ワシントンDC開発フォーラム
DC Development Forum


国際開発ジャーナル2001年12月号寄稿

ワシントン便り 
「インサイドUSAID−その活力の源泉とは」

USAID(米国国際開発庁)
藤江 顕

 本稿を執筆している間に、対米国多発テロが発生した。犠牲者に対し、哀悼の意を表したい。掲載される時にどのような展開となっているか正確に予想することは困難であるが、世界とその住民の平和を実現する方向に向かっていることを祈念する。

 今年5月に就任したアンドリュー・ナツィオス米国国際開発庁(USAID)長官のキーワードのひとつは「世界の平和のために開発協力ができること」であろう。1980年代後半にUSAIDの人道援助局長として、またその後NGOの一員として現場を歩いた彼の視点は、「紛争のない世界」に向けられ、それを実現するための新たな挑戦をUSAIDに求めている。

 ナツィオス長官の下のUSAIDが目指している4本柱―3つの分野(紛争予防,経済成長・農業,保健)と1つの事業のあり方(「主体」から「触媒」へ)―については9月号の本欄で在米国日本国大使館 紀谷書記官が詳しく述べた。そこで、今回は国際協力事業団(JICA)からUSAIDに派遣され、内部で働いている者の視点から見た、USAIDの活力の源泉について私見を述べたい。

 筆者がUSAIDと初めて一緒に仕事をしたのは、JICAの在外事務所に勤務しているときであった。担当していた人口・保健分野での日米連携を模索するために議論を重ねる中で、痛感させられたのはUSAIDの人材の豊富さである。在外事務所(USAIDでは「ミッション」と呼ぶ)だけでも10名近くの人口・保健分野の学位を持った専門家が日々のオペレーションにあたっており、必要に応じて各分野の専門家がワシントンから駆けつけるという体制になっていた。テーブルで向き合っていて、太刀打ちできないなと感じさせられたのが正直なところである。

 内部で働くようになって、USAIDが人材に重きを置いているとの思いをさらに強くした。例えば、人口・保健分野では220名余りの専門家がそれぞれ担当する分野において、新たなプログラムの開発、他パートナー(ドナー,NGO)との協働体制づくり、フィールドへの技術支援を行っている。これに加えて80余りのNGO・非営利法人と協力関係を持って、いかなる課題についても対応できる人材をリクルートできる体制を整えている。

  USAID組織の特徴のひとつに「チーム」という単位がある。国別に異なる事情への柔軟な対応と意思決定・実施のスピードを重視するUSAIDでは、在外ミッションとチームに権限を大幅に委譲している。各国の重点分野はミッションが選択するが、具体的な活動内容については200を超える国別・課題別のチーム(Strategic Objective Teamと呼ばれる)が牽引役となる。人口・保健分野のチームでもマラリアが大きな問題である国にはデニス=キャロル博士が、ポリオ撲滅が課題である国にはエリン=オグデン女史といったそれぞれの道でのエキスパートが入って、その国のニーズに最適な構成をとっている。これらの異なる専門性を持ったメンバーが内外の関係者を交えて、どのようなアプローチが最大限の成果を挙げられるのか活発に議論を重ねている。

  さらに、援助に携わる人材の育成にも熱心で、そのためのプロジェクトもあるほどである。日本で言えばJICAの「ジュニア専門員」制度に近いものであるが、このような仕組みを通じて、次世代の担い手に経験を積んでもらうのと同様に、組織に活力を与えている。米国にも開発の仕事を志して大学院で学んでいる日本人学生が大勢いるが、そのような意欲のある人材の受け皿が日本の制度に整備されることは大事なことだと思う。

 さて、これらUSAIDの専門家たちは、データに裏付けられた論理を尊重するのと同じように、自分たちの知らない新しい考え方にも興味津々である。例えば、ジョアンヌ=グロッシ女史が率いる「環境と人口」というテーマはUSAIDの中では比較的新しい考え方であるが、めざしているものは、日本に強みがあるコミュニティ開発そのものである。彼女のグループは、日本の経験を学ぶことによって自分たちのプログラムを向上させることができるのではないかと考えている。

  JICAとUSAIDという代表的な二国間援助機関に身を置いて確実に言えることは、得意分野やアプローチはそれぞれ違っても、その国の住民の生活を良くしたい、という開発実務者としての思いは同じであるということである。「連携」とは手間ひまのかかるものである。しかし、自分たちにない長所を持つ他機関のノウハウを利用して、より良い仕事をするための方法、と捉える時、開発実務者の選択肢は2倍にも3倍にも広がるのである。

 例えばタンザニアでは、USAIDミッション,日本大使館・JICA事務所,JICA橋本専門家が実にスムーズなチームワークでお互いの良い所を組み込んで案件形成をしている。日本の保健分野の無償資金協力も、USAIDが精力をつぎ込んでまとめた需給予測を活用したことで、タイムリーな投入を効果的に行うことが可能になった。USAIDもまた日本の技術協力で訓練された人材を高く評価し、その基盤の上に感染症分野のプロジェクトを展開できるようになった。「100%国産」にこだわらないことが、より効果的な協力を実現し、相手国からもより感謝される結果につながった好例であろう。

 好奇心旺盛で、時にクレージー(USAIDではホメ言葉である)な、でも仕事以外の話も大好きなUSAIDの専門家たちは自分が利用されることを歓迎している。どうぞ読者の方も機会を作ってご自身のビジョンを語っていただきたい。新しいものは出会いから始まるのだから。