3月11日(火)、社会、経済、環境面において持続可能な、高齢者の知恵や経験を生かすことができるコミュニティづくりを目指したNGO「Ibasho」代表の清田英巳さんをお迎えして、「高齢化問題をポジティブな力に変える―住民主体の地域再生、『居場所ハウス』の事例から」をテーマにワークショップが開催されました。
【テーマ】「高齢化問題をポジティブな力に変える―住民主体の地域再生、『居場所ハウス』の事例から」
今後ますます問題になってくる世界的な高齢化社会。でも、多くの人が想像するネガティブな部分ばかりに焦点をあてず、高齢者の多い社会のプラスの面を活かしつつこの問題に取り組むことはできないでしょうか。その一つのアイデアとして「Ibasho」が提案するのは、「地域で高齢者の面倒を看てあげる」という考え方ではなく、「高齢者の知恵と経験を活かした地域再生」という、これまでの社会概念を変えていく方法です。また、地域住民にオーナーシップを持ってもらい、地域住民によるプロジェクトの持続を目標にする際、外部団体がどのように関わり、サポートをしていったら良いのかという点も重要な課題になってきます。この「高齢化社会」への新しいアプローチを、『居場所ハウス』の事例を通してお話させていただき、参加者のみなさんと議論できればと考えています。
【略歴】 清田 英巳 (きよた えみ)
環境行動学(老年学)者、非営利団体「Ibasho」代表。
ウィスコンシン大学建築学博士課程、カンザス州立大学建築学部修士及び同大学園芸療法学修士修了。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカにおける、高齢者のための住宅、病院、保健施設のデザインに関するプロジェクトに数多く携わる。これらの仕事に加え、2010年、同志たちと共に、「Ibasho」を発足。社会、経済、環境面において持続可能な、高齢者の知恵や経験を生かすことができるコミュニティづくりを目指した活動を行っている。地域住民が中心となり、そこが自分の「居場所」であると感じられる地域再生をサポートする活動は、ブータン、スリランカ、コートジボワールなどに広がっている。東北大地震後には、被災地において初めてとなる試み「Ibasho Cafe」の創設をコーディネート。地域の高齢者たちが主体的となって活躍できる場づくりに貢献している。「Ibasho」のホームページはこちら:http://www.ibasho.org/web/
Ibasho結成の経緯:
大学院のPhD課程で認知症の人が安心して暮らせる家作りの研究をしていた際、研究アドバイザーがパーキンソン病に罹り、入居できる施設がなかったと知った。研究者は専門家としてアドバイスをするが、高齢者から話を聞いて建物のデザインをしていない。この事から、高齢者の住まいを他人事ではなく、自分の事として捉えるようになった。卒業後、研究の世界に入らず、高齢者施設デザインのボランティアを始め、ニーズが各国から寄せられるようになり、NPO化に至った。
高齢化社会と貧困:
世界の高齢者のうち、80%が途上国に在住する。途上国では今後さらに高齢者が急増。一般的に、高齢になると貧困の問題が出てくる。また、高齢者は災害の被害者でもある。
日本の高齢化社会の課題と可能性:
高齢者に必要な安い住宅の不足が顕著。また長寿化と同時に認知症が増え、特別なケアのニーズが増える一方で、ケアギバーが大幅に不足。一方で日本の高齢者は健康な人が多く、自然災害などの際に大いに役立つ知恵や経験を豊富に持つ(震災後、高齢者のかまど炊きの知識が重宝した、など)。社会に役立つ能力の可能性がある。高齢者は子供のケアが得意で、子育てサポートのニーズと結びつける事もできる。
Ibashoのコンセプト:
アメリカで設立したNGOだが、敢えて日本語の「居場所」を使う事で、既存の「施設」や、「コミュニティ」などとまったく違う、新しい概念を作り出そうと考えた。高齢者施設は、高齢者が進んで住みたいと思えない場所になっているのが現状であり、高齢者はそこで下を向いて暮らしている。高齢者の知識・知恵が活かされるという場でもない。高齢者施設では、高齢者は決められたルールに従って生き、不完全が許されず、面倒を見てもらう場所となっている。自分自身が年を取ったときに行きたいと思える場所を作りたいと思った。Ibashoは不完全でルールのない場所。高齢者の面倒を見る、から、高齢者自身にやってもらう、という概念への転換を図る。
政策的観点からは、高齢者関連の政府政策では、金銭的援助、住宅、ヘルスケアに重点が置かれている。しかし、高齢化率が上がるにつれ、政府がこれらサービスを提供できるリソースが枯渇する可能性が高い。一方で、これらの政策は、高齢者自身から上がるニーズと必ずしも一致していない-実際に聞かれるニーズは、孤立するのが怖い。尊厳を失いたくない。といったところにある。
Ibasho の場所作りでは、高齢者を中心にコミュニティを結束させ、高齢者の知恵や経験をコミュニティの強化に活かす。その原則は、・高齢者はコミュニティの貴重な資産である。・離れたところに施設を作り隔離するのではなく、高齢者をコミュニティに統合する。・高齢者だけが住む場所でなく、色んな世代が交わる。・地域の文化や伝統を活かし、・サスティナブルな運営をし、・不完全を受け入れ、・ルールやサービスを提供するのでない普通の生活の場にする。
高齢者自身が、自分達で自分たちの場所を作りあげる、という活動自体が、高齢者のエンパワーメントとなる。場所は具体的な形となって出来上がり、目に見えるコミュニティの結束になる。また、自分達で作った場所は大切にされる。
震災後設立した、大船渡のIbashoカフェの経緯:
開設にいたるまで、参加型ワークショップを通じて高齢者とコミュニティを巻き込んでいった。このプロセスでは、高齢者と地域住民の認知を変える事に一番時間がかかった。日本では、高齢者自身が、自分でやっていい、できる、という意識が少ない事もある。高齢者の周りにいる人々が、高齢者に任せるという事を教えるのにも時間がかかった。
多世代参加型のワークショップでは、イメージ作りやメニュー作りをし、ワークショップを通じてコミュニティを作る事をデザインに入れた。建設以外の全ての活動は、ボランティアで実施された。高齢者が地域の人達に来てもらいたいと思われるような建物になるようデザインを心がけた。伝統的な家屋をリノベーションし、その過程でも高齢者の大工の方の知恵が活躍。地元の若者の希望も採用され、北欧風カフェを内部に設置した。また子ども達向けの英語図書館を作ることで、子どもと高齢者の交流の場となるようにした。
Ibashoカフェの運営は高齢者に任されている。自分自身でご飯を作り、元大工や元建築関係者のメンバーが建物を修繕し、夜は飲み会での交流もよい事にしている。また、カフェに来た地域の人からお気持ち料を受け取る事で、地域の人たち自身が支える場であるという意識を促している。低予算の運営であるため、高齢者が知恵を出し合って運営する必要がある事も、自主意識を高めている。
プロジェクトを実施しての学びとしては、行政との密なコミュニケーション、地域リーダーや地域全体を巻き込む事の必要性など。
専門家は、地域にどれだけ信用してもらえるかが全て。プロジェクト実施にあたって、地域にどれだけ裁量を任せるか、専門家間でいつも議論をしていたが、実際は、地域にやらせてもらっているのが専門家であると気づくに至った。
Q&A
運営と助成の状況は?
>大船渡の人口は現在、Ibashoカフェは高齢化率が高い地区に立地する。現在は民間企業の財団助成金で運営している。運営する高齢者自身の財政的自立意識は高いものの、市のサポートを今後一部必要な部分にのみ入れていく必要はある。しかし、‘やってもらう’意識でオーナーシップ意識が低くなり、施設化していかないよう、なるべく自立的に回して行くようバランスを心がけている。運営についての一番の問題は、運営開始後、現地コーディネーターへのナレッジ引継ぎプロセスがなかったため、コーディネーターが把握できていない情報がある、など。
運営主体、若い人の関与は?
>高齢者自身が立上時から運営ルールを決め、運営している。開館時間は10時-16時。10代から社会人にかけて若い人の数が地域に少なく、また忙しくしているので、中々開館時間に施設に来づらい。若者をどう巻き込むかは、今後の課題。
企業のCSR活動につなげる事についての考えは?
>運営をなるべく地域に任せる事が重点であるので、外部からリソースをどのぐらい、どのように持ってくるかは判断が難しいところ。以前、運営当事者達の希望に基づいてWebサイトをソフトバンクにお願いした事がある。Ibasho(NGO)側からリソース提供をしすぎないようにしている。
コミュニティ成員の平等な参加の確保について
>公民館長を中心に、口コミで人を集めた。主婦層は集まりづらく、またワークショップ等でも声を上げにくい層ので、全員発言制のワークショップなど、意図的に声を出してもらうきっかけを作った。
途上国での状況について:
>元々Ibashoは発展途上国に役に立つシステムとして考えた。場の設立後は、運営でお金がかからない自助システムなので、リソースのないところで実現ができる。また先進国の日本では、自立できる財政資源があるので、人に面倒を見てもらわないで自分で自分の面倒を見る傾向があるが、途上国は資源が少ないため、日常的に頼りあう文化がある。途上国の高齢者の課題については、都市化により高齢者が地方に残されている状況、年金をもらえていない高齢者、年老いた親の面倒を見る財政資源がない家庭、など。一般的に、地域が抱える問題は、途上国先進国を問わず、世界中同じと思われる。
ワークショップ終了後は清田さんを交え、参加者約13名での懇親会が行われました。