2003年4月2日BBL概要 |
ミレニアム開発目標(MDGs)達成に 向けて民間投資を如何に促進すべきか −MIGAでの経験から考える− |
4月2日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「ミレニアム開発目標(MDGs)達成に
向けて民間投資を如何に促進すべきか−MIGAでの経験から考える−」が、約30
名の出席を得て行われました。 冒頭、井川紀道氏(多数国間投資保証機関(MIGA)長官)より、MIGA発足の経緯 ・活動の紹介、最近の民間資金の動向の説明、そしてMDGsのために民間投資を どのように活用すべきかについての問題提起をいただいた後、民間投資と公的 資金を組み合わせる方法、民間投資に対する公益の観点からの規制の方法、投 資環境改善に向けての日本の役割といった論点を中心に、出席者間の議論で 様々な意見が出されました。 冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通り です(順不同)。 (1)本日はMDGsに向けて民間投資をいかに促進すべきかについて議論したい が、まず最初に(PRになるかもしれないが)世銀グループの中でMIGAが何故作 られ、何をやっているかについて説明したい。 http://www.miga.org/ (2)1970-80年代には、途上国に向かう資金の流れは低調で200億ドル程度で あった。このような事態を前にして、マルチの投資保険機関を作るとの機運が 盛り上がり、コンセンサスが形成されて1988年にMIGAが設立された。その時の 一つの重要な大前提として、投資が途上国に向かうためには、途上国に投資環 境(マクロ指標や政治的安定等)を改善してもらわないといけないということ である。 (3)このような投資環境の改善を行ったうえで、実際の投資家はまず収益を 考え、収益とリスクのバランスに基づき投資行動を取る。リスクは商業リスク と政治リスクに分かれる。商業的リスク(商品が売れるか、価格が維持できる か、地元パートナーとの関係が円滑か、労働争議が起きないか等)は経営判断 の問題である。しかし、政治リスクは予見できず、投資家として対処しようが ない。投資促進にはいろいろな要素があるが、非商業的リスクが軽減できれば かなりの投資リスクが軽減できるということで、MIGAが設立されるに至った。 (4)事実、15年間の短い活動期間内に、南アジアの某国では水力発電所が急 進派に攻撃され貯水口が壊された。良い国と思っていた中南米の某国では送金 規制により投資資金が回収できなくなった。また、東南アジアの某国では民活 インフラに投資したが、経済危機で大統領令によりプロジェクト建設が中止さ れた。最近水分野で問題となっているが、政府機関が契約相手方となっている ものの、何らかの理由で契約不履行になる事例もある。このようなリスクは投 資の途上国への流れの重大な阻害要因となっている。 (5)MIGAは、投資保険を提供するにとどまらず、日本にJETROがあるよう に、なぜアフリカの途上国にJETROがないのかといった問題意識のもと、投資 促進の機関が能動的に投資を呼び込む優遇策・誘致策をとるための技術支援を 重視している。また、投資についての全般的な情報提供もしている。これによ り、投資に関心を持つ母体が増えることを期待している。 (6)また、MIGAは投資紛争の仲介も行っている。投資家がある国に投資しよ うとする時にまずやることは、既に投資した人達が儲かっているか、政府との 関係がどうなっているかを見ることである。そして、政府との紛争がずっと続 いていると、新規投資を躊躇する。途上国は、投資を歓迎すると政府トップが 宣言するだけでなく、実際に投資紛争を解決することが、投資促進を重視して いるとのシグナルになる。MIGAの活動として最近特に注目されている分野であ る(最近もMIGAはアフリカの某国での投資紛争案件を解決しつつある)。 (7)MIGAは1988年に設立されたが、1990年代は世界の直接投資の流れが急増 する。しかし、投資は1ダースに満たない数の国に集中しており、アジア・ア フリカの貧しい国々に投資は向かっていないという実態が明らかになってい る。MIGAは、特に重点を置く分野として、アフリカ、IDA対象の貧困国への投 資、南南投資、中小企業の投資を促進するという四本柱を立て、世銀グループ の中でのMIGAならではというニッチを見出し、努力を傾注している。それ以外 に力を入れている分野としては、非常に複雑なインフラセクター(最近は水資 源関連にも力を入れている)や、紛争後国に積極的に投資する必要があるとい うことで、ドナーからの信託基金も得て、ボスニア・ヘルツェゴビナに加え、 アフガンなど積極的に取り組もうとしている。 (8)地域別の分布を見ると、MIGAではアフリカのシェアが以前は6-7%だった が15%程度にまで増えている。また、分野別の分布を見ると、インフラが占め る割合は3、4割程度を占めており、インフラにもかなり力を入れてきてい る。 (9)しかし、以上は主に2000年までの全体像であり、2000年を境目に世界の 投資の流れは大きく変わってきている。特に9月11日のテロ事件、米国での コーポレート・スキャンダル、アルゼンチンの危機の長期化などを背景に市場 が激変してきている。具体的には次の4点が挙げられる (イ) 第一に、グローバルに活動している投資家が非常に慎重になってきて いる。インドネシアの例でも、投資資産が価格変動により3分の1から4分の 1になった。MDGs達成のためには民間資金を動員しなければならないが、実際 には投資化のリスクに対する考え方が非常に慎重になってきており難しい。 (ロ) 第二に、商業銀行・投資銀行も途上国・新興国に対する活動/エクス ポージャーを拡げることに対して極めて慎重になってきている。例えばアジア を見ると、アジア危機前にはプロジェクト・ファイナンスに取り組もうという 人が多かったが最近は半分程度であり、いくつかの商業銀行・投資銀行のプロ ジェクト・ファイナンス部門は廃止されてきている。 (ハ) 第三に、投資保険を提供しているグループは、マルチではMIGA、アジ 銀、IDB等、バイの投資保険に加え、更に最近4-5年は、AID、チューリッヒ、 ロイズなど様々な保険会社が投資保険分野に出てきている。彼らの活動は、9 月11日後急増し、投資保険業界の半分以上を占めるに至った。これが最近の情 勢(アルゼンチン、イラク等)を踏まえ業務が急速に縮小し、受容と供給が マッチしなくなってきている。 (ニ) 最後に、市場の変化とは言いがたいかもしれないが、民営化自体が曲 がり角に来ており、世銀内でもそのような議論が出てきている。民営化によ り、効率的なサービス提供や価格低下を期待しても、必ずしもそうなっていな い。当初に民営化する際には、ともかくも投資契約をするが、しばらくすると 料金が高すぎるので引き下げよという話が出てくるなど、料金設定は常に問題 になる。民間サイドからすれば、当初と約束が違うということになり、以後は 民間資金が入っていかないことになる。(水問題については、国連でも人権と いう認識があり、水を民営化すると料金を払わないと水がとまるというのはお かしいという議論がある。Water Baronという本は、98年に南アフリカで水の 民営化をしたところ、料金を払わないところには水の供給が止められ、コレラ に30万人が罹患し300人が命を落としたと書かれている。人命に関わる問題と いうことで、民営化について総合的判断が必要という状況が出てきた。) (10)ミレニアム開発目標(MDGs)との関係について述べたい。MDGsはいろい ろな目標を掲げているが、この中で一番重要な要素である貧困削減に絞ってみ ても、基本的に高い成長が必要である。特に低所得国の場合、一人当たり国民 所得の増加(成長率)は3.6%程度必要であり、人口増加率を勘案すれば、7%程 度の成長がなければMDGsが達成されないという認識がかなり強まっている。 (11)世銀でも、最初の数年間は、強調される点は保健・衛生などで、成長 はあまり正面に出ない形だった。それが、スターン・世銀チーフエコノミスト を迎え、MDGsに世銀がどう貢献するかを考える中で、高い成長、そのために ODAに加えて民間セクター育成が重要であり、グループ全体で投資環境を改善 しなければいけないという認識が強くなっている(外からの投資のみならず国 内投資も重要との認識もある)。 (12)それとともに、やはりMDGsの目標は相互に関連しており、マルチセク ターアプローチが必要というのも一つのキャッチフレーズになってきている。 道路がないと子供が学校にいけない、電気がないと教育ができないなど、相互 の関連を見ようと意識のが強くなっている。 (13)MDGsのアフリカ版がNEPADで議論されているが、高い成長(7%以上) と投資の重要性、特にインフラ分野の投資の重要性が強調されている。世銀グ ループ全体としても投資環境整備が必要だが、特にMIGAとIFCでは直接投資を めぐる環境が厳しい中でcounter cyclical roleが強調されてきている。更 に、慎重な投資家と商業銀行に引き続き途上国への関心を持ってもらうため に、リスクを軽減することも課題である。 (14)更に、PPP(官民パートナーシップ)を含む各種のパートナーシップ を改善しようという機運が強まっている。例えば水分野では、政府がしっかり とした水政策を打ち出し、その中で民営化する場合には料金設定をどうする か、貧困層に補助金を設定する際にどのような透明性を確保するかなど、全体 像を考えた上での対応が強く求められている。 (15)過去に多額の直接投資を受け入れたインドネシアが、危機の後には直 接投資の不足に悩んでいるが、これはマクロ経済環境が悪いといった問題以上 に、司法システムの不安定性が影響している。某先進国の生命保険会社が事実 上乗っ取られたのではないか、外資対して不公正な扱いをしたのではないかと いう不満があり、その後の投資が滞っている。商業的リスクか非商業的リスク かという判断は難しいが、不当な裁判により事実上の接収になったような事態 にどう対応するか。 (法律リスクは商業的リスクか非商業的かの判断が難しい。国内法規に則って 司法当局が判断したということであれば商業的リスクともいえるが、判事が買 収され判決の方向がわからないという状況であれば司法システムの安定性とい う政治リスクという見方もできる。日本のJICAでは、判例集を出すべく技術支 援を行っていると聞くが、どの州でどのような事例があるか等。裁判所自身に ピアプレッシャーを与えるという意味で、大変良い援助だと思う旨発言あり。 また、司法の不安定性への対応をふくめ、バイ・マルチのドナーが数多く絡む 形で赤信号を皆で渡り、何かあった時に対応できるようにして民間投資を呼び 込むという取り組みも必要であり、究極的にはその積み重ねで投資家が入るよ うになるとの発言あり。) (16)MDGsと民間投資の間には相当飛び越えなければいけない距離がある。 先進国では、児童労働等を理由に投資に対する反対運動すら見られる。「MDG フレンドリー」な民間投資の促進のために、日本やMIGAは役割を果たせない か。 (MDGsに即した投資という意味では、製造業よりインフラセクターが問題であ り、水、教育、森林など、少しでも民間投資が入るように、MIGA、IFCを含め て取り組みを進めるべきである。ただし、これらの分野では利益が少なく長い 投資が必要なので採算が取れにくいことから、このような分野を優遇できない かという議論はあり得る。他方で、収益率を確保するようにプロジェクトデザ インをすることこそ重要であり、優遇して補助金を出しても長続きしないとい う議論も強い。日本の円借款のみならず、MDBsや他のドナー全体も含めて対応 を考えてはどうかという意見あり。) (17)特に最近2〜3年は電力セクターなどに民間投資がいかなくなり、IFC でも最近仕事がない。しかし、途上国は困っている。限られた補助金をPPPの ような形でコファイナンスし、コミングルしないと前に進まない。昨年中央ア ジアの亡国で、IFC、IDA、スイス政府のグラント・投資をすべて組み合わせ て、最初の10年の電力料金を抑え、貧しい人が電気を買えるような案件を一件 作った。スイス政府のように先進的に考えるドナーがあり、そのような違った モデルを作っても良いという動きがあることを指摘したい。 (18)OBA(Output Based Aid)として、例えば上流の電力会社には民間資本 を導入するが、下流の電力を購入するところで貧しい人に補助金を出し価格を 抑えるというアプローチがあり、実際に数件のパイロットプロジェクト動いて いる。基礎インフラ、電力・水・教育・道路等について、貧しいため資金が不 足しているが、上流に補助金を出すと問題があるので出てきた知恵である。世 銀グループ全体でプロジェクトをうまく進めるためには、世銀グループ内での 意思疎通、連携(上流、相手国政府、下流である受益者・貧困者)を確保し、 関係者がパートナーシップを組むという総合力の発揮が重要である。 (19)これまでの民間投資の議論では、外国からの資金ということが暗黙の 前提になっているが、国内の資金にも着目すべきである。乾いた雑巾でも絞れ ば水が出る。意外に水を含んでおり、これが大事だ。それに注目し、国内の資 金をいかに動員するかということに主眼を置いて、金融インフラを作るという 取り組みをやっている。水道や電気と同じ問題構造だが、インフラを作るとき にどのコストは受益者が負担すべきということで民営化が進められてきた。し かし、サービスを供給する側のコスト、需要する側のコストの双方のスコープ をどこまで含めるかでコスト負担が違う。途上国では、金融インフラのコスト が高くなり動かすことが難しいという問題があるが、スコープを変えて考えれ ば動かせると思う。 (最近1〜2年で随分変わったことの一つに、為替変動が大きいことから、イン フラ投資について、出資は欧州や日本が持ってくるが、必要なファイナンスは 地元でやろうという動きが目立つことである。世界水フォーラムでもカムド シュ報告の1つとしてローカル・ファイナンシングの重要性が強調されてい る。この方向性は、日本が提唱していた「アジアに長期資本市場を作ろう」と いうものと同じである。ただし、途上国における低利・長期の貸し出しが本当 に持続可能かについて、誰かがアドバイスをしなければいけないとの発言あ り。) (20)日本政府・JICAのプロジェクトでは、司法制度やガバナンスの問題に どのように取り組んでいるのか。先に紹介のあったインドネシアの生命保険の 例では、生命保険に加入しているインドネシア人自身が最高裁に反対した。裁 判所や判事だけでなく、国民が「自国のガバナンスはおかしい」といわなけれ ば変わらない。別の意味でのパブリック・リレーションズが大事だと思う。 (JICAでは司法制度やガバナンスに熱心に取り組んでいる。その中には、面白 い経済法関係を世銀が担当し、難しい民法などがJICAに回ってくるというよう な場合もある。JICAはご指摘のような問題点には「目」は届いているが「手」 が短く、今後の課題である。例えば、カンボディアでは、リーガルマインドを 若い世代に伝播させるため、民法制定プロセスに参加させ、その過程で社会に リーガルマインドを育成するということを念頭に、技術協力をやっている。い ろいろな国でささやかな試みをやっている。しかし、それを概念化し、美しく 整理して提示する作業を誰かがやる必要がある。これは、知的に優れた人の協 力を得て作るべきである。民間の経済活動とMDGsを結びつければ、ODAが小さ くても効果が上げられるのではないかとの意見あり。) (21)投資環境について、日本として何が言えるか、何ができるかが問題で ある。日本が実際にアジアの文脈で出来るインフラ・ビジョンを作るべきであ る。日本企業のメンタリティからすると、なかなか乗り出しにくいのが現実で はあるが、これを誘導できる仕組みをどう作るかが課題である。 (22)民間企業としては、MDGsを念頭に置きながら商売をすることはなかな か難しい。世銀グループやJBIC、NEXIが政治リスク、商業リスクに踏み込んだ カバーを拡大すれば、民間企業の側としては途上国の融資、出資に踏み込める と思う。日本貿易保険(NEXI)はテロや天災まで保険を付けるプログラムを 作ったが、このような形で世銀グループがやれば、リスクシェアの形で踏み込 める。 (23)MDGsのための民間投資ということで、インフラ等を作るという議論に ついては、公益に役立つよう担保する仕組みをどのようにつくるかという課題 があり、これは本質的な問題を含んでいる。水道料金が高くて困っているとい うのが一例であろう。 (世銀グループが関与した場合には、環境基準を守らせる、児童労働を使わせ ない、腐敗があった場合には保証を引き止めるといった形で、ある面で企業に 一定の行動規範を要求することをやっている。3年前は環境基準というと企業 の側に反発があったが、最近では途上国に出るときに世銀の環境基準をクリア しているということでアピールできるため、むしろそれが世銀の企業に対する 付加価値になっている。また、企業の社会的責任が最近注目されており、これ は道義的な面もあるが、企業にとって事業リスクを少なくするという面もあ る。この企業はローカル・コミュニティに対してベネフィットを与えている、 学校・電気・保健・衛生等で協力し、ローカル・コミュニティに愛される企業 というイメージを維持することがプロジェクトの成功のために必要ということ である。最近は、世銀グループでも、社会分野の専門化はむしろ「売り物」で ありフィーをもらってアドバイスをしても良いくらいとの意見もあるとの発言 あり。) (24)日本のODAには、従来より民間投資が大事であり、その誘致を重視す るという認識があった。東南アジアに民間投資の阻害要因が多い中で、インフ ラを投資の阻害要因にさせない、というのが暗黙の了解であった。今後も形を 変えつつ、良い意味で日本の施策として続けていくことが大事である。当初世 銀に来た際には若干の違和感を感じたが、最近はスターン・チーフエコノミス トのもとで少し戻ってきている。最近はインフラが重要といわれているが、日 本のどこかで聞いたような議論である。日本に新たな形でリーダーシップを とってほしい。 (25)最近は日本の影が薄くなり、米国の大学等でも日本の講座がなくなっ てきている。しかし、金額から見ても過去の蓄積から見ても、日本がODAの世 界ではリードできる立場にある。日本経済でも製造業は強い。世界水フォーラ ムのCEOフォーラムでも幾つかの日本企業がプレゼンテーションを行っていた が、水の総合管理、水検査、水と森林の融合などのすばらしい技術で貢献して いる。このような日本企業の力を途上国の発展にどのように生かすかという視 点を貫いてほしい。教育、衛生など複数セクターの全体像における位置づけ、 そして民間のダイナミズムを考えて、より有効で持続可能なものとすることが 重要と思う。 以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。 |