第26回ワークショップ議事録:3月27日(木)「インド:気候変動とどう向き合うか~州レベルでの気候変動対策の推進」

【第26回ワークショップ議事録】

3月27日(木)、世界銀行南アジア地域総局、持続可能な開発局、災害対策マネジメント及び気候変動ユニット、気候変動専門館の弥富圭介さんをお迎えして、「インド:気候変動どう向き合うか~州レベルでの気候変動対策の推進」というテーマで第26回ワークショップが開かれました。

【テーマ】 「インド:気候変動とどう向き合うか~州レベルでの気候変動対策の推進」

インドは、近年の高い経済成長の結果、中国、米国に次いで世界第3位の温室効果ガス排出大国となっています。一方で、現在4億人以上の国民が未だ貧困に苦しむ中、気候変動に対して最も脆弱な国のうちの一つでもあります。インドはどのように気候変動を捉え、また国内の取り組みを推進していかなければならないのでしょうか。今回はインドの中でも特に貧しく、また2013年に大型のサイクロン“ファイリン”が直撃したオリッサ州を例に取りながら、インドの視点から気候変動問題と世界銀行の取り組みについて紹介します。

【プレゼンター略歴】 弥富圭介(いやどみ けいすけ):世界銀行 南アジア地域総局 持続可能な開発局 災害対策マネジメント及び気候変動ユニット 気候変動専門官
南アジア地域におけるカーボンファイナンスプロジェクトの開発、業務支援を主に担当。また、南アジア地域における低炭素社会の構築に向けた政策立案、調査業務、技術支援業務等に従事。日本の政策研究機関である地球環境戦略研究機関およびアジア開発銀行においてカーボンファイナンス及び気候変動政策に関する政策立案支援、調査業務支援を担当した後、2012年1月より現職。モントレー国際大学院にて国際環境政策修士取得。

【プレゼンテーション】

  1. 途上国における気候変動と貧困問題先進国よりも気候変動の影響に対して脆弱である途上国に対して、十分に立ち向かえるように、国際援助機関からサポートを行い様々な取り組みが行われている。将来予測(2013年、世銀)では、産業革命以前との比較による気温の上昇は、何も対策を講じなければ、4度上昇する確率が40%、5度以上の確率が10%とされる。4度上昇の場合、海面上昇は1メートル以上、結果として、水資源の減少が50%近くに及ぶ予測がある。現在でも地球の人口は70億、さらに人口増加傾向の中、減少する資源とどう向き合っていくかが課題。世界のいたるところで被害はすでに生じている。(2010年ロシアの熱波、2011年バンコクの洪水など)。
  2. 気候変動による貧困問題への影響気候変動の影響は広範囲に及ぶ。熱波、干ばつ及び夏季の異常な猛暑;水資源の枯渇及び集中豪雨による川の氾濫;穀物栽培地域の減少及び農業生産性への影響;生態系の変化および貴重主の全滅の危機など。経済活動(農業、海洋産業)・健康被害・食料の安全確保や食料品の高騰;都市人口の増加、移住区の当会、飲料水の確保などもある。
  3. 気候変動問題への取り組み二つの大きな国際的な枠組みは、国連の気候変動枠組み条約(UNFCCC)(1992署名、1994年発効、195カ国参加)と京都議定書(1997年合意、2005年発効)。京都議定書は、先進国への取り組みに対する削減義務を目指した枠組み。第一約束期間(2008-2012)終了後は、引き続き第2約束期間(2013-2020年)が存在するものの、日本、アメリカなど主要排出国は参加していないので、効果が不透明な枠組みとなっている。途上国、先進国双方が参加可能な枠組み策定のための会議が続いている。
  4. 2013年以降の将来の国際枠組みの争点:2050年までに温室効果ガス排出量の半減(気温上昇を2度以下に抑えるため)と、2020年までに年間1000億ドルの資金が必要(2011年グリーン気候基金設立)ということで、京都議定書の枠を超えた枠組みが必要になっている。京都議定書の義務付け対象国の排出率は、世界中の27.4%のみ。半分以上の排出は途上国からなので、今後さらに、途上国にも削減活動を促す枠組みの形成が必要となっている。2015年12月パリで開催予定のCOPで決定予定だが、なかなか一致の意見をまとめるのは難しい状態。
  5. インドにおける気候変動問題二酸化炭素排出大国は、一位が中国、二位アメリカ、三位インド。ただし、インドの一人当たり排出量は途上国の中でも少ない(平均5トン、アメリカ9トン、日本5トン、インドは1トン強)。2008年、インドでは気候変動国家行動計画及び8つのミッションを策定した。2009年、国内のGDPベース排出強度を2005年基準で25%削減することを提案。第12次五ヵ年計画(2012年~)にて低炭素成長戦略を提案、また、クリーン開発メカニズム(CDM)による温室効果ガス削減事業を積極的に推進。2010年の再生可能エネルギー証明書、2012年の省エネ証明書など市場メカニズムを次々に導入(国内企業に、省エネ目標設定を義務づけといった仕組み)している。
  6. オリッサ州気候変動行動計画オリッサ(人口約4000万、日本の半分の面積)は国内でも貧しい州で、人口の約半分は貧困ライン以下、農村人口率80%(インド平均は70%)。気候災害の多い州で高い脆弱性指標、ベンガル湾で発生した過去三分の一のサイクロンが州を直撃。その一方で、天然資源発掘に伴う経済成長は高い率で維持されている。エネルギー需要も増加し、石炭火力ベース電力の増加を見込んでおり、結果として、温室効果ガス排出の多い州になっている。気候変動問題は州の成長戦略と貧困削減に重大な影響を及ぼすため、州内の体制と能動的な政策の整備及び速やか実施が必要。ハイレベル調整運営委員会とワーキンググループを設立、2010年に州の気候変動活動計画を策定・公表、11特定分野における緩和・適応応対策(農業、エネルギー、交通、水など)を立案した。問題点としては、人材不足(州レベルで、地域の省庁関連者も、環境省以外は知識も費やせる時間も不足している);潜在案件の資金確保の未計画(詳細計画がつめられていない);影響指標評価の未設定;長期計画の欠落などがある。
  7. 世界銀行の支援世銀では、州政府からの依頼に基づき、気候変動行動計画実施のための無償技術支援を行っている。支援全体の業務(2014年1月~2015年6月)は、行動計画の進捗評価の実施;他世銀案件との相乗効果分析;低炭素成長のための分野別支援;州政府の基盤・能力強化など。弥富さんの日々の業務としては、内部向けの提案書の作成、支援実施に必要な資金の確保、各支援業務のチーム編成及び調整、コンサルタント業務の支援・管理、担当業務(都市省エネ分析調査など)の現地調査の実施、州政府向け提案書の作成支援などがある。
  8. (世界銀行の気候変動全体に対する取り組み)130カ国における気候変動対策を支援。取り組み内容は、
    • 71億ドル(2012年度の気候変動緩和向けの支援額)-クリーンエネルギー、公共交通手段を増やすことで個人の輩出する温室効果ガスを減少する努力など)
    • 46億ドル(2012年度の気候変動適応向けの支援額)(前年度比2倍)
    • 国別援助・パートナーシップ戦略における対策強化
    • 機構投資基金によるクリーンエネルギーの促進や低所得国の適応能力の強化を支援
    • カーボンファンドによる温室効果ガス削減へ貢献(1.3億ドル、13基金)
    • グリーン債権の発行(33億ドル、17カ国)

    など。クリーンエネルギーは、投資になりうるので、途上国への負担になるとばかりもいえない。ただし、投資コストは依然として従来の化石燃料ベースのエネルギーより高くなる。カーボンファイナンスや気候関連のファンドなどの資金活用を促進することで、費用対効果を高めて新しいエネルギーを促進することを行っている。

【質疑応答・ディスカッション】

Q:ポスト京都議定書に関して、合意にいたるためのシナリオはあるのか?
A:全体合意は排出大国がどこまで野心的な目標を公約できるかが焦点になってくる。交渉グループは細かくわかれていて、サブグループ(森林減少防止のための枠組みなど)では大方の合意ができていることもある。個別交渉グループの合意を増やして、ボトムアップの形で合意に持っていくほうが可能性があるが時間は非常にかかるといわれる。コペンハーゲンでのCOPでは、首相レベルなどハイレベルの会合(インド首相、アメリカ大統領、日本首相、中国国家主席などが出席)をしたが、少数の国でトップダウンで決定する方法に対して他国から大いに批判が出た。合意できることを積み重ねて、実質的に効果があって動くことができる枠組みをつくっていくアプローチが大事だろうと思われる。

Q:インドで前年にサイクロンがきたために対策をとり、次年度には予測をし非難命令が出たために策が成功した事例を聞いたことがあるが、何か具体的に現地で聞いた話があれば?
A:2007年サイクロンの経験をもとに、オリッサでも災害危機対策の部署が今後の計画を緻密にたて、昨年の災害時に実施をして、大きな効果を生むことができた。

Q:国別の排出量はどうやって測っているのか?
A:国連に排出量測定のためのガイドラインがある。基準の指標に対して、その国における排出源をカウントし、基本的には基準値とユニット数に基づいて計算される。生物(人間の呼吸、バイオマスなど)の排出はニュートラルとしてカウントされていないが、畜産農業からのメタン排出はカウントされている。個別の削減事業では、例えばネパールなどで、排出物をためて強制発酵させメタンを発生させ、それをエネルギーとして家庭内で使う手法が、削減対策として世銀のカーボンファイナンス事業として支援されている。

Q:世銀の技術支援の際、知識移転などが売りとされるが、他の国や都市での気候変動における知識がシェアされているのか?
A:いろいろな国が参加する集まりで南南協力や先進国からの国レベルでの知識のシェアは行われているが、先進国の地方自治体の取り組みに反映させる方法はまだ模索中。

Q:具体的な世銀側の支援チームの編成は?
A:広範に及ぶ仕事の中で、優先付けをし、影響の大きい、たとえば都市、交通とエネルギーに関して、そのセクターの専門家を集めて支援事業を行っている。

Q:以前、国際会議の場で、たとえばILOはグリーンジョブや人材開発といった得意分野を担当する、といったコーディネーションを見たことがあるが、各機関の得意分野を生かしたドナー間の調整、役割分担名はどのように行われているか?
A:オリッサ州以外では、UNDPや他の機関が他の州の気候変動行動計画を支援しており、今後さらに強化して実施する話が出ている。

Q:地方自治体はどのようなインセンティブを持って活動を行っているのか?特に途上国で、インセンティブを高めるためにどのような仕組みを作れるのか?(日本は倫理的な観点やマーケットの仕組みを使っておこなっている)
A:オリッサでは、目的意識は比較的すでに高い。インセンティブというよりも、例年のサイクロンへの対策など、必要に迫られている状況ともいえる。意識は高いが、さらなるサポートを受けるために世銀や日本政府などにも働きかけている。市場メカニズムへの期待は、現在は相対的に低い。中国では、国内で新しい市場(排出量取引制度)をつくって対策を講じるような試みが行われている。インドでは、似たような取り組みをしようという動きはある。

Q:インドは州レベルで法的な義務付けはできるのか?
A:アメリカと同じで、連邦共和国政府として、地方分権が進んでいる一方で連邦直轄領では中央政府の権限が残されている。

Q:となると、表示義務を設けて「見える化」をするのが一番簡便であるように思われるが、どうだろうか?スマートメーターを作っている日本のメーカーも仕事ができるかもしれない?
A:インドの日本大使館との話し合いでも、「見える化」の話が出たが、制度としてどこまで促進できるかについては、インド内ではまだ機運が高まっていないのが現状。ただ、パイロット的に行うことは可能だと思われる。

参加者からその他のコメント:

  •  州、国にも、ニーズはあるように思う。適応策も、たとえばバングラでは太陽光パネルが広く使われている。コストもかかるが、すでにあるインセンティブを生かしていると感じた。
  •  プレゼンがとてもまとまっていてわかりやすく、勉強になった。

終了後は、弥富さんを含め15人ほどで、懇親会が行われました。

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