ワシントンDC開発フォーラム
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「開発におけるローンとグラントの役割」
2002年5月1日、ワシントンDCにて、政府、実施機関、世銀グループ・米州開銀・IMF、企業、NGO、シンクタンク・大学、メディア等の経済協力関係者約20名が、開発におけるローンとグラントの役割について、昼食を交え個人の資格で意見交換を行ったところ、概要次の通り。
【ポイント】
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冒頭プレゼンテーション担当:中村 隆司(なかむら・たかし) ―――――――――――――
1957年長崎県平戸市生まれ。京都大学農学部農林経済学科卒業。1980年海外経済協力基金入社。2001年より、国際協力銀行ワシントン事務所次席駐在員。
(本プレゼンテーション内容は発表者個人の見解であり、所属先、ワシントンDC開発フォーラムの立場を述べたものではない。)
【冒頭プレゼンテーション】
1.はじめに
私は、ローンを供与する組織(OECF、JBIC)に長い間所属しており、ローンを使ってプロジェクトを作ることをやってきたが、昨今ローンのグラント化について随分議論されている。ワシントンDCで日本のローンやグラントの話をするのはためらわれるが、当地における開発潮流の議論の中で、日本のローンやグラントが一体どのような形で役割を果たしてきたのか、両者を対比させるような形で提示したいと思う。席上、レジュメに加えて、経済企画庁が2000年に発表した円借款の援助政策評価分析の調査報告書を配布した(http://www5.cao.go.jp/2000/b/1226b-tojoukoku-s.html に掲載)。
これは、世界銀行の報告書’Assessing Aid’に触発されて、円借款に当てはめるとどうなるかを取りまとめたものである。また、JBICが本年4月から開始した業務運営評価制度の資料及び海外経済協力実施方針(今後3年間のODAローンの方針)も参考まで併せ配布する( http://www.jbic.go.jp/ に掲載)。
2.開発の潮流(1990年代〜)
(1)開発を巡るイベント
先般の開発資金国際会議のみならず、1990年代を通じて開発関連のイベントは多数開催されている。国連のサミットだけをとってみても、90年は教育、91年は子供、92年は環境、93年は人権、94年は人口、95年は女性をテーマに開催された。そして、2002年には開発資金国際会議に加え、6月に食料、8−9月にWSSD、そして来年初頭には水フォーラムが開催される予定である。
(2)貧困概念と削減戦略
この流れの中で、どのような貧困概念の整理と貧困削減のための戦略があったかを確認したい。
(3)援助の動向
1990年代にバイのドナーが実際にどのようなパフォーマンスを示したかといえば、全体としてODAが減少したということである。量については民間資金が中所得国を中心に流れており、途上国に流入した資金額自体は圧倒的に増加したが、ODAのみを見ると減少している。その中での各国の役割は、米国はわからないが、欧州においては、公共セクター全体見直しの中で、援助機関のあり方が各国毎に問われてきた。その中でバイの機関として国内納税者に対するアカウンタビリティを高めることが要求されるようになり、援助機関として智恵をしぼってDACや国際機関との関係で智恵をどう発展させていくかという点につき、特にアフリカを中心に検討と議論が繰り広げられてきた。他方、日本としては、この時期は量の拡大を掲げ、他国の減少分を支えてきた。
ただし、援助の効果・実績を見ると、貧困に焦点が当てられながらも、実態としては貧困削減に向けての目立った進展はなかった。特にアジアでは、1997年までは貧困が減ったものの、その後のアジア危機の影響でそれが鈍ってしまった。
また、援助の手法自体、1990年代から今までに大きく変わった。構造調整、プロジェクトタイプが80年代とすれば、いろいろなフォーラムにおいて、セクタープログラム、セクターワイドアプローチなど、「援助はこういう形でないといけない」といった議論が出てきた。援助の効果についての疑問、それに対してどういった援助のやり方が最も良いのかという疑問から、これらの論点が提示されたものである。具体的には、プロジェクト型援助が実際には有効だったのか・見直すべきではないのか、能力の限られた途上国側に多数のドナーがいろいろな報告文書を要求するのは不適当であり、セクター内で協調すべきではないのか、カネに色はつけられないというファンジビリティをどう捉えるか(援助に1ドル出せばその一部は他のために間接的に回されているのではないか、例えば中国向けの円借款は軍事費を肩代わりしているのではないか)等がある。その他、IMFが当該国の公共支出を確認しようとしても、そもそもバイのドナーによる援助についてはその中に盛り込まれていないとがそれで良いのか、皆のお金をまとめて使うというコモンプールのアイディアが英国等より提案されているがどう対応するのかといった問題もある。日本の旗を立てるという観点からも十分な検討を要する議論が正に出てきている。
このような動きの中で、JBICも徐々に改編が進んでいる。1999年に統合するとの話になり、準備期間4年で国際協力銀行になるための作業との関係で、人や機構を増やすといった新しいことをやる状況になく、国際的な動きを横目で見ながら今日に至っている。ある意味では、世銀等マルチの国際機関や他のバイのドナー機関のアプローチ・制度的な見直しからかなり出遅れてしまったという意識もあり、これからキャッチアップをどれだけできるかというのが我々の課題と認識している、業務運営評価制度や海外経済協力実施方針がJBICとしての新機軸である。
3.ローンとグラント
(1)返済義務と事業規模
ローンは返済義務があり、この結果個々のプロジェクトの財務的・経済的収益性を見る必要があり、財務規律を保って安定したマクロ経済運営を行うことが期待され、金額的には大規模事業にファイナンスが出来る一方で、グラントは債務負担がなく、小規模・社会開発・ソフト事業に適するという違いがあると一般に認識されている。ただし、ローンとグラントを比較するためには、究極的にいえば、当該支援がどのような目的に使われ、どういう効果を期待しているのかという点こそ重要である。実施主体である途上国政府からすれば、まずは何に使っていくかという点にポイントがあって、ローンかグラントかという財源の違いでプロジェクトの効果に違いが出ると言うことはない。例えば、我々がグラントを出してもそれを原資に国内で金融を出来るし、我々がローンを出しても中央政府はそれを地方公共団体にグラントとして供与することもあり得る。
(2)ローン、グラントの効果
ローン・グラントの効果については、1990年代にいろいろな研究があり個別に説明は出来ないが、いろいろな文献については経済企画庁が2000年に発表した円借款の援助政策評価分析の調査報告書(上述)がきちんとレビューしているのでそれを参照願いたい。論文のレファレンスや批判も入っている。この調査報告書は、当時企画庁が海外経済協力基金の監督官庁だったということもあり、世銀の行った援助政策評価と同じ手法を円借款に適用したらどうなるかを調べたものである。開発効果をどう測定しどう考えていくか、別の機会に取り上げていただきたい。
4.目標達成のための手段として機能しているか?
最大の問題は、日本の経済状況が厳しく、日本国内の援助に対する意見も厳しい中で、開発におけるローンとグラントの役割を考えた場合、目的・目標を達成するための手段として本当に機能しているのかという点である。援助量の増減の適否以前の問題として、日本として援助の政策が何であり目標が何なのか、その手段としてローン、グラントをどういう組み合わせで使っていくのか、これを誰がどう議論しどう決めていくのか、その結果についてどのように事前・事後で評価するのか、それがない限り、ODA全体に対する逆風への回答は出てこない。
一番難しいのは、このような政策イシューと政策を実施する際の組織が多岐に亘っていることである。日本のODAは12−13の省庁が関わっているが、メインプレーヤーを取ってみても無償・技協は外務省・JICA、有償は外務省・財務省・JBIC、国際機関向けは財務省・外務省に分かれている。その中で、ローンとグラントをどう有機的につなぐかが課題である。JICA・JBICの連携マニュアルはあるが、目標を相互に認識して達成する上でどの程度機能してきたか、問題があったときに自ら両組織を調整する役割をどの程度果たしてきたのかが課題となる。今後、説明責任を負った形で国民に示す必要があり、組織をどの様にしていくべきかが議論されることとなろう。
JBICは、本年4月より業務運営評価制度を導入した。これは、日本以外の先進国の多くがパブリック・セクター・マネージメントの手法として使っているように、何のために税金を使いどのような効果があったのかを、国民にひとつひとつ示していくものである。例えば、英国が早くからエージェンシー制度を導入したが、このような考えを日本にも適用するというものである。特殊法人改革、独立行政法人といった動きの中で、JBICがどういうことをやる組織で、手段は何でで結果はどう達成するかを示すことが強く要請された。そこで、1年強位かけて様々な組織の取り組みを調査しつつJBICの方針をまとめたものである。これまでは設置法に従っていれば良かったし、確かに法律にはJBICが何をする組織か書いてあるが、この組織が果たすべき使命を考えてみようということで、法律の中からJBICのミッションを明らかにした。それをどのように活動していくか、ガイディング・プリンシプルを提示し、それに対して具体的にどのようなオペレーションを行うかについて、定量化出来ないか指標を挙げてみた。更に、業務戦略、業務方針を事業分野毎に作り、年間事業計画を作って、その下でセクション毎に目標を設定し、セクションの下に個人がある。個人は1年間を通じてなにをやったかその人の評価につながるようにしようということで、人事制度がその下を支えている。これは、JBICだけがやれば良いことではなく、日本の公的機関はすべからくこれをやらないと納税者に対する説明がつかないのではないかと思っている。
また、ODAについては実施方針を法律に基づき3年毎に作る必要があるが、JBICとして本年4月からの方針を策定した。途上国のニーズを踏まえた選択的支援、知的協力、透明性を掲げ、重点分野として7項目を立てて今後3年間でこれを推進していく。
案件レベルでアカウンタビリティを高めるというのは自己完結的に過ぎ、日本全体の政策としてどう説明され評価されるのかというところこそ問われなければならない。日本としての枠組みについての基本的な整理を抜きに、ローンとグラントを如何に組み合わせることが適当かというスタンスを決めることは出来ない。全てが基本政策に戻ってしまうが、これまでの国際的な論議が急速に進んでいることも踏まえれば、日本として本当にどうするかを決めるための時間もあまりないという感じもしている。
【席上出された意見】
1.グラントと比較してのローンの優位性
2.東アジアの経験の汎用性
3.援助手法のあり方
4.その他
(以上)