2002年9月25日ブラウンバッグランチ資料 |
世銀と日本の真のパートナーシップを目指して |
世界銀行副総裁兼駐日特別代表 吉村幸雄氏 日本が世界銀行とIMFに加盟してから、今年の8月で50年を迎えた。私は、世銀副総裁兼駐日特別代表としてこの節目の時に東京に着任し、世銀と日本の関係強化に注力することとなった。日本は加盟後世銀から総額およそ8億7千万ドル、31件のプロジェクトに対して借入れを行った。そして,このような国際的な復興支援と日本自身の努力によって、この50年間に日本は多くの途上国にとってモデルとなるような、経済および社会の成長、発展を成し遂げた。また、世界銀行の借入国から現在では最大級のドナー国として、途上国への開発援助実施にあたり重要な役割を担っている。 ところが,その日本において開発援助に対する国民からの支持が急激に落ち込んでいる。世界銀行にとって日本の支援は重要である。世界銀行の第2位の出資国である日本からの支援が薄れれば、世銀の資金基盤を揺るがす事態になりかねない。しかし、それと同様に重要な問題がある。世界銀行に対しては、政府はもとより日本全般としてその活動に対する理解と支持を引き続き頂いていると考えているが、他方でオピニオン・リーダーや研究者、開発援助関係者の間には、日本の専門家の知見や問題意識が世界銀行の政策に十分反映されているのか、との疑問が出ているのも事実である。主要援助供与国である日本の各層に世銀の援助戦略が十分理解されず、考え方にくい違いがあるとすれば、援助の受入国側に混乱を招くと同時に、効果的な援助の実施に支障をきたすおそれもある。 国際社会はミレニアム開発目標を掲げ2015年までに貧困率を半減させようとしているが、その達成のためには、各援助国が援助を経済・社会の両面からより包括的に途上国の問題を考え、戦略的な方向性に関し援助供与国間で合意に基づいた連携を行うことが益々重要になってきている。また、最近では世界銀行は援助に関する「知識の銀行」としての役割にも力をいれており、途上国のキャパシティ・ビルディングの為の専門知識を提供できるパートナーという点でも日本との関係は重要である。ユニークな経験や考え方をもつ日本は他の先進国よりもより途上国に近い立場で、専門性を提供することが出来る立場にいると期待されている。 私の日本での主要な仕事のひとつは、日本の各方面の持つ幅広い経験、知見を世銀側に伝え、これをきっかけに世銀と日本側の実のある対話が行われるよう促し、両者間の情報の不足や誤解を無くすよう努力することにあると考えている。またこのためにも、世銀東京事務所の機能強化が必要になる。 昨年私がワシントンで、世銀ウォルフェンソン総裁の特別顧問をしていた際に、彼から求められていたのも、日本との関係強化策であった。このため、私は世銀日本人スタッフ有志の協力を得て、日本と関わりを持つ世銀スタッフと開発援助の政策策定、実施に重要な影響を及ぼす日本側関係者双方に個別インタビューを実施した。協力してくれたスタッフの尽力により、世銀では援助の実施部隊のみならず、資金調達、調査、人事など幅広いスタッフから、また日本関係者では政府のみならず、NGO、大学、企業など多岐にわたる分野の方々から、世界銀行と日本の関係の現状およびあり方について意見を聞くことができた。インタビューは数ヶ月にわたってワシントンと東京で実施され、我々がお話を伺った人数は延べ300人を超えた。ここでは、そのインタビューの結果浮かび上がってきた問題のうち、特に私の印象として強く残った点をまず紹介したい。 日本の援助専門家、学識経験者の発言として強く感じられたのは、世界銀行が中心となって取り組んでいる貧困削減の為の支援戦略について、世銀は日本側にもっと説明し、疑問に答えるべきであるとの指摘である。具体的には、世界銀行がアフリカなどで進めたやり方は経済成長やインフラ整備に重きをおいておらず、アジアの低所得国のニーズには必ずしも適していないのでないかという意見があり、また、経済発展と政治的安定のためには中間所得層を育てることも重要であるが、その点に対する考慮が十分でないとの意見もあった。他方、世銀スタッフからは日本の専門家の国際会議や開発の現場における発言が一般に少なく、また援助関係省庁や援助機関の間の調整についても改善の余地があるとの意見が出された。 また、日本側、世銀側関係者の双方から、世銀は従来よりも幅広い層の日本関係者と接触していく必要があるとの認識が示された。これまでの世銀の日本との接触は一部省庁や援助機関が中心であったが、幅広い官庁や地方公共団体、民間企業やNGOと意見交換し、協力の可能性を探っていくことが「知識の銀行」を目指す世銀にはふさわしいとの意見が一般的であった。日本のコンサルタントやサプライヤーに、多国間のアンタイド・プログラムの意義を理解してもらうよう、一層の努力が必要との意見もあった。 さらに、日本側関係者から、世銀の日本に対するアプローチが各部局からそれぞれ行われ、時として一貫性を欠くことがったとの指摘があり、他方世銀側からは、世銀の活動が現地密着を目指して組織としても分権化が進み、意思決定のできる国別の局長が担当途上国に常駐する一方、日本の援助は意思決定が東京で行われる体制となっていることから、両者間の連絡を密にするための一方ならぬ努力が要るとの指摘もあった。 最後に、世銀で日本人スタッフが十分に活用されていないのではないかとの声は幅広く聞かれた。リクルートの強化はもちろん必要とされたが、あわせて有能な日本人が多数世銀に残りより重要なポストで仕事ができるようになる必要があるとの意見が出された。 先にも述べたが私は今般東京に駐在することとなり、前職でインタビューを通じ得た世銀と日本の関係のついての広範な改善・強化策に実際に取り組むこととなった。実は東京事務所では先に紹介したような問題に関し、これまでも取り組みが行われ徐々に成果も上がってきている。次に東京事務所の取り組みを中心に今後の世銀の対応について述べたい。 まず、貧困削減への取り組みであるが、現時点ではインタビューを行った時点に比べて双方の理解は相当に改善したように思われる。これはモンテレ−の国連開発資金会議やヨハネスブルグの開発環境サミットなどを通じて貧困問題への国際的関心の高まりが日本でも理解されてきたことに加え、世銀においても従来十分議論がされてこなかった経済成長やインフラ整備の持つ貧困削減への意義が次第に認識されてきたことによるところが大きいと思われる。東京事務所としてもさらに双方の認識の深化を図るべく、世銀の政策担当者訪日の機を捉えて日本側との対話の促進に努めることとしたい。 次に、日本の幅広い層とのコンタクトであるが、東京事務所はこれまでも各政府機関、援助機関、NGO、研究者さらにはコンサルタントや民間企業の方々に広く世界銀行が支援するプロジェクトに様々な形で参画していただくために、業務説明会や意見交換会を行ってきた。特に、次世代を担う学生のグループがインターンとして日本での世銀の活動を支援していることはワシントンでも注目されている。今後は、副総裁が駐在するメリットを生かして各層とのより高いレベルでの接触を試み、また世銀内部でも担当の副総裁に直接働きかけることにより、単なる意見交換を超えた目に見える成果の実現を目指すこととしたい。 さらに、世銀の援助業務を実際に途上国で担当する国別局長などとの意見交換のためには、彼らがワシントンに出張する際東京に立ち寄るよう東京事務所から働きかけ、日本側関係者との対話の確保に努める方針である。アジア各国担当者は言うに及ばずアフリカの担当者などにも、このような働きかけをおいおい強めていくこととしたい。また、言いっぱなし聞きっぱなしにならないよう、意見交換後のフォローアップにも努めたい。 既に9月には世銀・IMF加盟50周年のシンポジューム参加のため、南アジア担当の西水副総裁が訪日し、その後も年内に人事、対外関係および国連、環境そして東アジアそれぞれの担当の副総裁計4人の訪日が予定されている。特に11月には東アジアを担当する幹部数十人が東京に一同に会し、日本の関係者と総合的に議論することになっている。私としてはこれらを皮切りに、今後こういう機会を恒常的に続け、世銀と日本の対話の充実を実現したく考えている。 最近、ODAのあり方に対する批判が強まる中で、日本の顔の見える援助という議論が盛んである。しかし、「顔の見える」という意味が、援助に日本の製品が使われるとか日本企業が参加するといった狭い意味に取られるとすれば残念なことだと思う。過去、日本はその多額の資金支援に比べると、国際的な援助政策の議論を積極的にリードすることが少なかった。しかし、本来は政策の議論を通じて援助に対する日本の顔が見えるべきであろう。また、人的な貢献も日本の顔を見せるために大事である。 世銀と日本の関係でも、双方にとって有意義で相互補完的な関係を築くためには、更に積極的な政策対話と人的交流が求められる。世銀は日本の人々と共に、貧困に苦しむ人々の声に耳を傾けながら、本当に必要とされている援助は何かについてもっと頻繁に議論し、現場での活動に生かすためにはどうすればよいかを絶えず考える必要がある。このため、東京事務所としては日本の各層と世銀の真のパートナーシップを推進すベく一層努力することとしたい。 |