2013年9月27日に開催された第21回ワークショップ「被災地のその後:子どもの学びとコミュニティ復興の現状と課題−官民の垣根を越えて被災地を支援するプロジェクト結からの報告−」の議事録です。
【テーマ】
「被災地のその後:子どもの学びとコミュニティ復興の現状と課題−官民の垣根を越えて被災地を支援するプロジェクト結からの報告−」
東日本大震災から2年半が経過し、日本国内では被災の記憶の風化が懸念されはじめました。一方で復興の歩みはきわめて遅く、仮設住宅の大半の入居者は、当初予定より仮設生活の延長を余儀なくされ、その後の展望も見えない状況が続いています。こうした状況下での、被災地のコミュニティ復興や、子どもたちの学習を取り巻く課題はどこにあるのか、またこうした課題に対し、行政やNPOはどのようなアプローチを行っているのか。プロジェクト結が開発フォーラムのワークショップで発表するのは昨年1月に続いて2度目ですが、当時からの変化と現在の課題についてお話しいただきました。
なお、プロジェクト結は、世界銀行の知識経営担当官である荻原直紀氏が長尾氏、中川氏らとともに震災直後に立ち上げました。
プロジェクト結の詳細は、以下のウェブサイトを参照ください。100期を超えるボランティア派遣(放課後の子どもの学びと遊びの支援)、学校の教職員の諸活動支援、託児所運営、子どもたちの非日常的な学びの支援を4本柱に活動を展開中です。
ウェブサイト:http://project-yui.org/
「被災地のその後:子どもの学びとコミュニティ復興の現状と課題−官民の垣根を越えて被災地を支援するプロジェクト結からの報告−」
荻原さんよりプロジェクト結設立の経緯について説明があった後、長尾さんより、石巻の現状の説明がありました。
・仮設住宅の入居者(石巻市内で現在約15,000人)は抽選で決められたため、異なる地域に住んでいた住民が一つの仮設住宅団地に住んでおり、これまでのコミュニティが分断されている。また、復興が進むにつれ仮設住宅からは少しづつ人が減っていくが、、結果として、社会的弱者が仮設に取り残されてしまう。
・がれき処理の終わった土地の多くは、いまだ利用計画が立っておらず、更地のままになっている。復興住宅は、復興の全体計画が進まないこと、一部の高台の地価の値上がりや、地下を走る下水道が深刻な被害を受けたことが影響し、、着工率が2%という現状である。しかし、復興が進んでいない現状は、日本でもあまり知られていない。
次に中川さんよりプロジェクト結の活動が紹介されました。
・ここ3,4か月の取り組みとして、託児所と学童保育の両方ができる「結のいえ」を開設。自分の子どもを連れて働く保育士さんや、就職活動のために子どもを預けるお母さんが利用している。ママコミュニティの構築も支援。
・学校のサポートは、忙しい先生の代わりに先生でなくてもできる作業を手伝い、先生には子どもと関わる本業の時間を増やしてもらうことを目的とした活動を実施。被害を受けた図書室を再開するため、寄付で集まった本に番号とカバーをつけ並べる作業や、プール開き前の清掃、登校時の見守りを実施している。
・各仮設団地の集会場で、放課後の子どもたちを対象とした学び・遊びの支援も実施。
最後にこれからの課題として、「ひと、かね、もの」の不足、特に地元で活動をリードするリーダー格の人材の不足が挙げられました。また、復興住宅への入居が抽選で進めば、今度は「復興住宅コミュニティ」の構築が再び必要になるといったように、支援活動は長期戦でもあります。長期的に支援するためには、人とのつながりを大切にする、支援団体がしたいことをするのではなく、地元に頼まれたことをするという姿勢が重要ということでした。
質疑応答
〇ボランティアは需要と供給のミスマッチが問題。震災直後にはボランティアをしたいという連絡が市役所に殺到したが、市役
所では目前の業務で精一杯でそうした要請を断ることもあった。一方で震災から2年経つと、ボランティアセンターはがらがらである。
→学校事務等、行政の業務を手伝うことも活動の1つ。タイミングの悪さに対しても、各企業や支援団体やりたいことと、学校や現地の要望の間にプロジェクト結が入ることで、ニーズとシーズを交通整理する役割を果たしている。こうしたコーディネーションも、試行錯誤の結果である。
〇訪米は寄付を集めることが目的か?
→「結」の活動を通じて、東北からリーダーを育てたいと思っている。そのために資金は必要。確かに日本より厳しい生活環境を強いられている途上国もあるが、そのような国に乗り込み、自分たちの経験を伝授していくようなリーダーが東北から出てきてほしいと思う。また活動がサステイナブルなものになるよう、利用者から料金をいただいたり、一定額が「結」の支援に回る自動販売機を設置する等、寄付以外の収入を広げている。また前回同様、DC訪問は個人・団体との提携ネットワークの拡大が主要な目的。
〇今回の訪米で、アメリカの方々に震災をどのように伝えたいか。
→まず支援に対するお礼を言いたい。また震災のことを話すのに気を付けているのは、相手にとっては自分の話したことがすべてとなってしまうので、自分の話は一例であると断るようにしている。
〇被災地の学校における現在の問題は何か。
→運動場や公園の不足。また人事異動で震災を知らない先生が増え、被災した先生が震災のことを話しづらい環境になっている。
〇子どもの精神面のケアは難しいと思うが。
→放っているふりをして気にかけているぐらいがちょうどよい。一緒にいるたけでよい。自分で問題を乗り越えることができる子どももいる。
来場者は約25人、プレゼン終了後にネットワーキングを含めた懇親会が行われました。
第21回ワークショップ「被災地のその後:子どもの学びとコミュニティ復興の現状と課題−官民の垣根を越えて被災地を支援するプロジェクト結からの報告−」議事録
- 第20回ワークショップ議事録: 9月12日(木) 「Crowd sourced price data collection-途上国支援のための新しい統計のあり方を考える」
- 第22回ワークショップの議事録:10月10日(木)「インターネットが紡ぐ教育イノベーション?BoP出身者が国作りを担う日を夢見て」