2003年3月19日BBL概要 |
環境と開発 −東アジア・南アジア での経験から考える− |
3月19日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「環境と開発−東アジア・南アジア
での経験から考える−」が、約20名の出席を得て行われました。
冒頭、UNDPカンボディア事務所・JICA専門家等を経て現在世銀で南アジア環境 社会部にて天然資源管理を担当されている牧野由佳氏より、フィールドでの教 訓を中心にプレゼンテーションをいただいた後、途上国のオーナーシップを尊 重・推進するための方策を中心に、出席者間の議論で様々な意見が出されまし た。 冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通り です(順不同)。 (1) 環境は極めて広い問題をカバーしている。環境配慮といえば、環境 セーフガードとしてプロジェクトを妨げるものと考える向きもあるが、大変広 い概念であることを強調したい。 (2) 自分自身、最初にUNDPカンボディア事務所にて、環境天然資源管理官 として、学校やテレビでの環境アウェアネスプログラム、カンボディア環境法 制定・政策支援、森林インベントリーの調査等を担当した。JICAでは、廃棄物 処分、下水管理・処理、大気汚染管理、水資源管理、タンザニア国境でのルワ ンダ・ブルンディ難民による資源破壊を防止するための土地利用管理支援 (UNHCR緒方貞子氏の要請による)、インドネシアの森林火災、ネパールのコ ミュニティ防災等を行った。 (3) 世銀では、現在ベトナムの全国の防災プロジェクトを行っている。洪 水、土砂災害、サイクロン、台風の問題をいかに管理するかが課題である。ま た、南アジアにおける気象変動への適応(adaptation to climate change)も担 当している。例えば50年後にバングラデシュで水量・海のレベルが10年間上が るとすれば、海岸でのホテル建設は問題であり、現在の開発計画の中でこのよ うな影響を勘案していく。また、来年水不足(draught)になるので、水が少な くて済む農作物を植えることにより、飢饉・食糧不足を防ぎ、事後的に人道支 援を行うよりコストも少なくて済む。今日の午後もこのような会合に出席する 予定である。 (4) 天然資源管理とは、人間と自然の関係を分析し、人間が資源をどの程 度利用しているか、そのニーズに基づきどう管理するかという問題である。具 体的な事例としてネパールのプロジェクトを説明したい。 (5) 自分はJICAの専門家として1998年から2000年にネパールに派遣され た。いかにコミュニティ開発に防災を組み込むかが課題であった。災害は予測 できないが、日々の生活自体に苦労している人に防災を訴えるのは困難であ る。しかし、アプローチによっては、日々の生活が自然に防災になるような方 法もある。例えば、途上国での学校建設に際して、地震・台風・洪水に強い建 物、避難所として使える建物にすれば、無駄が防げる。 (6) ネパールのチサパニ村は、1993年に土砂災害で60人が死亡し、農地も 流されたので、主たる対象として取り組んだ。現地のNGOと契約を結びつつ、 3つの組織とチサパニ村が協力した。単なる防災だけでなく、あらゆる分野で の専門家が必要となった(保健、識字等)。 (7) いままでどのような対策をしていたか。避難していたかなど、住民の 環境を把握することを重視した。結局災害が起きたときには今までのことを やってしまう。また、収入改善のため、保育所も作った。苗を植えて林野庁に 売り、その半分のお金を災害基金に入れた。段々畑は土砂災害のもとになると いうことで、侵食防止のための森林防止のプロジェクトをした。土砂災害のア ウェアネス・ポスターも作り、本当に役に立った。子供達のポスター公募もし た。ネパール全国で始めての非難訓練もした。 (8) 重要なことは、コミュニティの人にどのようにものを考えているかを 理解し、それに基づいてプロジェクトを行うことである。最初に村に来た時 に、「防災を改善してくれるのは嬉しいが、私達の状況を使って商売をしても らうのは困る。」と言われた。われわれ開発関係者は、開発や貧困を商売にし ているのか、あるいは本当に助けようとしているか、微妙な線の上にあるので 十二分に気をつけなければならない。 (9) 最大の成果は、女性の考え方の変化である。最初のミッション時には 女性は自分の意見を説明できなかった。しかし、識字教育や保健は女性グルー プが担当しないと何も進まないということで担当してもらったところ、実際に は識字教育と保健のプロジェクトが最後まで残った。最後には自信がついて皆 の前で堂々と発表するようになった。自分が帰国する2日前に送別会があり、 女性グループがブロンズの仏像をくれた。仏像自体よりも、女性が少ないお金 を集め、村から外に出て買ってくれるようになったことに大変感動した。その 仏像は今でも大切にしている。 (10) この例に見られるように、生まれたときから教え込まれていた考え 方を変えるのが大事であり、「変えることができる」という自信をつけるのが 開発援助の最大のゴールである。オーナーシップは、自分ができる、自分がや りたいという気持ちを持たせることで可能となるものであり、研修に十数回参 加させ技術的知識を教えても作り上げられない。このような要素をいかに自分 のプロジェクトに組み込めるのかが私達にとっての挑戦である。多くのプロ ジェクトは終わるとつぶれてしまうが、結局援助プロジェクトであり、政府の プロジェクトではないからである。 (11) そして、信頼関係を築き上げることが重要である、チサバニ村のみ ならず、政府レベルで全国の政策を考える必要があったが、政府の担当責任者 に、「今後防災関係をどのように続けるつもりか」と聞いたところ、「今後更 にJICAが続けてくれないか」という返事であった。これに対し、「JICAの開発 調査をやり、専門家を送り、更にコミュニティ防災のプロジェクトを出し、更 にモニタリングまでやれというのか。それは恥ずかしくないか」と聞いとこ ろ、先方は「恥ずかしい」と答えた。「それでは日本がやらなくても良い方法 は何か」と聞いたら、「財務省から予算をもらう必要がある」とのことであっ た。結局、財務省に掛け合って、3千万ルピーを予算に入れてもらった。それ でJICA予算が不要になったということで引き上げた。このようなことは、信頼 関係が築き上げられてきたから初めて出来たことである。 (12) JICAの開発調査が行われても、報告が出てから援助の開始まで準備 に約1年を要し、その間に情報が古くなることが多い。また、開発調査が終 わった段階で、JICAと受注側の契約が切れるので、実施・フォローアップの段 階まで同じ人が継続的に関われないという課題もある。 (13) 住民の生活パターンを変えるのには時間がかかるという話があった が、一定の成果を出すのに、開発調査、専門家派遣、プロジェクト実施という これほどまでのインプットをしなければいけなかったのか、本当に他に方法が なかったのかという点(費用対効果)について考えさせられる。 (14) オーナーシップを現実化するには、援助受け入れ側から要望を出さ せることの確保(日本の企業・コンサルタントが要望書を代筆した例も見られ る)、援助受け入れ側の考えを真に理解するための信頼関係、更に相手側の社 会的・政治的状況を理解する努力が必要である。最後の点について、昨年1ヶ 月間ボリビアの村で生活した時に暴動がおこったが、その理由は米国との関係 に配慮して今後コカの栽培を禁止したことによる。貧しい人の生活はコカ栽培 にかかっていたが、それに対する手当てができていなかった。各種の社会的・ 政治的圧力をきちんと理解して、相手側の立場に立った政策変革の示唆をしな いといけない。先方の事情を理解しない政策を提案して、暗殺された事例も 知っている。 (15) 援助する側は援助される側を商売に利用すべきではないという点に ついて、双方が共通のアジェンダを持って、ビジネスパートナーとして進めら れないか。防災問題を例にとれば、土着の知恵を生かしつつ、外からこれに資 金を出し、ジョイントベンチャーという形にして信頼関係を築くのが重要だと 思う。 (16) 時間の制約のもとで成果を示さなければならないという、援助する 側の事情が問題となる。コンサルタントは委託事項(TOR)に基づいて短期間 で具体的な成果を出す必要があるが、これは効果的か。自分は支援担当分野の 政策をカウンターパートに書かせたが、3か月かけて2頁のペーパーしか出てこ なかった。しかし、これは本当に先方のものになっており、その内容にプライ ドを持ち、自ら各方面に配布して働きかけを行っていた。短期間の成果を出す との圧力を受けているようなコンサルタントの場合には、このようなことは難 しいであろう。 (17) 援助する機関の側の立場からすれば、短期間に目に見える成果を上 げることが必要である。予算をつけられた分、成果をこちらのステークホール ダーに対して見せなければいけない。また、民間資金も導入するためには、民 間の商売になる仕事をしなければならない。ある途上国の企業プロジェクト で、事業プランをつくるために外部のコンサルタントを入れるかどうかでもめ ている。その企業の長期的発展やオーナーシップの観点からすれば、手取り足 取り指導しながら自ら作ってもらうのが良いだろうが、時間的制約からは、コ ンサルタントを入れて、半年を要するものを1か月で終わらせて前に進めたい という気持ちがある。また、例えば財務省の主計官に説明することを考える と、洪水防止のためにダムや森林を作るといえば説明しやすいが、防災訓練や 意識向上をするといっても説明しづらい。援助する側の事情として、援助の成 果の測り方を議論しなければいけないと思う。(これに対し、正にAttitude Changeをどのように図るかということについて世銀の研究担当部局と昨日話し ていたとのコメントあり。) (18) 昨今の成果重視アプローチ、MDGs、PRSPモニタリングなど、開発戦 略論議の場では、パートナーシップのもとで、短期的な成果をいかに示してい くかという流れになってきており、中長期的な意識変革などオーナーシップの 向上の側面にはあまり目が向けられていない。 (19) 短期的成果を求める国際的な動きに対して、日本がキャパシティ・ ビルディングなど短期的成果が出にくい援助を行っていることは、むしろ強み である。しかし、この意義につき国際的な議論の中で主張するためには、成果 に至るベンチマークを短期・中期・長期に区別し、最初にはこのような効果 (意識変化)が現れ、10年後、20年後にはこう花開くといった道筋を示す といった工夫が必要ではないか。これをMDGsとあわせて説明するのが良い。 「短期的には成果として認識されるものではないが、これは成果の芽である」 という点につき、欧米の人達と如何に認識を共有するかが、日本にとっての挑 戦であり役割である。特に、成果を測定しにくい環境関連では、これが課題で ある。 (20) 国連にいた時に日本の援助を外から見ていたが、日本の援助は何を 考えてやっているのかわからなかった。自分の限られた体験ではあるが、当時 JICA事務所は他の援助機関にとってブラックホールやバンカーのようなもので あった。日本からはドナー調整会合になかなか出席しない。皆英語が母国語で なく苦労して情報・意見交換している中で、英語が出来ないことは出席しない 理由にならない。日本は自らの援助の仕組みや、何ができて何ができないかに ついて、現地のドナーコミュニティに対して明確に説明しなければならない。 また、他のドナーは柔軟で様々な協力ができたが、日本は柔軟性がなく協力が 難しかった。 (21) 日本が支援する場合、日本の開発コンサルタントが担当する必要が あるのか。現地のコンサルタントを活用すべきではないか。(これに対し、 ケースバイケースで考えるべきあり、相手国政府高官に申し入れる場合など、 現地人では率直に言えず、外国人だからこそ効果的な場合があるとの意見あ り。) (22) 納税者の関心に応えるため、JICA等日本のプロジェクトについて世 銀をはじめ外国が評価することを積極的に推進してはどうか。 (23) 氷河湖のダム決壊への対応や、洪水予測の情報共有など、国別の対 応とは別に、グローバルな視点、リジョナルな視点が重要であり、その支援を 考える必要がある。 以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。 |