2024年12月13日発行 http://www.devforum.jp/
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ワシントンDC開発フォーラム・情報サービス dev-info
皆様の同僚・知人への転送大歓迎いたします。
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【1】 ワシントンDC開発フォーラム便り
「認知症を起点に考える、「先回り」の功罪」田中幸夫(世界銀行・ワシントンDC在住)
【2】ワシントンDC開発フォーラム新着情報チェック
- 国際移住機関(IOM)在バングラデシュ事務所代表との間で、供与額5億円の無償資金協力「コックスバザール県及びバシャンチャール島におけるミャンマーからの避難民及びホストコミュニティのための生活改善計画(IOM連携)」に関する書簡の署名・交換が行われました(記事)。
- 世界銀行は、国際債務に関する報告書”International Debt Report 2024”を発表しました。その中で、2023年の途上国の債務返済額は、金利コストが20年来の高水準となったことを受け、過去最高の1兆4,000億ドルに上った指摘しています(記事)。
- 英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の専門家は、モロッコが欧米と中国との貿易紛争の戦場となる可能性について解説しています(記事)。
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【1】 ワシントンDC開発フォーラム便り
「認知症を起点に考える、「先回り」の功罪」田中幸夫(世界銀行・ワシントンDC在住)
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職業柄というわけでもないですが、日本滞在中Big Issueの販売員を見つけた時は幾ばくかの寄付をして冊子を買い、販売員の方と世間話をすることにしています。このBig Issue、冊子自体もなかなか面白く、社会の様々な側面を知るきっかけをもらっています。今年5月に販売していた第479号は認知症の特集でした。そこで紹介されていた丹野智文さんの話が大変示唆深かったので、皆さんにもご紹介します。
丹野さんは39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断されましたが、その経験を活かし、認知症当事者を支援する相談窓口「おれんじドア」を主宰されています。丹野さん曰く、認知症になって一番辛いのは、認知能力の低下そのものよりも、家族など周囲の人間が本人に失敗させないよう先回りして対策してしまうこと(例えば身の回りの世話を全てしてあげる、財布を取り上げる、等)だそうです。周囲は本人を思ってやっていることなのですが、結果的に本人は「失敗」をしなくなり、そうなると「失敗しないための工夫」を考えることも、試行錯誤の末の成功体験もなくなり、皮肉にも認知症がどんどん進行するのだそうです。「工夫することは生きていること。どうか『困る自由』を奪わないであげて下さい」という丹野さんの言葉にははっとさせられました。
この「『先回り』が世話する側の負担増になるだけでなく、世話される側からも工夫・成長の機会を奪う」という逆説は、認知症以外の様々なことにも当てはまる普遍性の高い真理であるように思います。身近なところでは子育てが挙げられます。私も娘を育てていますが、子供が失敗しないよう、自分の持ち得る資源を動員してレールを敷いてあげたくなるのが親心というものです。しかし、短期的にはそれで成果を出せるかもしれませんが、「困難を自らの力で克服する」という生きるための根源的スキルは身につくでしょうか。アメリカのエリートが集まるトップ大学でも、それまで親の支援の下で最高の成績・業績を上げるのに特化してきた学生たちが、失敗経験がないがゆえに臆病になったり課題克服能力が低下しているという現象を、元イェール大教授のWilliam Deresiewicz博士が著書「Excellent Sheep」で指摘しています。
仕事においても、国際機関では日本の組織ほど丁寧な業務マニュアルが作られておらず、引継ぎ書なども簡素であることが多いです。日本の組織から移ったばかりの時は「不親切な仕組みだな」と不満に感じていました。しかし、そのような環境下にいると、必要な情報を得るために色々な人に質問したり情報交換できるネットワークを築いたり、積極的に動くことを余儀なくされ、結果的に非常に逞しくなれたと実感します(ネットワーキングの重要性についてはDev-info2023年11月16日号に掲載されている拙稿もご参照ください)。
物事の先を見越してその対策を打つ、というのは日本人の美徳の一つであり、実際それによって様々な付加価値を生んできたと思います。しかし、線引きの加減を見誤ってしまうと、双方にとって有害なものとなってしまいます。日本社会においてカスタマーハラスメント(通称カスハラ)が問題になっていると聞きます。その原因は様々あると思いますが、サービス提供側が「お客様第一」を合言葉に顧客が直面するであろう問題を徹底して先回りして解決した結果、顧客側はそういった状況を当たり前と感じるようになるとともに、トラブル対処能力も低下させられてしまっているということはないでしょうか(逆にアメリカ社会は日本ほど何事も便利でないため、生活者側が必然的に鍛えられるように感じます)。
皆さんも身の回りにある「先回り」について少し考えてみるのはいかがでしょうか。
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【2】 開発フォーラム新着情報チェック
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┌――┐Dev-Info 新着情報チェックでは掲載情報を
|\/│募集しています。情報掲載を希望する場合は、
└――┘こちら までご連絡ください。
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– 日本関連 –
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- 国際連合開発計画(UNDP)イラン事務所との間で、供与額6.90億円の無償資金協力「オルミエ湖その他の湿地及び周辺地域における湿地保全体制整備計画(UNDP連携)」に関する書簡の署名・交換が行われました(記事)。
- 国際連合児童基金(UNICEF)パキスタン代表との間で、供与額4.55億円の無償資金協力「ポリオ感染拡大防止・撲滅計画(UNICEF連携)」に関する書簡の署名・交換が行われました(記事)。
- 国際移住機関(IOM)在バングラデシュ事務所代表との間で、供与額5億円の無償資金協力「コックスバザール県及びバシャンチャール島におけるミャンマーからの避難民及びホストコミュニティのための生活改善計画(IOM連携)」に関する書簡の署名・交換が行われました(記事)。
- 国際協力機構(JICA)は、モーリタニア・イスラム共和国政府との間で、「漁業調査船建造計画」を対象として、無償資金協力の贈与契約を締結しました(記事)。
- JICAは、3月5日、高度外国人材のインターンシップ、採用、海外事業展開を検討している日本の民間企業・団体とJICA留学生とのネットワーク形成のための機会として「JICA Networking Fair Spring 2025」を開催します(記事)。
- 外務省は、各種分野の任期付き職員、非常勤職員を募集しています(記事)。
- 開発に関する人材募集情報がPartnerページに掲載されています(記事)。
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– バイ・ドナー関連 –
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- 英国は、マラウイの教育セクターに対して3900万ポンドの支援を行います(記事)。
●AFDは、パレスチナ自治区の聖ヨゼフ病院を改築・拡張に向けて1200万ユーロの無償援助を行います(記事)。
- 国連砂漠化対処条約(UNCCD)COP16の開催にあわせ、AFDはアフリカにおけるグレート・グリーン・ウォール(Great Green Wall)についてHPで紹介しています(記事)。
- 欧州委員会(EC)は、UNCCD COP16において、アフリカ再緑化プログラムの第二フェーズに1500万ユーロを拠出することを発表しました(記事)。
- スウェーデンの政府系投資ファンドSwedfundおよびデンマークのIFU(途上国のための投資基金)は、南アフリカの再生可能エネルギー事業に4400万ドルの投資を行います(記事)。
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– 国際機関関連 –
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- UNHCRは2025年度の緊急支援のために約100億ドルの資金を必要としていますが、既に11億ドルは確保できたと報告しています(記事)。
- OCHAは、30か国の約3億人の支援のために474億ドルのアピールを発表しています(記事)。
- UNFPAは、紛争地における性別に基づく暴力やリプロダクティブヘルス支援のために14億ドルのアピールを発表しました(記事)。
- UNCCDは、土壌の劣化により23兆ドルの被害が出ると分析しており、民間主導の対策の必要性を訴えています(記事)。
- UNCTADは、Global Trend Updateを発表し、2024年の貿易総額は33兆ドルに達したと報告しています(記事)。
- IOMとUNHCRは、ベネズエラ難民の広域支援のために支援対象が17か国にまたがる14億ドルのアピールを発表しました(記事)。
- ILOは、2023年度の世界の平均給与は2022年度と比べて1.8%増加したと報告しています(記事)。
- COP29が閉幕し、環境分野に対して毎年3000億ドルの資金拠出がプレッジされました(記事)。
- UNICEFは、ハイチで子供兵のリクルートが昨年比で70%増加したと報告しています(記事)。
- UN Womenは、DVによるフェミサイドの現状を分析した報告書を出版しました(記事)。
- OECDは、年金に関する報告書”Pension Markets in Focus 2024”を発表しました(記事)。
- OECDは、OECD諸国のAIとジョブマーケットに関する報告書”Job Creation and Local Economic Development 2024”を発表しました(記事)。
- 国際通貨基金は、同サイト上で世界各国を対象とした世論調査結果をもとに、住宅アフォーダビリティ危機に関するブログを公開しています(記事)。
- 世界銀行グループは、国際開発機関(IDA)に過去最高となる1,000億ドルの増資を行うと表明しました(記事)。
- 世界銀行は、国際債務に関する報告書”International Debt Report 2024”を発表しました。その中で、2023年の途上国の債務返済額は、金利コストが20年来の高水準となったことを受け、過去最高の1兆4,000億ドルに上った指摘しています(記事)。
- アジア開発銀行は、加盟国・地域の代表で構成される総務会において、全会一致で神田眞人氏を第11代総裁に選出しました(記事)。
- アジア開発銀行は、マスターカードと共同でアジア、大洋州地域の中小企業支援を目的とした画期的なパートナーシップを立ち上げました(記事)。
- アフリカ開発銀行は、エスワティニの道路インフラ支援を目的とした1億4千万ドルの融資プロジェクトを承認しました(記事)。
- アフリカ開発銀行は、セネガルの農業セクター生産、雇用向上支援を目的とした5500万ユーロを承認しました(記事)。
- 米州開発銀行は、ペルーの公営銀行のデジタル変革を支援するための4000万ドルのプロジェクトを承認しました(記事)。
- 米州開発銀行は、コスタリカの教育の質向上を支援するための7500万ドルの融資を承認しました(記事)。
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– シンクタンク・NGO関連 –
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- 「国際支援におけるローカリゼーションの実践」が12月16日に開催されます(記事)。
- Save the Childrenは、mpoxが猛威を振るうブルンジで栄養不良の子供の割合が倍増していると報告しています(記事)。
- 英ODIは、司法分野の国内支出額と援助についての年次報告を発表しました。OECD諸国での支出額は横ばいであるものの、援助に占める同分野の割合は減少が続いていると指摘しています(記事)。
●ODIは、低炭素や気候変動に強いビジネスの成功にはジェンダーの視点が重要だとする報告書を発表しました(記事)。
●英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の専門家は、モロッコが欧米と中国との貿易紛争の戦場となる可能性について解説しています(記事)。
●ロンドン大学LSEは、ガーナの大統領選挙の重要性を解説するビデオを公開しました(記事)。
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「メーリングリスト(devforum)」
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2024年12月13日発行