2003年3月5日BBL概要

日本の開発コンサルタントに期待 するもの

3月5日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「日本の開発コンサルタントに期待 するもの」が、約20名の出席を得て行われました。

冒頭、世界銀行東アジア太平洋局・都市部門開発部主席業務統括官の鈴木博明 氏(OECF、開発コンサルティング会社勤務後、1986年より約17年間世銀本部勤 務)よりプレゼンテーションがあり、その後の出席者間の議論で様々な意見が 出されました。

冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通り です(順不同)。

(1) 援助の目的は、被援助国の制度能力を高め、国の機関が世銀のような 援助機関から技術的にも財政的にも支援を受けずに自立することである。その タネがプロジェクトやプログラム等である。そして、世銀のリソースの比重は 減る中でナレッジやキャパビルこそ中核になってくる。その事業の中でのコン サルタントの役割は重要であり、これを改善しない限り世銀のパフォーマンス は改善しない。

(2) 以前、USAID・世銀と関わりのある米国のマネジメントコンサルタント の状況を調べたが、日本との違いは、圧倒的に層が厚く、経済的にも社会的に も確立された産業であるということである。米国では、60−70年代にかけて経 済が飛躍的に拡大する中で、弁護士、CPAなど優秀な人がそのような産業にい き、政府も自分たちでやらずに専門的なことは専門家に任せる体制が作られ た。これに対し、日本では、政府・公的部門が部内で企画立案の重要なところ をやり、コンサルタントはその実施をやってきた。これが、日本のコンサルタ ント業界が構造的に弱い一つの原因になっていると思う。

(3) 日本のコンサルが国際機関からの受注が低い理由として、(イ)世銀 は制度・政策の仕事が多いこと、(ロ)コストが高いこと(個人の給料のほか にオーバーヘッドが高いこと)、(ハ)プレゼンテーション・英語の問題があ ることの3点が挙げられる。このうち、コストやプレゼンはなんとかなるにせ よ、政策・制度問題に強くないという点でまだまだギャップがあると思う。

(4) 世銀で日本人のコンサルタントを活用して良かった例がいくつかあ る。(イ)世銀の支援で日本のQCサークルの専門家をブルキナファソに派遣し た際、QCの普及方法が整理されてグローバルに受け入れられる体系が出来てき ていたこと、高齢ではあるが本当の専門かで指導が上手だったこと等の理由に より大成功を収め、勲章を大統領からもらった。この道何十年とやってきた人 だったので良い結果が生まれた。(ロ)漁業のリストラを行った際、長年モー リタニア現地法人に駐在していた商社マンに改善策を書かせたところ、フラン ス人の協力でプレゼンを改善する必要があったが、実際的で大変評判の成果が 出た。(ハ)バングラデシュ・ダッカの都市開発で、日本のコンサルタントは 他の途上国の専門家も活用しつつ複雑な問題を上手に整理した。

(5) 最近十数年の変化はコンサルタント業界にとってチャンスだと思う。 政府の行革、民間のリストラ、大学の独立行政法人化、NGO・NPOの拡大強化等 で、コンサルタント業界にとっての構造的な制約がとれてきている。また、若 い世代は言葉もできるし開発問題に興味を持って熱心にやっている。政府・援 助機関(JICA、JBIC)の側も、限られたODA量で効果を挙げるための制度構築 やマネジメントに注目し、これを担うコンサルが重要になっている。

(6) 政府・援助機関(JICA、JBIC)が貢献できることは、地方自治体など 公的部門で知識を持っており国際貢献にも興味を持っている人達をサポート し、開発コンサルタントと組み合わせて、世銀などのニーズに対応して活用し ていくことではないか。日本の公的部門は大変大きなアセットを持っている。 官業を民業が圧迫すると見る向きもあるが、今や官民の障壁がなくなってお り、双方が協力することで日本の貢献を高めることが大事である。

(7) 過去5−6年の世銀のCDF、PRSP等の変化は大きい。対応するセクター も、都市や地方自治、ガバナンス、地方分権、貧困などクロスセクターが多 く、相手も政府だけでなく民間や住民参加が必要になる。ここにはルールがな く、世銀やそれと一緒にやってきた欧米のコンサルタントにとっても全く新し い領域である。日本社会で活動してきたNGOやコンサルタントも十分競争がで きると思う。このような分野に注目すべきだと思う。

(8) 欧米のコンサルタントを見ると、最初はプレゼンは良いが中身がな い。しかし、数回担当していくうちに中身も良くなっていく。日本のコンサル タントも、このようなしたたかさを学んでほしい。

(9) 日本のコンサルタントの中には、コンサルタント育成のための信託基 金で受注しても、途上国あるいは欧米のコンサルタントに丸投げをしてオー バーヘッドコストの収入を取り、自ら責任をとらないという事例も見られる。 このような場合には、日本のコンサルタントに育ってもらいたいとの意図が十 分に生かされない。まず丸投げせず、自らの能力を高めることが重要である。

(10) PHRD基金やJSDFなどはアンタイドだが、日本のコンサルタントに少 しでも還元できるようにするには、日本企業が参加すれば有利になるよう、た とえ時限立法であってもルール自体を若干変えることを検討すべきではない か。

(11) 日本のコンサルタントには、現地性も足りないと思う。例えば、イ ンドネシアでも欧米コンサルタントには現地語にものすごく長けてプレゼンも 上手なところがあるが、日本企業の多くはそこまでいっていない。どこまで専 門性や地域性を高めるかが課題である。(インドネシアには長年住んでいる欧 米の人が多く、特定の企業に属していないので、このような人を日本のコンサ ルタントが活用してはどうかとの意見あり。また、本当の客は開発途上国であ り、現地での能力、クライアントの意向を吸い上げる能力が世銀の受注では重 要である(途上国側の作成するショートリストに掲載されなければどうしよう もない)との意見あり。)

(12) 日本のコンサルタントが提供できるサービスと世銀の求めている サービスを合わせるシステムが十分でない。海外コンサルタント協会(ECFA) がデータベースを作っているが、十分アップデートされておらず、世銀もどれ だけ活用しているかわからない。(本当に良いデータベースがあれば世銀側と しても非常に助かるが、まずはデーコンという世銀側のデータベースにしっか りしたデータをいれること、そしてサーチエンジンで見つかるようにウェブサ イトを作ることが重要という意見あり。)

(13) 教育セクターについては、日本に蓄積されている知識が体系的に整 理・把握されていないため、ノウハウが外で活用できない。特に理数科やにつ いてノウハウがあるはずである。この結果、世銀では米国や英国にのコンサル タントに流れてしまう。コンサルタント、国内で教育に携わっている人、そし てJICA・JBICが連携すべきである。

(14) 日本のコンサルタントはフィールドで強いと言われる。例えば、水 産業では現地漁民の船に乗ってデータを集めるといったことに長けている。プ レゼンや英語は弱いが、欧米人や現地人をとりこんでネットワーク型でプロ ジェクトをやれば、良い成果になると思う。

(15) 世銀のタスクマネージャーの中で、日本のコンサルタントを使おう という人ほとんどいない。世銀のタスクマネジャーは信用のある人に声をかけ る、まずは信用が一番大事であり、経験のある欧米コンサルタントと日本のコ ンサルタントを結びつける契機を、世銀の中にいる日本チームが作ることが第 一である。

(16) 日本のコンサルタントのトップは、世銀の仕事を取ることが会社に とって利益になるという点をしっかりと認識する必要がある。世銀の仕事自体 は儲かるものではない。しかし、世銀の仕事をとることで、世銀の看板を背 負って政府とやりとりして、自分たちの顔とノウハウを伝えられるという大き なメリットがある。また、予算年度が日本(4月から)と世銀(7月から)で は違うので、稼働率の観点からは双方で仕事をすることにメリットがある。コ ンサルタントの稼働率は50−60%で、日本国内の仕事は1−3月に一気に 来るため、世銀の年度末で稼げばこれを引き上げられる。トップがこのような 点に気づいて前向きに動くべきである。(日本と世銀とは要求しているスキル エリアが違うため、必ずしも対応は容易ではない、ただしコミュニティ開発・ マルチセクターなどでは、確かに典型的なJICAと近いコンポーネントがあるか もしれないとの指摘あり。)

(17) 欧州のドナーは公的機関がコンサルタントのデータベースの整備を かなりやっている。デンマークは、このセクターでこの国と入力すれば、経験 を持つコンサルタントがすぐにわかるようなウェブサイトを持っている。ま た、国によっては大使館にアタッシェを置いており、プロジェクトの付託事項 (TOR)を出すとコンサルタントのロングリストが出てくる。このような意味 では、日本はかなり制度的なサポートが弱い。(コンサルタントの受注を官民 挙げて支援している国が多く、大使館が世銀内でのプレゼンをサポートした り、ある北欧諸国などは大使館・理事室の双方から電話がかかってきて、この コンサルタントを使えば信託基金を使わせるといったアプローチもあったとの 発言あり。)

(18) 日本では、政府は政策決定を握り、コンサルタントやNGOなどステー クホールダーに渡していない。政策は政府、実施はコンサルタントという棲み 分けが長年できており、スクラムを組んで制度的にコンサルタントをサポート するという考えが、現場レベルではまだまだである。参加型で多様なステーク ホールダーと一緒に政策決定をしていくという感覚がない。多様なステーク ホールダーがいること自体を理解していない。国際競争の波にさらされながら 開発コンサルを育てようという気持ちがない。

(19) 政府は、主に「税金の国民への還元」「顔の見える援助」といった 観点からコンサルタントの活用を考えており、中長期的な育成までは念頭にな いのではないか。政府のスタンスを変えるには、政府の外から幅広い問題意識 ・世論を醸成していく努力が必要ではないかと思う。

(20) 海外コンサルタント協会のミッションに対する日本政府のサポート は十分ではないように思う。3−4社がタスクマネジャーを集めてプレゼンを しても、そもそもタスクマネジャーを集めるのが難しい。企業、業界団体が単 独で頑張ってもできないところをどう支援するかが課題である。(コンサルタ ントが官に保護してもらいたいという発想に対しては、国民が納得してくれな いのではないかという意見あり。)

(21) 英国や北欧諸国の政府からの売り込み支援については、それらの国 の国内で官民の関係が既に出来上がっており、それをこちらで実践していると いう側面があると思う。日本では、官がノウハウを握ったまま計算・実施と いった業務をコンサルタントに発注している。このような上下関係のもとで、 対外的に政府とコンサルタントが対等であると示そうとしても難しい。国内の 基準が外の基準とかみあっていないのが問題である。

(22) コンサルタントが政策・制度といったソフト面で収入を得る環境を 作るには、まず日本国内で公共部門を圧縮し、政策立案自体を外に出すこと (具体的には、発注の範囲について、自分で決めていた政策面も外に出すこと) が重要である。政府は、提示された政策に対して、ステークホールダーを巻き 込んで評価する役割を担うべきである。それにより、コンサルタント業界、開 発業界の広さと深さが出てくる。そのような取り組みがない中で、個別に営業 支援をしても、中長期的に発展しないと思う。

(23) 政府としてコンサルタントを支援する際には、需要と供給を合わせ ることが大事である。欧米コンサルタントは足しげく通うが実は迷惑であり、 むやみにきても意味はない。世銀として必要な内容と予算を合わせて提示して くれれば、受注につながるケースになる(だだし、良いタマでないと1回限り にとどまる)。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

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