DC開発フォーラム第227回BBL「保健システムとアフリカの妖術世界」

第227回BBLの議事録が出来ましたので、以下をご覧下さい。配布資料等もこちらのHPからご覧になれます→http://www.devforum.jp/bbl/


第227回DC開発フォーラムBBL2012年5月17日
「保健システムとアフリカの妖術世界」
プレゼンテーター
杉下智彦
(JICA国際協力専門員)
個々人の思い描く世界は恣意的であり、先進国と途上国とのコミュニケーションには大きな断絶がある。そのような意識・世界観の違いを社会人類学・妖術世界から考える
>例えば、インタビューの対象者がインタビュー慣れしてしまっている、本当の事を話しているのか分からない、など社会人類学の手法そのものが現地の文化と分断されている事がある
>現地の人たちの生活をよくしたいと思って社会人類学者が書いた論文も、現地の人たちの生活を本当に改善することができたのであろうか?
>Think globallyは幻想でしかなく、存在しているのはまさにそこにある現場のみである。よって現地の人々が自分たち自身で世界を変えていく必要がある。すなわち、Think locally, Act globallyということになる。
>プロジェクトが現地の人たちにとってどういう意味があるのか?、とプロジェクトで現地の人たちにどうして欲しいのか?、のすり合わせが必要となる
ロジカルシンキングとシステム思考
>パイロットプロジェクトで成果を上げても、その成果が広がっていかないケースが存在する。この場合、何か問題があるから広がっていかないのであって、これまでとは違う視点からプロジェクトを見直す必要がある
>これまでのプロジェクトはログフレームに代表されるように、ロジカルシンキングを主に用いてきた。しかし、これは車の一部品だけを見て車全体を理解しようとするもので無理がある。今後は全体を見て考えるシステム思考の重要性がプロジェクト運営の中で見直されていく必要がある
>システム思考を実施するためには、こうあるべきだという考えを捨てて、現地に行って現地の人々の話を聞いてみる事が重要である
ニャンザ州保健マネージメント強化プロジェクト
>乳幼児死亡率・HIV罹患率が共に高いニャンザ州で行ったプロジェクトである
>従来は専門家が自分の世界観を押し付けてニーズを掘り起こしプロジェクトをコントロールしていた。しかし、本プロジェクトでは、現地の人々の力を信じて現地の人々の長所を掘り起こしプロジェクトを促進する、というサーバントの形をとった
>リーダーシップとは、フォロワーの役割こそが重要であり、リーダーは目的を信じて行動し続けることが重要である
>医療費も無料であったものの、実際には真に貧しい人たちはインフォーマル・ペイメントを払えず病院に行く事が出来ていなかった事実がある。このため、バウチャー制度を導入して医療サービスの需要側への働き掛けを行うことによりサービス利用が格段に向上した
>保健システム・マネージメントを基盤に、サプライ側、デマンド側同法の努力が融合して、良いインパクトを生み出す事が出来た
コミュニティ開発・社会開発とは
>そもそも個々人が考える社会・コミュニティが全然違うものであるため、まずは個々人の考えの違いをよく理解して、仕事を進めなければならない
>社会システム学では、社会について3つのモデルが存在している。デュルケームは社会ごとに境界が存在していて、社会同士を比較する事が出来ると考えた。マルクスは社会を境界ではなく階級として捉えた。ウェーバーは社会を境界や階級ではなく、ネットワークとして捉えた
>アドラーは人間は原因ではなく目的で動いていると考えたが、まさにこれは現在開発分野が見落としている物ではないかと考える
アフリカと妖術世界
>森を眺めようとしても、森全体が広大過ぎて眺める事が出来ない事がある。このような時は気に入った1つの木を眺めて続けるのも手段である。1つの木であっても、森全体から影響を受けながら存在しているため、ある程度森全体の事を知る事が出来るからである。この考え方は開発分野にも適応できる
>アフリカには独立教会が存在しているが、この独立教会は現地の人々の世界観を通して病院の役割も果たしている
>これまではアフリカをポストコロニアニズムの観点から開発の対象として捉えてきた。しかし、アフリカを読み解く鍵は社会規範・伝統としてのウィッチクラフトの理解にある
>キング牧師がいなければ現在のオバマ大統領の誕生がありえなかった。こういったドリームマネージメントがケニア(アフリカ)の人々にも必要である
>目の前に存在するイシューだけにとらわれることなく、そのイシューを起こしたそもそものシステム的原因に現地の人々と一緒になって取り組まなければならない
質疑応答
Q. ニャンザ州で成果を出すために具体的には何を行ったのか?
A. バウチャー制度を導入する事で潜在的だった医療需要を掘り起こした。さらに、整備した施設の管理資金を政府に支出させるとともに、パフォーマンス・ベースド・ペイを導入する事で医療の質の向上を図った。このように、医療の需要側・供給側双方に支援を行った
Q. 現在のリザルト・ベースド・アプローチでは短期の成果に目が行きがちだが、長期的な視点に立っているシステムアプローチとどのようにすり合わせていくのか?
A. リベラリストはモニタリングが必要であると考えがちで、本来手段であるべき説明責任が目的化してしまっており、これが誤りであると考える。実際には援助コミュニティ内のピアレビューが存在しているためそれほどモニタリングは重要ではなく、コーポレートガバナンスなどは社会が担う事ができるものである
Q. 行動変容は具体的にどのように起こせばよいのか?
A. プロセスマネージメントが重要である。例えば、薬を使用する事によって(体調がよくなり、その結果として)もっと楽しく踊りを踊れるようになる、など現地の人も理解できる具体的な結果やシナリオを示す事が大事