2003年3月26日BBL概要

地球環境ファシリ ティ(GEF)を通じた
地球環境保全への日本の協力


3月26日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「地球環境ファシリティ(GEF)を通じた地球環境保全への日本の協力」が、約15名の出席を得て行われました。

冒頭、地球環境ファシリティ(GEF)事務局生物多様性部・山岳生態系プログラム管理官の中尾文子氏のプレゼンテーションをもとに、出席者間で様々な意見が出されました。冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通りです(順不同)。

(1)地球環境ファシリティは80年代後半からのオゾン層問題などの国際的な対応の必要性を受け、1991年にパイロットフェーズが開始した。その後、94年、98年、2002年に改革、増資が行われ現在に至っている。

(2)GEFの6つの主要分野は、(イ)生物多様性、(ロ)気候変動、(ハ)国際水域、(ニ)オゾン層(モントリオール議定書対象国を除く)、 (ホ)土地劣化、(ヘ) 残留性有機汚染物質(POPs)である。GEFの役割は、持続可能な開発を国レベルで促進するとともに地球環境の改善に資するところへの資金提供であり、レバレッジ(てこ)効果を狙って他の開発プロジェクトと組み合わせた援助を主として行っている。仲介役となるGEF実施機関は、UNDP、UNEP、世銀の3つである。

(3)3実施機関それぞれの特性を生かし、世銀は大規模投資プロジェクト、UNEPは調査やこれまでの教訓を取りまとめてのプロジェクト、UNDPは技術協力やキャパシティビルディング関連のプロジェクトを主に行っている。GEFのプロジェクト実施は、実施機関自身がやることもあるが、政府機関、NGO、民間機関が行う場合の方が多い。

(4)日本のGEFに対するこれまでの貢献としては、まず資金提供がある。米国が第一位の負担国だが、米国の拠出は遅れがちな一方、第二位の日本は着実に支払っている。エネルギー分野やPOPs分野、国立公園の保護など、日本の技術的な貢献が期待できる分野もあるが、プロジェクトレベルでの日本の参加は非常に限られている状況である。ただし、最近になって増えてきている。(これに関し、日本が関わっているプロジェクトの例として、生物多様性ホッスポットに関するGEFやCIとの共同プロジェクトの紹介あり。)

(5)日本はもっとGEFを活用し、地球環境問題に(資金面ではない)貢献もするべきではないかという考えに基づき、2001年から日本国内で勉強会が発足し、政府関係者、東京のUNDPやUNIDOの事務所員等の有志が参加して、定期的な意見交換を行っている。これまで2−3回のワークショップも開催した。

(6)日本の国際貢献といえば、分野的には平和、地域的にはアジア、などというイメージがあるが、環境も国民的に理解のある分野のひとつである。NGOでは環境NGOが頭に浮かぶし、京都議定書など、日本が声を上げて推し進めている。その一方で、現在GEFでは日本が関わったプロジェクトが少ないということだが、今後、日本の環境分野でのリーダーシップという観点からは、どのような全体像を描いているのか。また、日本はいかにGEFに関わっていくのか、あるいはあまり関わらなくても良いと考えているのか。

(7)私は国際的分野での経験として、ラムサール条約、世界遺産、CITES等を担当した。二国間条約に基づく自然保護は別扱いだが、このような条約での日本のプレゼンスは大きい。資金面のみならず、常設委員会等で政策面でもコミットしている。CITES−絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約−でも、鯨やベッコウを中心として積極的な発言を行っている。持続可能であれば取引を認めるべきというスタンスであるが、国際捕鯨委員会ののように、なにがなんでも取引をすべきではないという米国・西欧と対立する形になっている。

(8)日本は環境関係で、そもそも国際的取組みの経験が浅い、日本の環境行政の組織が出来たのは70年代であり、まずは国内的な課題への対応に忙しく、地球環境問題への取り組みの必要性が認識されたのは80年代後半からである。しかし、環境行政自体は進んでおり、特に90年代には、アジア太平洋地域の環境問題には日本も率先して支援するということで、アジア地域の環境大臣を集めて会議を開催したり、専門家を集めて分野毎に会議を開催するといったことも行っている。国際的な条約の面でもリーダーシップを発揮しようとしており、例えば地球温暖化問題でも日本はいろいろな提案をしている。(この意見に対し、国際社会全体のコミュニケーションとして考えた場合に、日本の環境外交は条約交渉の面が強く、各省庁の権益が前面に出ているのではないかとの指摘あり。)

(9)GEFについては、日本の環境省の母体が小さく、国際協力に携わっている人が少なく海外で本格的なプロジェクトを動かす人がほとんどいないという状況のもと、従来はそれほどGEFに関わる必要性を感じていなかったが、ODA予算が減る中で、一層積極的に参加することの必要性が認識されてきたというところではないか。

(10)燃料電池、太陽電池などのプロジェクトを見ていると、欧州、米国はエネルギー分野の専門家や大学教授なども含め、国全体として優先分野を主張してくるが、日本はそれに比べて押しが足りない。日本としてもエネルギー、運輸分野等の専門家も派遣し、日本が貢献できる分野が優先分野となるように、積極的に主張していくべきである。

(11)現在GEFに関与しているのは財務省、環境省、外務省が中心だが、それらの省庁に加え、JICA等の援助実施機関やNGOに直接GEFを知ってもらい、結びつけるようなシステムが必要である。GEFのプロジェクトも規模によりいろいろなものがあり、小規模のものはNGOを対象とするなどアクセスしやすいものがある。しかし、日本のNGOが直接資金を受けられないため、途上国にパートナーを見つけてそこから申請を出してもらう必要がある。このためには、強いネットワーク・資金源が必要である。これらは難しい課題であり、日本の大きいNGOから突破口を見つけるべきだと思う。

(12)直接ハンズ・オンで途上国の環境・開発問題に自ら取り組んでいる人達が、組織を超えて率直に意見交換を出来るようなネットワークの場が必要である。コミットしている人たちの受け皿が存在すれば、上層部がどうであれ、NGOを含めた中下層部でうまく連携していけると思う。環境・開発分野においては、東京でそのようなコミュニティは存在するのか。(GEF関連のネットワークはまだ存在せず、現在の勉強会などを発展させることが重要という発言あり。)

(13)GEFの役割として、既存の援助プログラムを補完するという役割、代替的でなく追加的なものとするとの役割に加え、先進国が途上国に資金を供与する大きなインセンティブとして途上国のみならず地球全体の公共財を提供するという役割がある。GEFが広がることにより、オールドスタイルの開発(途上国支援)という側面が小さくなる方が良いのではないか。

(14)GEFが世銀、UNDP、UNDPの3機関のもとにあるということに不自然を感じる。問題は何か。将来的には統一の方向性になるのか。(GEFの関わるプロジェクトは機関毎ではなく、プロジェクト単位で検討されるため、3機関でのプロジェクト獲得争いといったものはないが、後から参加した地域開発銀行や専門機関は、なぜ3機関のみ優遇されているのか等の不満を持っているようであるとの回答あり。)

(15)気候変動について、京都議定書に基づいた京都メカニズムが本格化してきており、日本国内にも炭素基金が立ち上がりつつあるが、気候変動についてはGEFと炭素基金が今後並存していくのか。炭素基金の役割が大きくなるなら、GEFは役割を減らすという方向性もあり得るのではないか。日本のCO2削減目標の6%達成のため京都メカニズムの炭素基金を使っても良いという考えはあると思うが、それと同時にGEFに気候変動関連の資金を供与している。日本としては当分の間、双方に資金を供与するのか、それともいずれは京都メカニズムに基づきやる方向にシフトしていくのか。(これに対し、米国の反対もあり、GEFは京都メカニズムはできないことになっている。途上国からCOP8の資金の必要性は認識されており、きちんと整わない国では民間資金が集まらないため、このようなところでは、京都メカニズムを動かすためのメカニズムとバーターで交渉する必要がある。今後の交渉にもよるが、本分野で資金を当分の間は供与せざるを得ない。さもなければ、途上国からのコミットを得るという点にも悪影響をおよぼしかねない等の意見あり。)

(16)GEFや炭素基金等といった個別問題から離れ、より一般的な観点からは、民間資金にせよ国にせよ、バイの利益というインセンティブは、効果的に活用できるものである。日本としても、昨今の経済状況を踏まえ、日本の利益を追求しつつ、途上国の環境的側面へ対応するといった形で、二国間の利益という側面を上手に活用すればよい。マルチでの支援は、バイで対応できないような部分に焦点を当てるべきであり、例えばGEFは京都メカニズムで対応できないようなところをカバーするべきでないか。

(17)世銀の中でのプロトタイプ炭素基金、コミュニティ開発炭素基金、バイオ炭素基金の運用を見ても、正にご指摘のような考えに基づき進められているは、そのようになってきている。(イ)プロトタイプ炭素基金は立ち上がりだけをカバーし、今後数年で消滅する。(ロ)商業的なバイの取引でカバーできない小さなプロジェクトについては、低開発国を対象にしたコミュニティ開発炭素基金を設立し、スポンサーを募集している。(ハ)また、バイオ炭素基金は商業的に成り立つところから手を引こうとしている。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

Top