第34回ワークショップ議事録:8月25日(火)「新興国における医療事業とその投資機会」

【第34回ワークショップ議事録】

 

8月25日(火)、IFC(国際金融公社)でAssociate Investment Officerとして活躍されている瀬川さんをプレゼンターに迎え、「新興国における医療事業とその投資機会」をテーマに第34回ワークショップが開催されました。

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【テーマ】「新興国におけるヘルスケアの事業機会」

【プレゼンター】瀬川 剛(せがわ つよし) IFC Associate Investment Officer

2007年京都大学経済学部卒、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、エスエス製薬流通戦略本部を経て、マサチューセッツ工科大学経営大学院修了。2014年9月よりIFC YPP (旧Global Transaction Teamプログラム) にて入行、アソシエイト・インベストメント・オフィサーとしてヘルスケア・教育・小売・不動産等を担当。

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【プレゼンテーション】

  1. 世界銀行グループであるIFCは何をしている所か。

IFCは世界銀行グループの中で民間部門投融資を実施。対象は民間部門のみ(PPP含む)。プロジェクトの要件は、対象国が「新興国」 (アジアの場合、マレーシア・韓国等は卒業)であり、100%商業案件、且つ開発効果が見込める案件であること。提供しているサービスは、金融商品として、ローン、株式、メザニン、貿易金融等を提供している。更に、アドバイザリーとして、 PPP、ガバナンス、マクロセクターリサーチ、バイサイドアドバイザリー等も提供している。

2. IFCのヘルスケアチームは、何を目標に投融資・アドバイザリー活動を行っているか 。

貧困削減、ヘルスケアサービスの普及に向けて、IFCヘルスケアチームは三つの目標を設定。(1)Financing of integrated healthcare networks to increase quality and access to affordable healthcare (手の届くヘルスケアサービスの品質とアクセスの向上)、(2) Financing of product production and product distribution companies to increase access to affordable drugs(手の届く薬のアクセスの向上)、(3)Advisory and convening work to ensure replication of best practices in cost efficient health delivery systems (新興国の民間セクターのベストプラクティスの横展開)。

3. IFCのヘルスケアセクターチームはどういう体制で、どのような業務をしているのか。

IFCヘルスケアチームは、現在約30名(ワシントンDCに10人前後、地域・カントリーオフィスに20人前後)及び2人のインダストリースペシャリストで構成。年間約15件の投融資を実施している。

日々の業務は、 (1) 融資案件開拓(問い合わせ案件対応、対象顧客リストアップ、アプローチ、案件組成)、(2)投融資実行(予備審査、本審査、契約書の締結、払い込み)、(3)ポートフォリオ管理(ローンの支払いチェック、延滞時の回収、出資案件のモニタリング、売却等の計画・実行、IFCの収益管理、(4)各セクターの投資戦略策定(対象セクター、ニーズの特定、ターゲット国、具体的な会社リストの洗い出し、投融資におけるIFCの付加価値、開発効果の特定等)。

4. IFCのヘルスケアにおける付加価値とは。

過去の100件以上の投融資実施経験を通じて、 (1)ビジネスモデル設計、(2)海外進出支援、(3)パートナーシップ紹介、(4)プロジェクト設計支援、(5)デューディリジェンス知見共有、(6)運営支援、(7)ブランディング を各分野において提供されている。

5. 新興国ヘルスケア市場の民間投融資におけるIFCの実績。

FY2015年において、ヘルスケアチームは16プロジェクト、計8億9200万ドルをコミット。サブセクター別でいくと、病院・医療サービスプロバイダー分野、ライフサイエンス分野、医療テクノロジーの順に大きい。これまで53ヶ国で民間投融資を実施。

6. 新興国の病院セクターでどういう事業機会があるのか(日本事業者)。

病院JVへの参画、病院PPP案件、新興国病院チェーンと提携、新興国病院チェーンの展開の四つを紹介。具体的に、病院チェーン展開の事例・成功要因を説明。

7. 日本の事業者が新興国ヘルスケア市場(病院)を攻める上で何が課題になるか。

日本の事業者のチャレンジは、日本式医療の海外展開の難しさ、構造的な課題(医療法人の投資体力、非医療法人の病院経験)、海外病院事業として後発、アジア市場の競争激化等が存在。従って、後発で効果的に市場に参入するためには「工夫」が必要。

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【質疑応答】

Q. IFCヘルスケアチームの1つ目の目標に関して、どのような人々を対象にしているのか。 世銀の目標の最貧困層40%のことか。

A. IFCの投融資案件において対象とする層は国の発展段階により異なる。例えばタイであれば既に中間層向けサービスが民間で提供されているため、ある程度の貧困層をターゲットにした案件でないと開発効果を見出しにくい。一方、ラオスのような国の場合は、富裕層を対象とした自国民間医療サービスすらほとんど提供されておらず、この層がタイに流出しているという現状がある。この場合は将来を見越して自国のハイエンド向け病院設立支援をすることが開発へ向けた大きな一歩になる。

 

Q. これまで実施した投資案件のひとつに「ナイジェリアでGE医療機器を活用した高機能診断センター設立」があるが、例えば新興国にとって馴染みのない新しい機器を導入する場合、どのような支援を行っているか。

A. 販売金融等の医療機器導入におけるファイナンスだけでなく、実際に医療機器を使用している技術者を他国から呼び寄せ、その医療機器を現地のスタッフが使えるようにする支援(技術支援が出来るオペレーターの紹介)も併せて行っている。現場で恒常的に医療機器が使用される状況を作ることが大切。

 

Q. 問い合わせの投融資案件をどのようにして見極めているか。

A.過去の成功案件と失敗案件の経験・知識と、現地スタッフなど様々なネットワークを利用し、情報を集めて、見極めを行っている。

 

Q. ヘルスケアにおいて、投融資案件を審査する際、開発効果をどのように評価しているのか。

A. 投融資委員会の際に、例えば、プロジェクトにおける年別の患者数の増加分など定量的な視点を入れて議論・目標設定し、審査後にトラッキングしている 。

 

Q. 医療機器の分野で日本は強いといわれているが、どう考えているか。

A. 日本は内視鏡のオリンパスや検査試薬のシスメックスなどカテゴリーでグローバルトップの企業が多数存在。IFCの中でも医療機器は近年強化中のセクター、引き続き力を入れていきたい。医療機器は製造業の中でもハイエンドの製品が多く、先進国の機器を新興国で拡大する、比較的発達している新興国の現地企業を支援という二つのテーマで見ている。

 

Q. ナイジェアリアの案件について、ヘルスケア投資で規制・汚職といった問題に対してどのように評価・対応しているか 。

A. 二種類存在し、国全体に関わる汚職・腐敗・規制といった問題は個別に議論し、契約書の条件を足すなどしてある程度の対応をしている。ヘルスケア特有の論点は例えば国の保険支払いのタイミングや国立病院の支払い不履行などが存在。

 

Q. IFCでこれから力を入れようとしている地域、セクターはあるか。

A. 地域の観点では、アジア以外の中東・北アフリカ、ラテンアメリカ、一部アフリカも拡大しようとしている。例えば南米ではブラジルに加えて、コロンビアやアルゼンチン等を見ている。ヘルスケアの中のセクターでは病院・製薬に加えて、医療機器・卸関連・教育・人材派遣・医療廃棄物などのサブセクターを拡大しようとしている。このようなサブセクターは市場規模が大きいBRICSの様な国からアプローチしている。

 

Q. 株式投資案件において、IFCの出資比率が低いため、投資先のコントロールが効かないことはあるのか、その場合どう対応しているのか。

A. 良くある。例えば、CEOがとても前のめりで、拡大を急いで現金管理がなおざりになり問題になったような話しが最近あった。IFCの出資比率は大きくても二割程度、投融資先が上場し比率が1%未満のようなケースもある。このような場合に王道があるかわからないが、出資比率が低くても、個人ベースで信頼を得、話しを聞いてもらえる関係を構築することで、多少コントロールが可能になる。また、出資時にコベナンツで特定の財務指標の上限・下限を設定するやり方も有効。そもそも、コントロールが効かない状況でも信頼できる会社・マネジメントを選定することが重要。

 

Q. 例えばタイの病院がミャンマーに進出して現地に病院を作る場合、現地の外資に対する抵抗感があると想像されるが、どう対応しているのか。

A. ユーザー(患者)とオペレーター(現地病院)の二種類ある。ミャンマーの現地のユーザーはその国で高品質の病院がなく、既にタイのメディカルツーリズムで医療サービスを受けていること背景としてある。実際、ヤンゴンにはタイの病院の営業所も多い。従って、ユーザーからするとこれまでタイの病院に出かけていたのが、自国でタイの病院と提携した病院でサービスを受けられるため、抵抗感がある場合は少ない。オペレーターの側は様々。タイの病院と組んで積極的に拡大したいミャンマーの現地病院もあれば、自前で拡大したいという現地病院もある。

 

Q. 仕事をしていてわくわくする瞬間はどんな時か。

A. IFCの仕事は、これまでにない新しい案件を組成し実行していくことにある。自分の場合は、クライアントと議論を重ねる中で、新しい形の道が開けるような時にわくわくすることが多い。

Q. IFCで仕事をする上で重要な資質は何か。

A.  入行して短いため理解しているかどうか自信がないというのが本音。恐らく、大事な資質は、スキルというよりはマインドセットの在り方。IFCの良いところは、イノベイティブなことに対してオープンであり、革新的な案件を組成するために、常に様々な人と話しをし、新しいアイデアを取りこんでいかなければならないことにある。金融に関連するスキルに加えて、コミュニケーション、また何事にもオープンである姿勢が大事だと考えている。

 

Q. IFCはどのような観点から職員を評価しているか。

A. 投融資機関において、担当した案件の数が重要。加えて、案件開拓、ポートフォリオのモニタリング等の貢献度も考慮される。担当案件に関しては、金額よりは件数を見ることが多い。これは、担当する国により投融資のサイズが大きく変わることも関係している。加えて、後輩の指導等の項目もある。金融機関と比較して特別大きく異なるとは考えていない。

 

Q. 世界銀行グループに所属することでのIFCの強みは何か。

A. 多くの場合、援助や政策立案の支援を実施した後の段階で民間案件が形成される。従って、グループ内で情報を共有して、どういう投資テーマが良いか考えた上で案件の組成を行うことが重要で、グループ内のチームと連絡を取り合い情報交換しあったりすることが多い。こうした知見共有はグループに所属することの強みになると考えている。

終了後は、瀬川さんを囲む懇親会が開催されました。

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