2003年1月29日BBL概要 |
開発問題における日本の役割を考える |
1月29日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「開発問題における日本の役割を考
える」が、約50名の出席を得て行われました。
冒頭、日本国際問題研究所理事長/世銀総裁特別顧問(元国連大使、元OECD大 使)の小和田恒氏よりプレゼンテーションがあり、その後の出席者間の議論で 様々な意見が出されました。 冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通り です(順不同)。 (1)冷戦崩壊後、21世紀の国際社会の最大の問題は開発問題であると認識 している。開発問題は国際社会における「社会問題」と捉えるべきである。基 本的には経済原理の適用はあるものの、同時に社会的側面、政治的側面との接 点を念頭に置きながら包括的に考えないと、きちんとした対応ができない。 (2)冷戦期の開発問題は、東西問題と重ね合わされた問題として出てきた。 貧困を生み出した資本主義と戦うのが社会主義であるとの議論が展開され、プ ロレタリア独裁型政治体制に基づくソ連型経済発展が新興国の多くにとってモ デルとされる中で、開発援助は戦略援助の色彩が濃いものとなった。1960 年から90年頃まで、多くの資金が援助としてつぎ込まれたのは事実だが、ど う使うかという戦略の議論も実践も十分に行われるに至らなかった。(従っ て、この間に十分な成果がなかったことをもって援助が無駄であるとする議論 は正しくない。) (3)そのような問題意識に基づき、日本は新しい開発戦略をコンセプトとし て作った。これは、オーナーシップとパートナーシップという両原則(twin principles)、そして包括的なアプローチ(ODAのみならず貿易、投資、制度構 築等)と個別的なアプローチ(国毎の状況に応じ最適の方策を選択)を掲げる ものである。まずはドナー・コミュニティのコンセンサス作りに取り組み、 OECD・DAC(開発援助委員会)で合意を得てリヨンサミットで採択した。これ をグローバル・コミュニティのコンセンサスとするために国連での議論を推進 し、その結果としてMDGs(ミレニアム開発目標)が出てきた。世銀のCDF(包 括的開発フレームワーク)も、日本が提示した戦略と同じ発想に基づいてい る。更に、この新しい開発戦略を具体的に実現・実行する場として、アフリカ との関係で、1993年にはTICAD(アフリカ開発会議)を開催した。 (4)日本国内では開発援助の目的・哲学や国益との関係を巡る議論がある が、短兵急な経済的見返り・認知といった近視眼的な議論にとどまるべきでは ない。開発への貢献は回り回って日本の地位・日本に対する尊敬を高めるもの であり、日本が役に立つ立派な国として国際社会により尊敬され一目置かれる ことによって、日本の言うことに耳を傾けようということになる。国益は、そ ういう枠組みの中で考えるべきものである。外交の目的は国益ということは公 理に等しく、それだけを指摘しても解決しない。国益は何かをきっちり議論 し、もう少し徹底して考える必要がある。近視眼的にではなく長期的視野で、 日本という国が行う事業として意味があるかを考える雰囲気をどうやって日本 の中に作るかが課題である。 (5)開発にとって、社会の安定は重要である。紛争を予防し解決するという 平和構築プロセスを、開発にどのようにつなげるかということが、大きな柱と なる。 (6)BHN(Basic Human Needs)や貧困削減は重要だが、これを目標と言った途 端に狭い開発論議となってはいけない。このような目標を達成するための包括 的戦略がなければ、本当の開発ではない。社会をエンパワーして、自分で自分 をどのようにしていくかを可能にする力をつけることこそ重要である。 (7)日本の貢献は国際社会から十分認知されていないのではないか。これに 対して如何に取り組むべきか考える必要がある。 (8)日本は、金と汗の貢献に加え、知の貢献を推進する必要がある。必ずし も日本が得意とする分野ではなく、また人が変わると継続性の確保が困難とな り国際社会から認知されにくくなる点が課題である。 (9)開発については、援助、貿易、投資等、日本全体の戦略を広義の外交と して強化することが重要である。(広義の外交、対外関係においては、民間の 協力が不可欠である旨指摘あり。) (10)開発戦略についてのグローバルなコンセンサス作りは大きな課題であ り、「調整(coordination)」と呼ぶにはあまりに重要である。権限争いを排除 することは難しいが、縄張り論ではねのけるのではなく、合理的で説得力のあ る内容面での議論を通じて良い結論に持っていくプロセスが大事である。音楽 にたとえれば、指揮者がいなくとも、一緒になって同じ楽譜を作り、その中で 自分のパートを演奏するようなものである。 (11)日本国内の議論を踏まえての日本の主張は、国際社会の全体の流れと 逆のことを言い、棹をさしているようなところがあるのではないか。(国内で 国会議員や業界等を広く巻き込んで議論を深め、国際社会で必要とされる方向 性になるよう説得していく作業が重要であるとの指摘あり。) (12)日本の貢献の優先事項をどこに置くのか、どの「楽器を弾く」のかと いう戦略を考える必要がある。(議論をする中で、おのずと明らかになってく るとの指摘あり。) (13)明石康氏、緒方貞子氏、小和田恒氏などの一線から退かれた後には、 日本として知的な貢献、知的な競争をどのように行っていくか真剣に考える必 要がある。そのような知的な議論を行う仲間に入らないと、後から負担だけ求 められることになる。 (14)政治の議論が矮小化してきていることに問題があるのではないか。 (政治システム・制度を変えれば解決するのではなく、迂遠でも、「徳目を押 し付ける教育」ではなく、「考えさせる教育」を行う必要がある旨指摘あ り。) (15)開発問題は、日本自身が国際社会で生きる上で積極的に関与しなけれ ばならない、日本の国益にかかわる問題であるという点を理解してもらうこと が必要である。このためには、やはり若い人がどんどん外国に出て経験を積 み、それに基づいて考えるようにする環境作りが大事である。これからの日本 がどうなるかは、若い人達の肩にかかっている。 以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想な ど、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。 |