。たとえば、多数の貧困層を抱
えるインドや中国の問題にどう対処するのか、また、我が国との関連で言えば
ODA上位国である中国・インドネシアへの開発戦略はどうあるべきか、と
いった問題はPRSPの切り口からは答えがでない。
最後に、前述の問題とも関連するが、アフリカにおける開発戦略とアジアでの
開発経験との関係が挙げられる。後述するように、PRSPを含め開発戦略を
議論する際には、どのような状況(段階)に置かれている国を対象として議論
しているのかを明確にしておかないと、議論が噛み合わない。アジアの開発経
験をアフリカに適用可能かどうかを議論する際には、この視点が欠かせない。
2.背景:どれだけ「開発」問題は解明されたか
「より良いアプローチの模索」の本論に入る前に、開発問題の歴史について簡
単に振りかえってみたい。
(1)「開発」とは何か
そもそも「開発」が何を指すかは常に必ずしも明確ではないが、大雑把に捉え
れば以下のような変遷をたどってきている。まず、開発が、典型的には第二次
大戦後の欧州・日本のような戦後復興を指す時代があった。現在も、ポスト・
コンフリクト国の復興という形でこの型の開発が残っている。そして、第二次
大戦後の戦後復興が一段落ついた頃から、開発が、開発途上国の「途上」状態
からの脱却を指すようになる。当初は、開発途上国の定義が低GDPであった
ことから、GDPの増加を意味していたが、途上国の人口急増が顕著となる
と、per capita GDPの増加を指すようになった。さらに、実際にper
capita GDPが増加し始めると、平均値ではなく所得格差が着目され、
income poverty 状態にある者の数の減少を指すようになり、そして、現在の
「貧困削減」へとつながってきている。この「貧困削減」は、貧困を
well-being ではない状態と捉え、貧困のあらゆる局面(income poverty,
illiteracy, poor health, insecurity of income, powerlessness等)へ総合
的に対応することを求めている。
(2)「開発」問題における哲学論争
このように「開発」概念が変遷し、認識が深まっていく過程において、様々な
興味深い議論が行われてきている。しかし、この中には、議論としては興味深
いが、明確に割り切った答えが出し得ないという意味で実益に乏しい、哲学論
争と言うべきものもある。私なりに「哲学論争」だと考える議論について2点
触れておきたい。
(a) 「開発政策」のあるべき姿
その典型と言えるものは、「開発政策のあるべき姿」に関する論争である。す
なわち、50~60年代に主流であった、国家統制と輸入代替があるべき開発
政策だとする議論と、80~90年代に主流となった、小さな政府と自由市場
こそあるべき開発政策だとする議論の対立がある。これは、その後、いずれか
の政策だけでは成功しないことが認識されるようになり、制度構築(教育制
度、司法・裁判制度、効率的な官僚組織、強力かつ良く統制された金融システ
ム、十分な競争、等)の重要性に軸足が移されるようになった。
そして、99年のPRSP登場以降は、PRSPこそが開発政策のあるべき姿
であるとの見方が出てきている。しかし、良く指摘されるように、PRSPは
プロセスであって開発政策そのものではない。そして、PRSPが、必要な政
策(国家統制・輸入代替、小さな政府・自由市場、制度構築等)のベストミッ
クスとなれば良いが、単なるshopping list となっては開発政策としての意味
はない。
(b) 開発、成長、貧困削減
より哲学論争的なのは、開発、成長、貧困削減の3者の関係に関する議論であ
る。すなわち、「成長と貧困削減を併せて開発」とするか、「貧困削減が開発
であり、成長は貧困削減の手段である」とするか、「成長が開発であり、貧困
削減は成長の手段である」とするか、様々な考え方がある。もちろん、3者の
関係につき恒等式が存在するわけもないし、極端に割り切った議論をする者も
少ないが、成長と貧困削減への軸足の置き方には論争が絶えない。
この論争に関し、国際社会(というより世銀・IMF)の現時点での解答は、
(PRSP策定国の)開発にとって、「良好な投資環境」と「貧困層への投資
・エンパワメント」の2点が重要な要素である、というものである。長期的な
視点から見れば、維持可能な貧困削減には持続的成長が不可欠であるという点
に反対する者はなく、持続的な成長には良好な投資環境(マクロ経済の安定、
貿易自由化、ガバナンス、制度構築等)が重要であろう、というのが1点目。
2点目は、成長する際に貧困層が取り残されないよう貧困層が成長に参加でき
るようツールを付与する、という考えと、貧困層への投資・能力付与により成
長が達成できるという考えからきているが、後者の関係については未だ実証さ
れてはいない。
3.本論:より良い開発へのアプローチに向けて
以上のような議論を踏まえ、それでは、結局、より良い開発へのアプローチに
向けて何をすれば良いのか。現在、開発に効果があると思われる政策のメ
ニューは十分に揃っている。しかし、実行したら良さそうな政策を全て並べて
みたshopping listを策定したところで戦略とは言えない。確かに全部実行で
きれば開発は成功するのかも知れないが、それができないからこそ開発途上
国、貧困国の問題があるのではないか。より良いアプローチとするためには、
当該国が直面している様々な制約要件の下で、政策間の実施の順番(シーケン
シング)を吟味し、政策をどう優先順位付けしていくのかが重要であり、この
視点が、現在のPRSP策定には欠けがちなのではないか。
(1)Shopping List は戦略ではない
あり得る政策を並べたshipping listから戦略に脱皮するには何が必要か。ま
ずは、当該国が直面する制約要件を見極めることではないか。制約要件には、
ファイナンス(予算)上の制約、キャパシティ(人的・制度的)の制約、貿易
・投資環境(物理的・制度的)の制約等が考えられる。これらの制約要件下で
実施できる政策には限りがある。また、政策は実施する順番によって効果が異
なり(例えば、金融セクター改革と市場開放はどちらを先にすべきか)、更
に、政策には様々なトレード・オフがある。これらを見極め、必要な政策とそ
の実施順番を決定するのが理想的であると思われる。
しかし、政策間の優先順位付けやシーケンシングの判断をし、適格な戦略を描
くほどの知識を国際社会は有するに至っていない。PSIA(政策の貧困・社
会に与えるインパクトの分析)はまだ緒についたばかりだし、政策間のリンク
やトレード・オフの研究もまだまだこれからである。さらに、MDGを達成す
るためには年間500億ドルの追加的援助が必要、とした世銀のレポートのよ
うに、ファイナンスの制約要件が解放されれば良いとするアプローチに逃避し
がちである。しかし、理論的には十分に資金があればほとんどの問題は解決さ
れるとしても、非現実的なファイナンスを云々しても意味は乏しく、現実的な
ファイナンスの制約の下で何が可能かを議論しなければならない。いずれにし
ても、PSIA等この分野の研究は国際社会側の課題として、今後とも取り組
んでいかなければならない。
とは言え、開発は現在存在する現実の問題であり、これらの研究が完成するま
で待つわけにはいかない。したがって、有効性や波及効果がはっきりと分から
なくとも、できるところからやるしかない。ただし、現在でも可能なこととし
て、まず、制約要件のアセスメントを出発点とするべきである。そして、最低
限、制約要件が類似している国毎、すなわち発展段階毎の対応が整理されても
良いのではないか。
(2)発展段階毎の整理
発展段階毎の整理には様々な切り口があり得、本フォーラムでもいろいろと議
論されてきていると思う。特に、朽木氏が提唱された(本年2月の「CDF・
PRSPを越えて−開発戦略における日本の付加価値」)、経済政策の優先順
位付けのフローチャート(社会的生活水準の達成→安定化政策→ハードとソフ
トのインフラ整備→経済自由化(貿易・投資・金融)→成長戦略→所得格差の
是正)は非常に参考になる。
ここでは、私なりにファイナンスの制約要件を中心に発展段階を整理したもの
を、あくまで例示として提示したい。なお、このような議論を行う際には、具
体的にどのような国々について議論しているのかを明確にしておくことが重要
である。この観点から、PRSP対象国を世銀のマニュアルを下地に一覧表に
まとめたので、これを参照しながら考えていただきたい。
段階1:「最低限の安定」確立期
まず、紛争当事国やポスト・コンフリクト国といった、いかなる政策を実施す
る際にも最低限必要な安定すら確立されていない国。これらの国は、当然にし
て、紛争の終了・最低限の政治的安定の確保が優先課題である。そして、これ
らの国に対する援助は復興支援や人道的援助に限定され、したがって、PRS
Pの役割もNGO等の広範な参加の確保に限定されよう。
段階2:「対外信頼」回復期
次に、HIPC適用国(DP(decision point)到達国、CP(completion
point)到達国)が典型であるが、対外信頼が損なわれ、近い将来において対外
資金、特に民間資金の流入が期待できない国。これらの国は、いわば破産宣告
若しくは禁治産者宣告を受けたようなもので、民間資金・バイの資金の流入が
再び可能となるよう対外信頼を回復することが優先課題である。
表からも分かる通り、現在PRSPを策定している国のかなりの部分がHIP
C適用を契機にPRSPを策定している。これらの国のファイナンス上の制約
要件を考えれば、例えば民間資金を前提とした成長戦略をすぐに実施できるわ
けではなく、採り得る政策オプションも限られており、PRSPの内容が貧困
削減に重点を置いたものとなることは自然である。しかし、これらの制約要件
を共有しない国に対し、同様のPRSPが求められるとすれば、問題であろ
う。
段階3:「良好な貿易・投資環境」整備
この段階と、次の適切な成長期は、かなりの部分がオーバーラップすると考え
られるが、ここでは敢えて段階を分けてみた。最低限の安定が確保され、一定
の対外的なファイナンスも期待できる国は、政策オプションが非常に広がるた
め、実施国自身の選択による政策の優先順位付け・シーケンシングが非常に重
要になってくる。PRSPも、ドナー間の協調や個々のプロジェクトとマクロ
政策との整合性確保といった、難しい問題に対処することが期待されるであろ
う。
段階4:適切な成長
上記のような段階を経て、成長に可能な最低限の要素が揃ってきている国は、
貧困層が参加する成長をいかに確保するかが優先課題となる。PRSPの役割
としても、貧困層への投資・エンパワメント・参加が重要となろう。
(3)我が国が貢献できる可能性
最後に、このようなPRSPプロセスに我が国が貢献できる可能性について考
えてみたい。
まずは、前述のような発展段階毎の対応や、個別国における対応において、画
一的ではない、当該国の状況に応じた柔軟な対応が必要なことへの理解が挙げ
られる。我が国は、資本主義に対して柔軟に対応する素地があるし、ワシント
ンのように貿易自由化を無条件に良しとするドグマも無く、金融システム改革
を常に最優先すべきであると考えているわけでもない。したがって、その国々
に応じて政策をテーラーメイドする必要性への理解と実効性ある支持を与える
ことが、我が国の付加価値となり得るのではないか。
また、東アジアの開発経験の共有を通じた貢献の可能性もある。この際、東ア
ジアの開発経験をツール化・製品化して(アフリカ諸国等と)共有するのが良
いという意見もあるが、個人的には、成功事例として参照し得る状態にしてお
くことが有効な共有ではないかと考える。前述のように、重要なのは、当該国
の置かれた制約要件下において当該国自身がどのような政策を選択するかであ
るから、東アジア諸国の置かれていた制約要件と実施された政策及びその結果
から、当該国が必要な事項を学び取るのが最良ではないか。
(以上は、これまでの本フォーラムでの議論を踏まえたものですが、個人の資
格で行ったプレゼンテーションであり、所属先や本フォーラム自体の立場を述
べたものではない点ご留意いただければ幸いです)
―――
【3】「地球に乾杯!NGO」新着情報
http://MyWebPages.Comcast.net/NGOcolumn
本フォーラム幹事の杉原ひろみさんがモデレーターとなって、米国NGO職員
の視点、米国NGOのアドボカシー活動、イギリスNGO事情、企業とNG
O、マイクロファイナンス等、多彩な内容を盛り込んだリレー・コラムを通
じ、NGOの持つダイナミズムを分析し、上記ウェブサイトで紹介していま
す。本フォーラムでのNGOに関する情報発信の少なさを、当コラムで補完で
きれば幸いです。
[最近のコラム・リスト]
8月5日 チャリティ・ショップ(黒田かをり)
8月2日 米英ネットワークNGO比較(杉原ひろみ)
−「政策重視」のアメリカと「オタク文化」のイギリス−
7月29日 アメリカNGOのアドボカシー活動(杉原ひろみ)
7月26日 ジンバブエのマイクロファイナンス(MF)強化に取り組んで
(粟野晴子)
7月24日 World Learning Business Solutions(WLBS)について
(坂本欣也)
7月19日 イギリスのNGO事情(3)(黒田かをり)
7月17日 NGOとコンサルティング会社の違いは?(上岡直子)
今後はさらに、USAIDとNGOとの法的関係とNGO活動に及ぼす影響、
アメリカNGOのネットワーキング、マイクロファイナンス研修(コロラド州
ボルダーよりレポート)等をご紹介いたします。
―――
【4】国際開発ジャーナル9月号から本フォーラムのリレー連載スタート
月刊・国際開発ジャーナルのご協力により、同誌9月号から1年間の予定で
「『ワシントンDC開発フォーラム』リレー連載/グローバルな開発戦略と日
本の関わりを考える」がスタートします。9月号には世界銀行・資源動員協調
融資担当副総裁の日下部元雄氏の「開発における日本の知的貢献のあり方」が
掲載される予定です。(なお、同誌8月号には、「開発戦略のネットワーキン
グをめざして−ワシントンDC開発フォーラム−」という小記事が掲載されて
います。)
―――
【5】GRIPS開発フォーラム・情報モジュールへのコメント募集
GRIPS(政策研究大学院大学)開発フォーラムでは、WSSD(持続可能
な開発に関する世界首脳会議)サイドイベントおよび将来のために、情報モ
ジュール(ある特定のテーマに特化した英語のWebで、Webにおける?リンクの
柔軟性、?更新可能性、?開示性、をフルに利用した情報発信形態)を作成し
ています。
既に、「ベトナム(Diversifying PRSP: The Vietnamese Model for
Growth-Oriented Poverty Reduction)」と「東アジア(East Asian
Experience in Economic Development and Cooperation)」を作成中で、コメ
ントを募集中です(ワシントン開発フォーラムのメーリングリストでも数名か
らコメントが出されています)。前者はWSSDでのJBICセミナー(2002
年8月30日)および外務省セミナー(2002年9月1日)、後者はWSSDでの経済
産業研究所・経済産業省セミナー(2002年9月1日、
www.rieti.go.jp/jp/events/02090101/info.html)に使用します。メインペー
ジ等が次のウェブサイト上で閲覧可能ですので、ご関心のある方はご覧いただ
き、コメントをお寄せ下さい。
www.grips.ac.jp/forum/
今後、ベトナムの産業貿易研究 、Best mix論(グラントとローン、援助形態
など)、Aid nonfungibility and shared responsibility、Selectivityと
good governanceの基準の多様性、グローバル化時代の後発国工業化戦略、ア
フリカ、中国(国際分業、ODAのあり方など)をはじめ、わが国の開発援助に
とって重要な問題を一つずつ取り上げていく由です。
【6】ODA予算に関する緊急提言(ODA総合戦略会議民間委員有志)
8月2日、ODA総合戦略会議の民間委員有志はODA予算に関する緊急提言
を行いました。簡潔なので全文を次の通り引用します。ウェブサイトは次の通
りです。
www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/seisaku_1/senryaku/index.html
ODA予算に関する緊急提言(平成14年8月2日)
「ODA総合戦略会議」民間委員有志は以下の緊急提言を行う。
1.日本のODA予算は過去3年にわたり削減が続き、削減率は一般歳出及び
他の主要経費(防衛関係費、公共事業関係費)を大きく上回った。その結果、
ODA予算はこの5年間で2割以上の削減である。
他方、欧米諸国は、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降、お
DAの大幅な増額方針を打ち出し、開発途上国の諸問題により積極的な取り組
みを見せるようになった。日本のODA予算を巡る動向は、国際社会の大きな
注目を集めざるをえない。
2.アジア・アフリカなどの開発途上国においては、解決を要する開発問題が
なお山積しており、ODAは日本が外交を展開する上での重要性を益々高めて
いる。
このような状況に鑑み、「ODA総合戦略会議」は、ODAの構造改革を当
然の前提としつつ、ODA予算の重点的・戦略的な活用を可能にするODAの
制度的枠組みづくりに取り組み始めた。
3.われわれは、ODA予算削減が国際社会の失望を招き、長年にわたって培
われてきた信頼関係を損なってしまうことを懸念する。ODAを一層効果的・
効率的に実施していくことは当然であるが、ODA予算は軽々に削減されるべ
きではない。日本の経済力・国際的責任に見合った規模のODAの確保を強く
求める。少なくとも現在の予算規模は維持されねばならない。
―――
【7】わが国のODA戦略について(対外関係タスクフォース)
7月25日、小泉総理の私的助言機関「対外関係タスクフォース」(座長・岡
本行夫内閣官房参与)は「わが国のODA戦略について」と題する報告書を総
理に提出しました。項目は次の通りです。
1.ODAは極めて重要
2.ODA削減論は慎重に
3.ODAの基本戦略の策定とプロセスの透明化
4.ODAの全体戦略
5.中国に対するODA
6.平和構築への活用
7.その他の重要な点
本フォーラムで頻繁に議論されている論点である「4.ODAの全体戦略」部
分を引用します。
わが国のODAは、(A)国益に直結した援助、(B)国益に直結するとは言
い難いものの国際社会の一員として引き受けるべき応分の負担、とに大別され
よう。
当タスクフォースとしては、(A)の援助について次のように考えている。
第一はわが国にとって重要な地域であり、わが国の援助供与対象になじむ国へ
の援助である。第二は地理的範囲に拘わらずわが国にとって重要な分野への援
助である。
両者の重なり合ったところを第一優先援助、重なり合わないが両者のいずれか
に属するものを第二優先援助として考える。
(1)わが国が優先して援助を行うべき重点地域は次の通りと考える。
(イ)アジア
シンガポール、マレーシア、タイ等のめざましい発展は明らかにわが国の国
益に直結した。今後は潜在能力の極めて大きいインドネシアへの支援継続、
フィリピンはもとよりベトナム、カンボジア及び(最近の状況変化を踏まえ)
ミャンマーといった一部ASEAN及びモンゴルといった後発東アジア諸国へ
の支援等が重要である。
また、インド亜大陸にあって、インド、パキスタン、バングラデシュへの支
援を通じた安定化を図るべきである。
(ロ)中東・中央アジア
中東和平プロセスの推進とエネルギー確保の観点から中東及びカスピ海沿岸
諸国、更にアジア大陸に力のバランスを維持するうえで重要な中央アジア5カ
国との関係強化が必要である。
(2)わが国が優先して援助を行うべき重点分野は次の通りと考える。
(イ)わが国とアジア諸国の経済連携を進める目的で、東アジアの経済統合と
成長を支援するための基盤整備
(ロ)以下の分野であって、わが国の国益に直結するもの
? 世界が一体化する中で相手国の状況がそのままわが国に直接的な影響を及
ぼすものへの対策。例えば、伝染病・大気汚染・麻薬等への対策、森林保護、
エネルギー資源確保、省エネルギー技術等。
? 紛争・テロの温床となりやすい開発途上国の貧困の除去
? 選挙監視、ガバナンス支援等の平和構築
(ハ)留学生(私費留学を含む)の受け入れや支援体制の拡充。
文化・学術交流など相手国内における対日理解を増進するための援助
(3)アフリカの貧困支援は、カナナキスサミット及びWSSDにおいて世界
の重要課題となった。わが国は、他の欧米諸国が冷戦終了後に援助疲れを口実
にアフリカへの関心を失っていた時期にその重要性を世界に向って説きつづけ
てきた経緯がある。この点を想起しつつ、一定レベルの援助は行うべきであ
る。
(全文は総理官邸のウェブサイトに見あたりませんでしたので、dev-infoの共
有フォルダにアップロードしました。www.egroups.co.jp/group/dev-info/に
アクセスしてログインし、左側の「共有フォルダ」をクリックすれば見つかり
ます。)
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【8】東アジア開発イニシアチブ(IDEA)閣僚会合の開催
本件につき7月31日に外務省より次の通り発表されました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/14/rls_0731f.html
東アジア開発イニシアチブ閣僚会合の開催について(平成14年7月31日)
1.東アジア開発イニシアチブ(Initiative for Development in East Asia:
IDEA)閣僚会合は、8月12日(月)、東京(帝国ホテル)において、外務省主
催で開催される。なお、このイニシアチブは、小泉純一郎総理大臣が本年1月
に東南アジア諸国を訪問した際に表明した「共に歩み共に進む」との考えの
下、開発分野で打ち出した新しい外交イニシアチブである。
2.この会合には、わが国からは川口順子外務大臣および杉浦正健外務副大臣
のほか関係者が、ASEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオ
ス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)
と中国、韓国の12カ国からは、それぞれ外務大臣と開発担当大臣が参加する予
定である。
3.この会合では、東アジア諸国の開発努力が経済発展を実現した中で、政府
開発援助(ODA)が果たした役割を振り返ると共に、東アジア地域の今後の繁
栄と安定に資する開発戦略およびODAを通じた開発協力のあり方について、自
由に意見交換を行う予定である。
4.また、この会合は、開発への取り組みが国際的にも高い関心を集めている
ことを踏まえ、8月末から南アフリカのヨハネスブルグで開かれる「持続可能
な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」、および来年後半に開催予定の「第三
回アフリカ開発会議(TICAD III)」を念頭に、東アジア地域の開発戦略・開
発協力に関する知見をアフリカを含む他の地域と共有し、開発に関する国際的
な議論に貢献することを目指して行われる。
5.なお、閣僚会合の終了後、議論の成果を文書としてまとめ、公表する予定
である。
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【9】第3回日米CSOフォーラムの開催
9月17−18日、ワシントンDCのAcademy for Educational Development
(AED)会議場にて、「第3回日米CSOフォーラム〜グローバルな現実と日
米CSOの新たな役割〜」が開催されます(CSO連絡会・Pact共催)。
「北」のNGOの新しい役割、グローバル・シビル・ソサエティと新たなルー
ルづくり、平和構築へ向けての世界各地における取り組み、「地域に根ざした
開発」との意味、政府開発援助の質と量の向上、民間セクターの開発における
役割等のテーマが取り上げられる予定です。詳細は次のCSO連絡会のウェブ
サイトをご覧下さい。
http://www.csonj.org/forum.html
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このdev-info(ワシントンDC開発フォーラム・情報サービス)では、ブラウ
ンバッグランチをはじめとする本フォーラムの活動情報や、より広く開発戦略
と日本の関わりについての主要情報を、週1回を目途に送付していきます。皆
様方におかれては、掲載すべき情報等ありましたらご示唆いただければ幸いで
す。本情報サービスをご希望の方は、下記連絡担当まで、氏名・所属・電子
メールアドレスをご連絡ください。
ワシントンDC開発フォーラム(連絡担当・紀谷)
www.developmentforum.org
info@developmentforum.org