2003年1月17日BBL概要

水分野に関する開発と日本の役割

1月17日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「水分野に関する開発と日本の役割」が、約 25名の出席を得て行われました。

冒頭、上田悟氏(世界銀行中東・北アフリカ局上級水資源専門官)からの講演があり、 その後の出席者からも様々な意見が出されました。 冒頭講演及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通りです(順不同)。

1.世銀の水分野における戦略
(1)投資を行っても、キャパシティ・ビルディングを行い、それを支える制度・組織 ・費用の捻出を行なわなければ、長期的な維持ができない。灌漑設備および維持問題は 両輪である。
(2)世銀ではセクターリフォームが進んでおり、制度的にいかに作った灌漑設備を維 持できるようなキャパシティをつけるか、制度建て直しの経験を世銀は豊富に持ている 。
(3)ダブリン原則やセクター間の横断的発想は、水分野ではまだ未発達な部分があり 、たとえば水を所有している所有者は、井戸は自分のものであり、国家に管理されたく ないと思っているなどの面がある。
(4)水は公共財でもあり、経済財でもある。農業用水に関しては、難しい問題を内在 させており、現地レベルでは相当な苦労がある。あまりに巨大な目標を掲げると達成で きなくなるために、まず手の届くことろから始める発想が大切。
(5)新しい戦略の中ではハイリスクハイリターンも重要であり、貧困にフォーカスし た最近のプロジェクト(衛生管理など)は、どこの援助機関も使いやすいし、効果が上 がっている。

2.日本の水資源政策・第3回世界水フォーラムについて
(1)中近東・アフリカにおける渇水が注視されているが、これだけではなく、アジア における洪水などにも着眼されるべきで、この意味では、日本では、灌漑・上下水道・ 電力発電など包括的に水の利用が行われている。
(2)国際舞台では目だったメッセージが日本から発信されてきていないという思いが 高まってきた中で、水分野では世界最大のフォーラムが日本で開催される。 日本はビジョン・アクション・インプルーブ(向上)という点から、最近では質の高い レポートが次々に出されている。
(3)第3回世界水フォーラムで一番影響があるのは日本であり、私的には、これが終わ ってなにが残るのかが一番気になる。水に関しては、従来あまり共通認識があったとは いえず、これからは他のプレーヤーと同じ土俵でやっていけるように変化すると思われ 、これはたいへんすばらしいと思っている。
(4)水分野がODAで占める割合は非常に高い。日本からの情報発信は従来少なかっ たが、この機会に、他ドナーの日本に対する見方が変わって くると思う。

3.パートナーシップについて
(1)当然ながら、やはり、ドナー中心になってはいけない。政府・地方との連携のも とに、方向性の詰めを行うことが肝要。
(2)テーマをフォーカスしないといけない。非常に広い水管理のコンセプトをこれ以 上細かくしても仕方ない。本当に問題になっているのはどこかを取り出していくことが 大切だ。
(3)地下水の問題にせよ、これをいっているだけではだめ。各レベルの巻き込み・参 加をどのように推進していくかが大切だが、あまり良い成功例はない。ヒントになるも のはいくつかあり、例えば大規模施設・貯水・基幹水路・などなど、みんなで一緒にや らなければいけない。
(4)水資源は、「見ることのできない」公共財であり、資源問題として理解してもら えるものの、本当の意味でのインセンティブがいまだ少ない。経済的インセンティブを 考え抜いて、各分野からの協力を得るするためにはどのようなインセンティブをつくれ るかがポイント。
(5)本当の意味で水を節約するにはどうすればいいか。水を節約したからといってど うなるのか。節約した分を他のことにつかうということになると、元の木阿弥である。 地域レベルでの実践を通じて、成功例を積み上げ、法整備を進めたら最適状態になった という「生の」成功例がほしい。
(6)水を資源として捕らえ、効率化を考える。ローカルレベル・パイロットプロジェ クトレベルに根付いた実際の「生」の問題にフォーカスしたものであれば、次のアクシ ョンに結び付けやすいと思う。

4.京都議定書会議以降と、日本への期待・日本の取るべき戦略
(1)日本は、水分野で情報発信、先導役となることが大事。 日本は、すでにボリュームのある、基幹の仕事をしている。例えばJICAのやってい る、マスタープランなど、資本・時間が共に必要で、他のドナーではできないものだ。 あとは、これを「どう使って」先導役となるかが大切で、ワークショップの開催などで 、他のドナーとの情報共有を行えばよい。自己アピールをもっと声を大にしてすべきだ 。
(2)日本の技術的強みを前面に出すべき。理念も大切だが、データ・技術など技術力 がなければ結局だめ。水の微量分析、衛星を使った分析など日本には優れた知見があり 、今後とも是非とも進めてもらいたい。

5.新規ダム建設について 社会・環境。該当国の意思確認など、さまざまな事項がある。インフラ整備はいわゆる 「WIN-WIN」を構築せねばならず、現段階では各種の閾値(スレッシュホールド)があり 、仕事としては時間・苦労がかかり、ストレスのたまりやすい面がある。

6.教育・保健分野などとの比較 水分野は受益国の認識も低く、保健・教育分野での援助と比較すると政治的アピールも 低い。水分野における経済学的分析手法が未発達な面もある。直接の利益については計 算は容易だが、上流・中流・下流、都市と郡部のモデリングなど標準化はいまだほとん どされていないのが現状。

7.水分野における民営化や地方分権・都市とローカルの格差 本当に効果を発揮したものはまだないので、実際のプロジェクトはこれから。ベストよ りベターの積み重ねを狙うべき。水分野では、全体としての底上げを図ることが大切。

8.文化的風習との衝突 水分野ではいかに高邁な理屈を持ってきても、現地の風習と合わなければ前に進めない 。パイを大きくすることが優先で、内部での配分は個別にやってもらうことしかできな い。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短い ものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

【ご参考】
ダブリン原則 1淡水は、生活と発展と環境の維持に不可欠な、有限で損なわれやすい資源である。 2水開発と管理は、あらゆるレベルの利用者、計画立案者、政策決定者を含む、参加方 式にもとづくべきである。 3女性は、水の供給、管理、保全に中心的な役割を担う。 4水は、あらゆる競合的用途において経済的価値を持ち、経済的財貨として認識される べきである。

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