ワシントンDC・ODA改革ランチ

「日本のNGOによる経済協力の現状と今後の方向性」

 2001年12月6日、米国ワシントンDCにて、官・学・民・国際機関の経済協力実務家を中心とした有志約20名が、個人の資格でODA改革(日本のNGOによる経済協力の現状と今後の方向性)について昼食を交え意見交換を行ったところ、概要は次の通りです。

(ポイント)

 

  • 政府の側は、なぜ、どのようにNGOを通じた援助を実施していくのか、明確な戦略・政策を提示する必要がある。政府としてNGOに予算を付ける以上、何に重点的に予算を配分していくかという戦略・政策を提示していくことに精力を集中し、個々のレベルでの実施についてはNGOに競争させてアイディアを出してもらうというアプローチを取るべきである。そのためには、NGOによる援助の現場を知るための方策NGOを通じた支援の立案能力やNGOに対する審査・モニタリング能力の向上NGOの実態に関する情報収集能力の向上政府部内の調整・情報共有に取り組むことが重要である。
  • NGOの側には、NGO間の対立、世代格差、人事・財務管理の未成熟、理念・政策・戦略の不足、説明能力の不足、専門性や語学力の不足等、様々な問題がある。予算不足、人材不足にはNGO側の取り組みにも一因がある。今後は国際交流から脱皮して専門性を持ち、途上国のコミュニティだけでなく、他国のNGOやドナーとのコミュニケーションを図り、交渉能力をつけるとともに、援助に関わる全ての関係者に対する説明責任を果たすことが重要である。また、NGOには資金授受以外の政策対話・協議や、先進国の社会のあり方自体の見直しといった役割もあることに留意すべきである。

 

(本文)

1.日本のNGOによる経済協力の現状と今後の方向性

(インターアクション(米開発NGO連合体)インターン・杉原ひろみ)

(1)はじめに

 私は、1997年から2000年まで、在ジンバブエ日本国大使館の専門調査員として、経済協力班で主に草の根無償資金協力を担当していた。具体的には、現地NGOや国際NGO、国連機関等が行うプロジェクトを年間10件程度支援していた。2000年に大使館での任期終了後、夫の転職に伴いワシントンDCに移り、現在、インターアクションで日米官民パートナーシップ(P3)イニシアティヴのインターンとしてフォレスト事務局長と一緒に働いている。

(2)開発援助におけるNGOの位置付け

(イ)援助におけるドナー・途上国政府・NGOの関係

 開発援助は、以前であればドナー・途上国政府・援助裨益者の3者間で行われていた。しかし、1980年代後半から90年代にかけて流れが変わり、先進国NGOや途上国NGOが援助のアクターとして重要視されるようになってきた。これにより、アクター相互の関係がより複雑になり、その力関係により援助が左右されるようになった。その結果、アクター間の調整がより重要になってきている。

(ロ)NGOの4類型

 自分自身の考えでは、NGOの類型として次の4つが挙げられる。

(a)受益型:ドナーの資源・サービスを直接受益する、途上国の草の根組織、コミュニティをベースとした組織。

(b)コントラクター型:ドナーからプロジェクトの実施を請け負って実施する組織。

(c)主体型:主体性を持って組織の使命を実行する組織。

(d)アドボカシー型:ドナーの政策・活動に影響を与えようとする組織。

 例えば英国の場合には、国際開発庁(DFID)は従来からの英国NGOへの支援を削減して途上国NGOを直接支援するようになってきているため、英国NGO自身が主体型からアドボカシー型に移らざるを得ないといった状況に置かれてきている。

 米国の場合、特にワシントンDCに事務所を構えているNGOはコントラクター型(USAIDから実施を請け負うもの)が主流である。ただし、一部に主体型NGOもある。

 日本の場合には、従来はNGOに政府の資金が流入してこなかったため主体型NGOが多かったが、昨今の政府によるNGO支援強化を考えるとコントラクター型が増加すると思われる。

(3)日本のNGO・ドナー関係

(イ)ドナーのNGOに対する期待

 第一に、昨今何かと日本国民から批判を受けているODAに対して国民の理解と支援を得るため、シビルソサエティの中心になると思われるNGOとの連携が必要になってきていると言える。この文脈ではドナーはコントラクター型のNGOを期待している。

 第二に、NGOは途上国の地域社会・住民に密着したきめの細かい援助の実施や緊急人道支援等で迅速・柔軟な対応が可能という点が挙げられる。しかし、自分の経験から言えば、力がないNGOもあり、逆に力のあるNGOでも、ドナーが現場の状況を把握し、フレキシブルな対応をして行かなければ、そうした期待は実現できないことに留意する必要がある。

(ロ)NGO支援の実態

 このNGOに対する期待を実現するため、政府はNGO組織のキャパシティ・ビルディング、マネージメント・専門性・アカウンタビリティの向上等のために、各種トレーニング、ワークショップを実施している。しかし、現実には日本のNGOは組織が脆弱で資金・技術協力するに値するNGOが少なく、政府側としても予算をいかに効果的に使うか課題になっている、との状況が浮かび上がってくる。

(ハ)日本のNGO自身が抱える問題点

 11月26〜28日までロンドンで開催された日英NGOパートナーシップ会議に個人の資格で参加し、15の本邦NGO代表と実際に話す機会があった。また、インターアクションでは日米NGO協力関連の情報が入手できる。その中から、日本のNGO自身が抱える問題点を次の通り整理した。

という問題もある。途上国では、ドナーをはじめとして様々なアクターが様々な形で関係と役割を持ち、援助を行っているのが現状だが、自分が先週出席した日英NGOパートナーシップ会議の日本側NGOの中には、自分たちと途上国のコミュニティの間で全てが完結し、その国の社会経済状況、セクターを横断しての状況等、全体像を把握した上での自分の位置づけを考えていない。この結果、活動の意味合いを第三者に納得できるよう十分説明出来ていない。 。日本人大学生の中には、国際開発分野で華麗な活躍をすることを夢見て英米の大学院に進学して日本に帰ってくる者もいる。しかし彼らの心を日本のNGOはつなぎとめられていない。予算不足で薄給だとしても、仕事を通して得ることがあったり、自分の意見を組織に反映できるなど、やりがいもあり組織が魅力的であれば、人はついてくるのではないかと自分は考える。予算についても、かつて自分はジンバブエで主に現地NGOに予算をつける仕事をしていたが、大使館や外務省に予算は確保されており、何時でもNGOからのアプローチを待っている。しかし、現地NGOから出されたプロポーザルには、アイディア不足、政府側へのアプローチ戦略不足、NGO間のコーディネーション不足、好意的な大使館担当官ですら説得できない詰めの甘さ、勉強不足等が頻繁に見られた。同じことが日本のNGOにも言えるのではないか。

(4)ドナーと日本のNGOが解決すべき課題

 ドナーとNGOのそれぞれが今後解決しなければならない課題を考えるに際しては、背景として日本政府による「NGO支援バブル」のおそれがあるという事実を大きく認識しなければならない。例えば、日英NGOパートナーシップ会議の参加者の中には、会議の参加のみならず、英国にただ来たかったという人もいたようである。人間なので私心をなくすことはできないが、チェックしていくことは必要である。政府のODA批判をしていたNGOが、ODAの利権に入り込んではいけない。

 また、NGOはその国の社会構造やシビルソサエティの歴史の中から生まれ、変化するものであって、またドナーと途上国政府の力関係によって異なって当然のものである。現在、日本のNGOは英米のNGOから学ぼうということで各種の研修プロジェクト等が行われているが、英米のアプローチが日本のNGOに本当に当てはまるのか、十分に吟味する必要がある。

(イ)ドナーの課題

 もし日本のNGO支援が日本国民のODA批判に対処する形で始まったとすれば、非常に危険である。それでは真のNGOは育たない。政府は、「なぜ」、「どのように」NGOとパートナーシップを結び、援助を行うか、明確な政策を提示する必要がある。そして第三者にもわかる整合性のある戦略を立てなければならない。

 このためには、現場を知るための方策、NGOの審査・モニタリング能力の向上、情報収集能力の向上(NGO内外のうわさ、評判など公の会議では話されないことこそが重要)、そしてドナー側組織内部・組織間の調整と情報共有が大事である。

(ロ)日本のNGOの課題

 他方、NGOの側としては、国際交流的な開発NGOから脱皮し、専門性を持ち、途上国のコミュニティだけでなく、他国のNGOやドナーとのコミュニケーションを図り、交渉能力をつけることが重要である。大学のサークルの延長であったり、開発ツーリズムの大衆化(NGOがお茶の間の人をつれて井戸掘りや学校建設の現場を見せたり、病院に余ったベッドを送る等)で良いのか。専門性がなければ、日本のNGOはどんどんマージナルな存在になっていってしまう。

 最後に援助に関わる全ての関係者に対する説明責任を果たすことが重要である。NGOとA村、B村で完結せずに、実施するプロジェクトの置かれた文脈を考えに入れて円熟した説明を行う必要がある。

(5)おわりに

 以上、率直に日本のNGOを考える材料を提供させていただいた。NGOの問題は、同時にドナーの問題でもある。昨今NGO支援のための予算は増加しているが、ドナーが明確な戦略をもってNGOと向かい合い、国際社会のダイナミズムの中でNGOを育成していかないと、NGOの利権に対する批判が国民から生まれるおそれも考えられる。今は日本のODA転換期であり、その中でNGOが重要なプレーヤーであると考えるからこそ、今回意見を述べさせていただいた。

2.席上出された意見

(1)日本のNGOの歴史・現状

(2)NGOの人材育成

(3)NGOの予算

(4)NGO間の競争、NGOの専門性

(5)米国のNGO

(6)NGOの世代間の問題

(7)NGOから政府の経済協力へのインプット

(8)先進国の社会のあり方も視野に入れたNGO活動

Centre for Civil Society等で研究がなされている。

(9)NGO支援メカニズムの改善