2002年9月特別寄稿 |
スリランカ・平和構築に向け一層の協力を |
国際協力銀行開発第2部第3班課長 岡崎 克彦 過去19年間に亘ってスリランカ北東部を舞台に内戦を繰り広げてきたスリランカ政府とLTTE(タミル・イーラム解放の虎:スリランカ北東部の分離独立を主張するタミル人組織)が16日からタイで和平交渉を開始する。1983年の暴動を契機に始まったシンハラ人とタミル人との民族対立を原因とする内戦を巡っては、これまでに何度か停戦に至ったことはあったが、両者が和平交渉のテーブルについたことはなかった。内戦を通じて8万人以上の死者、10万人以上の負傷者、130万人の難民を出したスリランカにようやく平和が訪れようとしている。 転機となった9・11 昨年7月24日早朝、スリランカ最大の都市、コロンボの郊外にある、同国で唯一の国際空港であるバンダラナイケ空港と隣接する軍事基地をLTTEが襲撃し、空港に駐機中の旅客機4機が破壊されたことはスリランカ国内外に大きな衝撃を与えた。北海道の0.8倍の国土に7つもの世界遺産があるこの国に貴重な外貨収入をもたらす海外からの観光客の足は完全に遠のき、同国経済は急速に悪化した。 コロンボ市民がLTTEとの市街戦の恐怖を現実のものと理解するようになったこうした状況の転機となった事件が米国における同時多発テロの発生である。テロに対する批判が各国で高まる中でLTTE側も武装闘争の限界を認識、さらに12月に行われた総選挙の結果、和平実現を選挙公約に掲げた現与党が勝利すると、本年2月にはノルウェー政府の仲介によって現政権とLTTEとの間で無期限停戦が合意され、和平実現に向けた国内外の期待は一気に高まったのである。 官民の連携が重要 筆者が勤務する国際協力銀行は円借款の供与等を通じてスリランカの経済発展を支援してきたが、そうした業務に加え、現在はスリランカ研究の第一人者である龍谷大学中村尚司教授を中心に、立命館大学、コロンボ大学とも連携して将来の北東部復興支援のあり方を調査、検討している。また本年4月から4ヶ月間、スリランカに滞在し、国内3都市の住民を対象に意識調査を行った一橋大学足羽與志子教授は自身の調査結果を踏まえてスリランカ国内の有力紙デイリー・ニューズの8月23日付紙面に意見広告を掲載し、@北東部における民主主義定着に向けた暫定自治機構発足の際に国際監視団を導入する、Aスリランカ政府、LTTE双方に透明性、説明責任を確立する、B次代を担う若い指導者の民族間交流の促進する、C開発プロジェクト実施に伴う新たな民族・文化的対立を回避する、D平和構築に関する問題を総合的に所管する平和省の創設する、を提案した。この内容は和平交渉関係者の間で大きな反響を呼んでいる。内戦の原因が民族対立にあるため、こうした専門家の知見や既に北東部で活動を開始している国際機関、NGOの経験にも真摯に耳を傾ける必要がある。 平和構築に主体的な参加を 1950年1月、当時のスリランカの首都であったコロンボにおいて英連邦外相会議が開催され、「アジアおよび太平洋地域における協同的経済社会開発のためのコロンボ・プラン」(通称「コロンボ・プラン」)の発足が決定した。我が国の経済協力の歴史は同プランに加盟した1954年10月6日に始まるとされ、毎年10月6日は「国際協力の日」として全国各地で様々な行事が行われている。政府開発援助(ODA)の見直しや削減が叫ばれて久しいが、スリランカ政府とLTTEによる和平交渉は、そうした議論とは関係なく、進んでいく。我が国はスリランカに対する最大の支援国であり、スリランカ国民が「平和の配当」を享受するために引き続き効果的な経済協力を継続するとともに、平和構築に向けた議論にも主体的に参加していくことが重要であろう。そうした作業に積極的に参加していくことは昨今の政府開発援助の見直しを求める声と方向性において異なることはないと確信する。 |