ワシントンDC開発フォーラム244回BBL議事録 2014年11月5日(水)12:30-14:00
「東日本大震災大津波から3年半:壊滅したまちを世界に誇れる美しいまちへ 陸前高田市」
村上 清 (陸前高田市市政アドバイザー、岩手大学客員教授兼グローバルアファアーズ・アドバイザー)
【発表内容】
・村上氏の主なキャリアは外資系金融機関であり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)人事部で5年間勤務。現在は、陸前高田市市政アドバイザー、岩手大学客員教授兼グローバルアファアーズ・アドバイザー、AidTAKATA(NPO)代表、いわて文化大使として活動
東日本大震災大津波で陸前高田市市民24,000人のうち1,800人が犠牲になった。そして、まだ207人が見つかっていない。高田松原の7万本の松のうち、残った1本が「希望の一本松」や「奇跡の一本松」と呼ばれている。
・村上氏は震災発生4日目から陸前高田市に入る。陸前高田市市長らと共にUNHCRのEmergency Preparedness Plan(緊急事態計画)などももとにしながら、やるべきことをリストアップし活動を行った。
・陸前高田市市職員300人のうち115人が犠牲になり、また市庁舎も無くなった。そのため、唯一残った公共施設である給食センターで活動を展開した。
・電気などがない状況下で、情報入手や情報伝達が困難であった。そこで、毎朝3,000枚の市臨時広報誌を作成し、各避難所に配布するという紙ベースでのコミュニケーションツールを活用した。この臨時広報誌配布は50日間続いた。
・陸前高田市復興予算として約1,300億円の予算が計上。通常の陸前高田市の予算は約100億円であるため、約13倍の予算を貰っているが、この予算を管理できるスタッフを確保する必要がある。
・被災度合いによって復興スピードが変わってくる。陸前高田市の被災度合いは最悪であり、そのため復興スピードも遅くなっている。Build back Better(震災前よりもより良いまち作り)を切り出したが、新しいまちづくりの概念がなかなか理解されない。なお、陸前高田市では5,000世帯が移転する必要がある。
・復興に向けた工事を進めたいが、土地所有者が亡くなってしまい財産権の絡みなどから、なかなか工事許可をもらえないことも進捗状況が遅れている一因である。
・陸前高田市では高さ12.5mの防潮堤を建設し、更にまち全体を10m盛土により嵩上げする予定。10トントラックで土を運搬するとそれだけで10年かかるところ、土砂運搬用の世界最大ベルトコンベヤーの導入により土砂運搬作業が1年半で終わる見込みである。
・現在約6,000人が仮設住宅で生活しているが、この数字は3年間あまり変わっていない。
・まちづくりを行おうとして亡くなった人々の意思を継いで、「世界に誇れる美しいまち」を作り、その姿を世界中の人々にも見てもらいたい。
・「世界に誇れる美しいまち」にするには、住む人々が美しい気持ちを持たなくてはいけない。そして、心の面でもハード面でもバリアフリーを目指し、高齢者、障害者、女性、子供などが差別されない優しいまち(ノーマライゼーションという言葉のいらないまち)を作りたい。
・ノーマライゼーションという言葉のいらないまちを目指し、役所内に若手を中心としたワーキンググループを立ち上がった。また陸前高田市で国連防災会議公式シンポジウム開催も予定している。
・陸前高田市出身者が中心となって活動を行っているAidTAKATAでは、臨時災害FM放送局を立ち上げ24時間放送を行っている。
・陸前高田市ゆるきゃら「たかたのゆめちゃん」は350のデザイン案から、地元小中学生の投票によって選ばれた。耳は一本松、そして鞄には陸前高田市の市花である椿がモチーフになっている。なお、この鞄にはみんなの夢が詰まっている。
・震災後、経済活動が一切なくなったことから、陸前高田市が使えるお金を作り出すためにクッキーを生産し販売を始めた。このクッキーは静岡県の工場で作られている。また、高田松原の被災松をキーホルダーにするなどの活動も行った。
・陸前高田市写真展を、銀座三越、東京芸術劇場(立教大学の学生と共に)、国連などにて開催。
・シンガポール政府からの7億円の支援金をもとにした、コミュニティーホールが2015年3月に完成する。そのほか、イタリア政府から移動図書館、アメリカ政府からは子どもの教育に対する支援を受けている。
・日米高校生会議の一環で、3年前から米国の高校生が陸前高田市を訪問している。そこで、陸前高田市の高校生30人も含めて、復興に向けて高校生の立場では何が出来るかといったディスカッションも行っている。
・グローバル教育の一環として企業の協力ももとに、アメリカ大学生による英語キャンプやNBA選手によるバスケットボール指導なども行っている。
・今後は、グローバル教育、避難マニュアルの見直しにも力を入れたい。
【Q&A】
Q. 震災発生時、どのように自衛隊や警察・消防が共同していたか。またそれがどうマニュアルに盛り込まれたか。
A. 震災発生時は自衛隊や警察・消防は、派遣要請を出す前に自ら救助にやってきた。行政マニュアルは県レベルでの検証をもとに盛り込まれている。
Q. 陸前高田市での新しいビジネスモデルはどのようなものが考えられるか。
A. 高齢者医療・医療器具を取り扱う会社を誘致するなど、高齢者シリコンバレーが考えられる。また研究所なども誘致したい。
Q. 東北地方では仕事が無いために地元を去る若者もいる。どのようにして若い人たちを地元に定着させることができるか。
A. 若い人たちには一度地元を離れて色々と学んで欲しい。そして、新しいビジネスモデルや研究テーマといったアイディアを持って戻ってきてもらいたい。パラリンピックの合宿所が無いので、こうした施設を被災地に作りたいとも考えている。
Q. 復興はスピードも求められると思うが、Build back Betterとのバランスは。
A. 仮設住宅に住む住民も、早く住む場所を作って欲しいと思っている。現在も土地の嵩上げなどを行っており、まちづくりのディスカッションは様々な団体を巻き込みながら行っている。
Q. 実際に何名程度の住民を想定してまちづくりをおこなっているか。
- 25,000から30,000人が表向きな数値であるが、2030年には10万人を目指したい。そのためにも魅力ある産業を作る必要がある。
Q. 防潮堤と嵩上げをすることでどれだけ次の震災を防ぐことが出来るのか。また、なぜ山を削った場所に住居を建設しないのか。
A. 12.5mの防潮堤と10mの嵩上げで、500-600年間規模の津波は防ぐことが出来る。また山を削って居住エリアを建設することはコストが割高になってしまう。しかし、人命が第一であり、1,000年規模の津波が発生した場合でも、居住エリアに津波が到達しないまちづくりのデザインが計画されている。
以上