2003年5月20日BBL概要


国際教育協力と日本
−最近の動向と今後の課題−



5月20日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「国際教育協力と日本− 最近の動向と今後の課題−」が約15名の出席を得て行われました。 冒頭に長尾眞文史(広島大学教育開発国際協力研究センター教授) より、(1)過去10年間の日本の教育協力の動向 (2)国際教育 協力懇談会を踏まえた上での国際教育協力の方向性 (3)日本の 国際教育協力の哲学について、プレゼンテーションがありました。 席上配布資料のうち、”Education For All Japan’s Action”の パンフレットが外務省ホームページから参照可能です。
http://www.infojapan.org/policy/oda/category/education/action/index.html

これを受けて、出席者間で40分意見交換が行われました。 主な意見は次の通りです(順不同)。

(1)日本の教育協力の哲学は、後発途上国の自立を支援するため の教育協力であるべきと考えている。新しい哲学だとは思わないが、 具体的に自立を支援する行動をプロジェクトとして実施していく、 言行一致の形で支援することを日本はもっと考えるべきではないか。

(2)日本の教育援助は年間1千億円程度。ODA全体の6−7%。 内訳は、50%強が留学生への援助。現在9万人の留学生がいるが、 うち1万人弱が文部科学省留学生。25%が小中学校の建設。外務省 から無償という形で予算が措置されJICAが執行している。これに ついては、学校の単価などにつきさまざま議論がある。

(3)90年代から、残りの援助、ソフトの部分である技術協力が増え 始めている。その背景として次の点が挙げられる。(イ)1990年に タイのジョムティエンで世界教育会議が開催され、世界が「万人のた めの教育」に注目するようになった。(ロ)80年代から日本の教育が 優秀であるということを米国の教育学者が書き始めた。1992年の 世銀の出版、『東アジアの軌跡』で、基礎教育の普及が経済成長貢献 要因として取り上げられた。(ハ)日本国内(JICA、JBIC)における人 材育成経験の蓄積と援助人材の拡大(ニ)1996年の新開発援助戦略によ る教育開発目標の設定(ホ)これまでは、戦争の負の遺産が残ってお り、多大な害を与えた日本が教育に直接関わることに相手側からの反 発、日本側の躊躇があったが、状況が変わり日本が教育協力をやって もよいではないかという変革が起こった。

(4)日本側は最大援助国の1つであり、ユネスコ事務局長に松浦氏 を押したことで、特に万人のための教育にコミットしたため、外務省 に対して教育協力をソフト面で押すという圧力がかかった。90年代 の中ごろから途上国の理数科教育に対する技術協力が拡大し、現在途 上国の理数科の先生の再訓練を支援している。

(5)国際教育協力懇談会では、カナダのカナナキスサミットで小泉 総理が発表した日本の基礎教育の支援の中身に関わること、また、ヨ ハネスブルグでの環境と開発サミットで合意された、日本が「持続可 能な開発のための教育協力」を2005年から10年かけて行うとい うイニシアティブの背景になるようなことが提言された。

(6)財務省、外務省、JBIC、JICA等既存の機関に文部科学 省がニュープレイヤーとして組織的な取り組みを始めた。これは画期 的なことである。現在、課題が3点ある。(イ)現在60人ほど現職の 先生が青年海外協力隊(JOCV)現職教員枠という形で参加してい るが、より体系的に多くの現職教員を国際協力に登用、活用する必要 がある。このための国内の体制強化をする。(現職の教員の人事の問 題整備等)その際、チームで派遣し、それを日本側の教育委員会がバ ックアップする。(ロ)日本の大学が組織として国際協力に参加する。 そのために文部科学省がサポートセンターを作り、日本の大学が世銀 やADB、国連等の国際機関と仕事をできるように支援する。(ハ)国 際開発戦略研究センターを作り、日本の開発戦略を作る。

(7)日本の教育協力について、後発途上国の自立支援のための教育 協力をすることに徹してプログラムを作ってはどうか。広島センター もその方向で、世銀、AIDにも言って理解してもらって一緒にやろ うといっている。日本には次のようなバックグラウンドがそろってい る。(イ)日本の教育開発経験をみると、自分で考え時間をかけて自 立のための教育をやった。(ロ)70年代から技術協力の主要な目的とし て自助努力のための人材育成と行ってきたが、実際には、事業の計画、 実施の評価の際に自助努力を優先してこなかった。(ハ)オーナーシ ップについて、表面的に使われているので中身のある話にしなければ ならない。

(8)これまでとの相違点は、時間軸を改めることである。途上国が 自立しようとすれば国によってそれにかかる時間がちがう。先進国時 間と途上国時間という2つの時間を考えなければならない。国際機関、 援助機関、JICA等で働く専門家や各国の政策担当者が用いるのは 先進国時間である。例えば、ファストトラックイニシアチブでは、ま ずPRSPのコンディショナリティがあって、条件にかなわなければ いけないため、無理してでもそれに合わせた国には援助が出る。それ に合わせて作った教育政策が実施可能であるかは軽視される。

(9)先進国時間の時間軸の強制をしないために具体的な3つの方策 がある。 (イ)途上国プロジェクトを評価する際、有効性、効率性、インパクトな ど、評価の5つの基準があるが、このうち自立発展性を重視する。援助 が終わったときに自分で継続していくという視点での持続発展性は実際 にはあまり重視されていない。途上国側に援助依存があり、本当の意味 での自立発展性が確保されていない。 JICAで行っている事業として、今支援している南アフリカでの理数 科教育では、意識的に自立発展性を確保するように時間軸を合わせ、相 手が動かなければ日本側も動かないという方法をとっている。プレトリ ア大学がパートナーとして署名し、南アフリカの責任はプレトリア大学 が負う。日本はジュニア専門家一人しか現地駐在スタッフとして送って おらず、向こうが動かなければ動かないが、その代わり、何かあれば日 本から専門家が飛んでいく。これで事業が進まなくても日本の責任は3 分の1だ。現地では、彼ら自身が、もう3年したら日本がいなくなるの で、どうするかということをいいだしている。 (ロ)基礎教育支援にも高等教育を併せて考える。そのため、日本の大学 の教育協力をやっている大学と、米国の大学で教育協力をやっている大 学で、日米大学間の対話をする。ALOと共同でプロポーザルを書き、 2年プロジェクトで会議をやる。この日米大学グループで途上国の大学 を招待し、途上国の大学に考えてもらおうという目的だ。 (ハ)毎年1回世界的なレベルの日本教育フォーラム(JEF)を開催す る。途上国の中でウガンダやザンビアのように責任を持って自立路線を 追いかけていく国に対してバックアップし、そのような国が主役になる ようなフォーラムを作る。FTIは先進国時間に合わせてくる。これに 対してJEFは頑張る発展途上国が主役になる。これは文部科学省予算 を取り、外務省も予算を取るので、実現する。途上国の中で自分で金を 払って主張するような国をバックアップする。

(10)このように日本が少し違う教育協力をしようとしていることが わかれば、日本がやろうとしていることを諸外国の人が理解してくれる。 プロジェクトレベルでは日本はかなりよいことをやっているのに、それ をきちんと納税者、相手の国、国際援助コミュニティに対して説明して いない。

(11)気づいてみれば、途上国が自立路線を走っていたというように、 説得調ではなく、一緒にやっていく、見守っていくというような形で支 援するのが望ましい。

(12)日本の教育協力で、国内でも教育改革が叫ばれている。教師が 国内の人材が教育以外に手を取られる。国内の人材育成を考えた上で、 海外への支援ができるのではないか。→日本の教育改革の中で、大事な ところは子供の教育を浴することである。国際教育と国内教育を一つの 教育として捉え、自分の子供達の教育を考える中で、南アフリカの教育 のニーズを知らなければならない。総合学習の中で、国際教育を取り入 れていこうという動きがあり、国内、国外共に通用する人を作るのがこ れからの方向である。

(13)文部科学省が哲学の中でユネスコなど国際機関との関係をどう 位置付けるかについて、ユネスコについては、3月にユネスコのハラレ の地域事務所にブルンジ人のアフリカ大学連合にいた人を招待して議論 した。アフリカの学者・研究者とアフリカ自立路線が上手くいくか徹底 的に議論する場を設けたい。まず日米の大学で対話し、これを途上国に つなぐ時にユネスコを使う。途上国とつなげた上で、ユネスコの信託基 金も使う。また、過少利用の国連大学も一緒にやってもらうようにする。

(14)国内のNGOを育成するという切り口は入っているのか。日本 の国内でも寄付は爆発的な潜在力を持っているのが赤十字とユネスコ協 会。ベルマーク財団は海外も結構やっている。世銀だけがFTIで目立 っているが、世銀も外の仕事を自分にひきつけてやってきた。→NGO については、時間軸について途上国の時間軸でやりやすい。NGOを入 れるというのも、時間軸を変えるために後押ししている。

(15)途上国時間で動けばいいという日本の立場を世界に理解しても らうためには、かなりのキャンペーン運動などはらなければ理解が得に くいのではないか。→途上国が運転席に座ってやればよい。彼らが自分 で座りたくなるように仕向ける。そのためには大きな運動やめだったキ ャンペーンは難しい。時間軸をきるのは良くない。考えても考えなくと も遅れた国は変わらない。彼らが困ったと思うときには変わる。人道支 援の問題は別だが、援助の問題として、先進国側が時間軸を設定しても だめである。支援する旨宣言してとにかく実行すればよい。自然に大き な運動になることが望ましいが、リラックスしつつやることでよい。

(16)JICAがすべての事業が終わった時に終了時評価をやるが、 自立発展性をみているかというと疑問だ。立ち上げの目標に合わせてい こうとするのではなく、2年半後の中間評価をやる時に必要であればプ ロジェクト目標を変え、そこから5年間必要であれば、そこから5年や ればよい。また、終了時評価をすべての事業でする必要はない。継続支 援する可能性のある事業や、際立った成功・失敗例の事業に対して評価 をするというようにメリハリをつける。

(17)今、アフリカの教育を自立的に進めていこうという研究機関が いくつかある。ネットワークを作り始めて、1つアフリカ外の支援研究 センターをつかまえようとしている。ガーナのケープコースト大学の教 育研究所、インドの国立計画管理研究センターも一緒にやろうというこ とになった。

(18)日本は長い目でリラックスした援助をするといっても、欧米は 結果重視であり、結果どおりいかなければ予算をきる。これからネット ワークを作ろうといっても難しいのではないか。米国人は結果をまず見 せてほしいというだろう。2015年の目標を立てている中で、最初の 5年間何も成果がないというのはきつい。実際のプロジェクトを見てい くと、あるプロ技で5年たったが組織ができただけというのがごろごろ している。それとFTIとどう調和させるのかが厳しい。ベンチマーク はなにかあるのではないか。

(19)推計、ギャップ等、かなりラフな額であり、投資しても保証は ないことは、すこし分かったプロはわかっている。そうすることによっ て、世界が目を向けるという政治的な圧力を作っているだけだ。それに すべての投資を任せて他をやらないということではなく、それもやりな がら、他の有用なことをやればよい。2015年、追加的予算も先進国 の人が勝手にやっていること。問題は、途上国政府、途上国の人がどう 受け止めているかということだ。

(20)オーナーシップの問題に関して、途上国側に汚職、腐敗の問題 があった時、オーナーシップが持てないほど貧困が激しい時には、日本 としてある程度のプッシュが必要ではないか。→ケースバイケース。難 民が出ているところで自立路線は無理。時間をとめるしかなく、時間軸 の問題ではない。やはり、途上国はひとつひとつをきちんと見て、その 状況にあった時間軸を見つけてやろうという話である。今問題となって いる49のLLDCは、全部ひとからげにして2015年を目標にやる というのは、政治的な圧力としてはよいが、ひとつひとつ見なければな らないということである。

(21)内戦がそこまでひどくなくとも、文化的に階級制度が根付き、 プロジェクトがきても政治的意思がない国がある。運転席に座らせよう としても、ケースバイケースだとは思うが、どのような対処が必要か。 腐敗のおこっている国でも、ユニセフとJICAが協力して理数科教育 のキャパビルをやることはできるのではないか。→ほうっておかざるを 得ない国もある。誰と対話をするのかが問題。話が出来る人を養成しな いと話がはじまらない。また、腐敗のない国はない。日本でもある。パ ターン化しないで考えても進む国は進む。一つの軸にとらわれず、途上国の時間軸で考える。

(22)ローテーションが多い人事異動では、全体を見る体制が難しい。 途上国のことを知らなければならないが、大使館、JICA等の方の協 調はあまりすすんでいない。ジュニア専門員など優秀な若い人材をもう すこし長期でとどまらせてはどうだろうか。

(24)日本社会は、何十もスピンさせながら良くなっていく。優秀な 人がまた十年後に戻って活躍する場合もある。

(25)日本の縦割り行政に対して批判ばかりを述べるのはよくない。 省庁間で連携し成功している例があり、それらを生かしていくべきだ。 縦割りをはずせばそれで問題が解決するということではない。

(26)ジュニア専門員など、JICAでの3年のあと、2−3年広島 センターで仕事をするように請け負う場所を日本国内に作っていきたい。 登竜門プロジェクトということで、ポストドクターを、今2つ、しかし 5つくらいにしたい。スローだが、日本社会もだんだん変わっている。

(27)教育協力は面白い分野であり、日本にとって新しい分野。海外が 日本に注目している。今後リソースが5−6%から11%に増えるだろう。

(28)事業評価をする能力を見につけて大学を出てほしい。どこの国際援助機関にいっても仕事がどんどん出てきている。開発の問題をやるので あれば、即戦力となるプログラム評価の定量的、定性的な方法、プログラ ム理論を3−4つとって勉強してほしい。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

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