第241回BBL議事録:2014年4月30日(金)「2014年IMFC/世銀・IMF合同開発委員会の評価と今後の課題」

DC開発フォーラムでは4月30日(水)、ワシントンDCにて、渡邉和紀氏(IMF日本理事室審議役)、藤井大輔氏(世界銀行日本理事代理)をお迎えして、「2014年IMFC/世銀・IMF合同開発委員会の評価と今後の課題」のテーマのもとBBLを開催しました。議事録は以下をご覧ください。

*各委員会のコミュニケ、日本国ステートメントについては、下記URLをご参照下さい。

第89回合同開発委員会コミュニケ(ポイント)

https://www.mof.go.jp/international_policy/imf/dc/20140412c.htm

第89回合同開発委員会日本国ステートメント

https://www.mof.go.jp/international_policy/imf/dc/20140412st.htm

第29回国際通貨金融委員会(IMFC)コミュニケ(ポイント)

https://www.mof.go.jp/international_policy/imf/imfc/20140412c.htm

第29回IMFC日本国ステートメント

https://www.mof.go.jp/international_policy/imf/imfc/20140412st.htm

 

【第29回国際通貨金融委員会(IMFC)コミュニケのポイント】

・今回のコミュニケには、日本を特定した記述がなく、これは珍しい。ただし、日本の財政情況は各国の懸念の一つであり、コミュニケ3パラにある、「具体的な中期の財政健全化計画の実行が重要」との記述は、当然日本も想定したものと理解すべき。

・最大の関心はIMFのガバナンス。IMFは2010年に、今のクォータ(資本金に相当)規模を二倍にする増資(第14次増資)、及び、現在、出資上位5か国の理事は、当該国によって任命されているが、これを改め、全24名の理事を全て選挙で選出すること等を内容とする理事会改革(IMF協定改正が必要)をセットで合意(いわゆる2010年改革)。しかしクォータシェア約17%を有し、協定改正といった重要な事項について事実上の拒否権を有する米国において増資法案と協定改正へ議会の同意(批准)が得られず、そのため、理事会改革及び理事会改革の成立が前提となっている第14次増資も発効していない。オバマ政権は色々な機会を捉えて議会の理解を得ようとしたが、悉く上手く行っていない。直近では、春の総会前に、ウクライナ支援に絡めて議会の承認を得ようとしたが、失敗している。

・また、第15次増資の検討は2014年1月末までに理事会で合意し、総務会に報告することになっていたが、第14次増資が発効していない中で、第15次増資について議論することはできず、結局当該期限は1年延期(2015年1月末)されている。

・なお、IMFのガバナンスについては、G20とIMFCの合同セッションで議論がなされた。2010年改革が進んでいない、第15次増資の検討も進んでいないことへの強い失望、2010年改革の実現が最優先課題であるとの認識が共有された。なお、ガバナンスについては、G20のステートメントにもほとんど同じ文言が入っている。

・さらに、進展とみるかどうかは意見が分かれることであるが、2010年改革について、2014年末までに(米国議会の同意が得られ)発効しなければ、IMF事務局は、他にどのような選択肢があるのかを提示し、当該選択肢についての議論のスケジュールをIMFC(とG20)で決めることになっている。この点について、今年、米国は11月に中間選挙を控え、また、来年度予算案にIMF関連予算が含まれるかどうか否か判明するのは9月末。来年度予算案に含まれなかった場合でも可能性が無いわけではないと思うが、かなり困難だと考えられる。なお、2010年改革が年末までに発効しなかった場合に考えられる選択肢としては、例えば、第14次増資と理事会改革を切り離す、また一部の加盟国だけを対象とした増資、などが考えられる。

・その他コミュニケではウクライナ支援に言及。IMFプログラムがあることによって、世銀や日本等各国が支援パッケージを提供するきっかけとなることを期待している。

 

【Q&A】

Q. 2010年改革の進展が見られない中で、新興国はどのようなアクションを取っているか。

  1. 新興国、特にBRICSは、IMFのクォータシェアが世界経済における各国の地位を反映した形になっていないことに対して不満がある。また、過去に自国がIMFプログラムを受け入れた際に、辛い改革を強いられたこともあり、欧州危機におけるギリシャ等に対する巨額のIMFプログラムについては批判的であるところ。なお、ガバナンスの問題について、新興国が、具体的にできることは現時点で非常に限られているが、声は上げ続けている。他方で、そうすることが、事態の打開(米国議会の同意)に繋がるのかといえば、その見込みはほとんど無いのではないか。

Q. IMFのガバナンスは現在どのようになっているか。

A.国連機関のように1国1票ではなく、出資割合で投票権が決まる。米国はIMF設立当初から事実上の拒否権を有し、協定改正といった重要事項に関しては、米国が賛成しない変更はできない。また、2010年改革においては、現在欧州が占めている2理事ポストを新興国に移行することになっている。現在、理事会に占める欧州出身理事の割合は多い。理事会の意思決定は、コンセンサスベースを追求するものの、多くの理事が同じような発言すれば、意思決定への影響は無視できないことからも、2理事ポストの欧州から新興国へ移動による理事会の意思決定へのインパクトは大きい。

 

 

【第89回世銀・IMF合同開発委員会コミュニケのポイント及び議論】

・今回の開発委では、世銀が進めている組織改革について、昨年10月の開発委後の取り組みについて総務に報告し、承認してもらうことが主目的。

・パラグラフ3は、国別の開発戦略をよりしっかりしたものに作り直そうという取り組みについて。7月以降、新たに、SCD (Strategic country Diagnostics) とCPF(Country Partnership Framework)を作成する。これまでSCDとCPFは合わせて国別戦略であったが、SCDを別のプロセスにし、世銀がデータや分析に基づいて、世銀独自の処方箋を描くことにした。このSCDに基づきつつ、対象国とCPFに合意する。この新しい試みのポイントは、SCDが、これまでとどのように違う処方箋をdeliverできるかというところ。さらに、相手国に評価されつつ、インパクトを持ち続けられるかがポイント。

・また、途上国に届ける開発の処方箋のクオリティを向上させるため、これまでの地域重視の組織体制から、Global Practicesという14のセクター中心の体制に再編成し、さらにジェンダー等4つの分野横断的なセクターも作る。

・パラグラフ3のスコアカードは、世銀グループ全体のスコアカードを作成し、今後WB、IFC、MIGAの個々の組織ごとのスコアカードに反映させていく。

・パラグラフ5のIDA17(第17次増資)は、12月の最終会合で増資交渉が決着した。先進国の財政状況が悪くなる中、従来のグラント拠出に加えてIDAへのローンという仕組みが導入される。日本も、グラントに加え円借款を使ったローンを組み合わせることで、この資金規模を確保した。

・増資が難しい中、IBRDの財政余力をどう確保してくかが課題。このため、金融機関出身者をCFOとして迎えた。歳入増加策として、一部の国の借入上限額の引き上げ(金利収入増)、より長期の融資を認める等の施策を承認した。また、歳出について、2017年までに400百万ドルの経費カットをコミットしている。

・パラグラフ6はインフラについて言及。世界のインフラ需要に対応した、世銀の1つの答えがGIF(Global Infrastructure Facility)。昨年秋の総会時には世銀の外部からの資金を動員する大きな構想が提案されたが、現在の計画では10数人のユニットで約4件を2年間、パイロットとして運営。2年後にレビューを行い、外部からの資金調達を検討するという現実路線に落ち着いている。

・防災について独立したパラグラフを記載(パラグラフ11)。今回の開発委にはDRMスペシャルレポートも提出されている。「防災の主流化」という言葉が、公式文書に盛り込まれたことも特筆される。

・パラグラフ12は、世銀のボイス改革について、議論を開始。2015年までに投票権に関するレビューをするという道筋が設定されている。

・今後、新World Bank Groupの下での具体的な新しい事業の姿が現れてくる。そうすると、理事会メンバーの中でも意見が割れてくる可能性もある。世銀の二大目標に沿って、南アジア、サブサハラに予算配分も含めて重点を置くことになったが、その分他国、他地域が相対的に減るということでもある。

 

【Q&A】

Q. 開発委ではIFCとMIGAについて言及があったか。

A. コミュニケのパラグラフ4でIFC、MIGAについて、One World Bank Groupとしての重要性に言及。理事会でも、今後3年の中期計画の議論は、今年初めてIFC、MIGAも併せて1度に議論された。今後もより一体化して戦略、予算を議論していく。特に民間セクターでのIFCの強み、MIGAの保証を活用することによって、IBRDの財政制約を補っていく。例えばIBRDのブラジルの案件では、MIGAが保証することによって民間資金が動員できた。

Q. 世銀グループのスコアカードはどんな内容か。

A. 各論では色々な議論があった。例えば、相手国の業績指標に目標値を定めるべきという意見と、相手国のオーナーシップの問題であり目標値を設けるべきではないとの意見があり、後者に近い形で決着している。

Q. インフラ融資に対する日本の立場は。

A. インフラは開発の重要課題の一つ。日本経済にとっても、海外のインフラ需要を取り込むことは必要。昨年秋のGIFの構想では、主として新興国や民間が資金を出すことが期待されており、その場合の新しい機関のガバナンスがどうなるのか、また調達基準等が世銀と比べてどうなるのかといった懸念があった。現在の構想は、サポートしている。

Q. 世銀内での知識の共有について、今後個別のプロジェクトサイクルの中でどのように生かすべきと考えられているか。

A.キム総裁は、世銀が実質的に6つの地域銀行に分離し、地域局間の情報のルートが確保されていないのではないかと問題意識を持っていた。ナレッジを全地域共通のユニットに集めることによって、グッドプラクティスがどの地域にも共有されることを目指している。もっとも、分野や個別案件によって違うところもあるだろうし、国別の戦略、相手国の期待によっても違いが出るであろうから、具体的に考えていく必要。

Q. IMF同様理事会の選挙に関する改革を考えているか。

A.  2015年にレビューを総務に報告しなければならないことにはなっている。

Q. 防災の主流化に反対はあったのか。

A. 防災が大事ということに反対はないが、「主流化」という言葉に対しては、インフラやジェンダーも重要ではないかといった主張があるということ。

Q. 例えばプロジェクトがconstructiveであるかを判断するとき、世銀と相手国の判断が異なる場合はどうするのか。

A. カントリーディレクターがCPFとSCDともに作成の責任者。また、彼らは同時に相手国とのリレーションシップも担当している。世銀と相手国の判断が異なるといった場合にどのように折り合いをつけるかは、まさしく担当のカントリーディレクター、さらには副総裁の力量による。世銀の理事会でも、SCDは相手国にきちんと提言すべきという意見や、逆に相手国の需要をきちんと考慮すべきという意見があり、当面、具体的なSCD/CPFを作成しながらの試行錯誤が続くだろう。

 

以上