2003年5月28日BBL概要


途上国の保健分野に対する国際協力の課題と日本の役割


5月28日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「途上国の保健分野に対する国際協力 の課題と日本の役割」が約20名の出席を得て行われました。

冒頭、日本で国際保健協力の実務の中核を担っている藤崎清道氏(JICA医療協力 部長、MD, MPH)と國井修氏(外務省経済協力局調査計画課課長補佐、MD, MPH, PhD)より、最近の取り組みや今後の方向性について、資料を用いて説明・問題 提起をいただきました。

(國井修氏パワーポイント資料・約1MB) http://www.developmentforum.org/records/material/030528kunii.ppt
(藤崎清道氏パワーポイント資料・約300KB) http://www.developmentforum.org/records/material/030528fujisaki.ppt

これを受けて、出席者間で活発な意見交換が行われました。席上の冒頭説明・意 見の主要点は次の通りです(順不同)。

(1)本日、保健分野において日本のODAがどのように貢献しているかを説明 するとともに、今後どのようにすべきかについて意見交換を行いたい。

(2)まず、世界で保健医療は本当に開発における重要な問題なのだろうか。 答えは明らかにイエスである。エイズを例に取ると、世界ではエイズにより毎 日約8500人が死亡し、12000人以上が新たにエイズに感染している。また、他 の病気と異なり、エイズは長い潜伏期間を経て人体を長期間に亘り蝕んでいく ため、知らず知らずのうちに他人にも感染を広げていく。エイズはまた、病気 そのものによる死亡だけでなく、働き盛りの世代(即ち性的活動が活発な世 代)を中心に広がるため、国の経済発展にも影を落としている。昨年アフリカ へ数回訪問したが、政府とのミーティングが頻繁にキャンセルされ、その理由 がエイズによって亡くなったであろう家族や親戚の葬式への参列とのことで あった。また、学校レベルでも教員がエイズによって次々に死亡し教員の充当 が追いつかない、農業セクターでもエイズによる農業従事者の不足が発生し、 農業生産が落ちるといった状況を目の当たりにした。一方、結核によっても世 界で毎日約5000人が、また、マラリアでも約3000人が死亡している。安全な水 ・トイレの不足で、下痢症などでも子供の多くが命を落としている。しかし、 これらの病気は予防及び治療方法がほとんど確立されているものばかりで、本 来病気の発祥も、また死亡も予防しうるものである。

(3)世界が一致協力して国際保健の課題に立ち向かおうという動きが出始め たのはつい最近のことである。2000年、九州・沖縄サミットで世界的な感染症 問題への取り組みが始まり、国際的な基金の必要性も言明された。2001年に国 連のアナン事務総長は国連特別総会でエイズ問題を取り上げた際に、エイズに 立ち向かうためには70億から100億米ドルが必要と表明し、これを行動に移す ために世界エイズ結核マラリア対策基金(Global Fund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria, GFATM) が設立された。日本が2億ドル、アメリカ 5億ドル、イギリス2億ドル等、各国が資金を拠出する形で進められている。

(4)保健と経済発展、また財政的投資についての議論は、世銀の1993年の世 界開発報告“Investing in Health”に始まる。特に、DALYs (Disability-Adjusted Life Years) という概念を紹介したことは画期的で ある。従来は人間の死は何歳でそれが発生しても1人の死亡として同様に捉え られていたが、DALYsでは人間の経済生産性を考慮に入れ、20歳で死んだ場合 の方が80歳で死んだ場合より経済生産性においても損失が大きい、また、障害 の程度やその年数も考慮に入れるなどの前提に基づき、人間の命や障害にいわ ばウェイトをかけて計算する方法である。これは大きな議論を呼んだ概念では あったが、限りある資源の有効的介入という点から、保健プロジェクトの便益 を計る際にこの概念は広く使われており、倫理的な議論はあるものの、疾病負 担及びそれを減じるための費用対効果の享受性に対する理解が広まった。WHO でも、最近マクロ経済的観点かつ保健医療に対する投資、援助必要額など計算 して報告書を出している。2000年以降現在に至るまでに、開発資金国際会議 (2002年3月、於モンテレイ)、環境開発サミット(2002年8-9月、於ヨハネス ブルグ)などで健康問題とそれに対する投資の必要性が結びつけて取り上げら れてきている。

(5)日本のODAによる国際保健への協力は、ODA大綱に加え、中期政策目標、 国別計画を柱としており、重点課題としては、国際的規模問題、ベーシック ヒューマンニーズ(BHN)、人材育成で、基本アプローチは、オーナーシップ とパートナーシップ、成長を通じた貧困削減、南南協力である。援助モダリ ティを如何に効果的に組み合わせていくかは今後の課題である。最近では国際 的にはミレニアム開発目標 (Millennium Development Goals, MDGs)が現在推 進されているが、MDGsの中には、乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、HIV、結核な どの感染症罹患の低減など8つの目標のうち3つが保健問題となっており、開発 アジェンダの中でいかに保健が重要視されているかが分かる。 

(6)保健セクターに対する日本のODAのアプローチはかなり変化しつつあ る。中央から地方・コミュニティーへ、治療から予防へ、選択的アプローチか つ包括的アプローチへ、バイの支援からパートナーシップへ、従来のハード ウェア・インフラのみからソフトウェア・行政能力向上に対する協力へと移行 しつつある。

(7)以前は病院建設に援助資金が多く回ったが、1978年のプライマリヘルス ケア(PHC)に関するアルマアタ宣言以来、PHCを重視する支援に代わった。途 上国では、政府の保健予算が偏った経済層に多く裨益していた実状がある。地 方の貧しい人々は保健サービスへのアクセスが決定的に不足しているが、それ らの保健サービスを必要とする人に保健予算が十分に使われていなかった。そ の一方で、例えば都市部の富裕層は良い病院へのアクセスがあり、より良い保 健サービスをより多く受けようとする。そのため、途上国において保健省の予 算のほとんどがその国の富裕層10-20%にしか裨益していないこともよくあ る。例えばネパールの農村部では車道に出るまで1日、そこから車で5時間か かってようやく病院に着く、という現状を見た。限られたリソースを中央の国 立病院にばかりつぎ込むのではなく、末端のプライマリーレベルでの病気予防 ・治療体制を確立するための支援をする、というのがPHCのコンセプトであ る。自分はブラジルで1年働いたが、100世帯を1人のヘルスワーカーが担当す るようにデザインされており、そのヘルスワーカーは、担当世帯の保健事情を 実によく把握していた。このように住民に近いポイントでヘルスケアを行うの が重要である。

(8)今の日本の優先課題として、感染症、母子保健、地域保健がある。地域 的にはアジア重視であるが、アフリカ、ラテンアメリカもニーズは高く、さま ざまな協力を行っており、現在までに100カ国以上への協力実績がある。

(9)日本の国際保健でのイニシアティブは、1994年のGII(人口・エイズに 関する地球規模問題イニシアティブ)に始まり、7年間で約50億ドルを拠出し ている。1998年は橋本イニシアティブとして寄生虫対策を打ち出した。2000年 にはIDI(沖縄感染症イニシアティブ)において5年間で30億ドルの拠出を表明 している。また、2002年にEFA(万人のための教育)のために5年間で20億ドルの 拠出を約束したが、これは保健医療に大きく影響する教育分野であり、今後の マルチセクターアプローチの観点から重要である

(10)日本の国際保健協力への問題点として、バイとマルチ、技術協力・無 償資金協力・有償資金協力など縦割りかつスキーム毎に分かれており、時とし てその間の調整が十分でないことが挙げられる。勿論各々のスキームで経験を 積んでいるため良い面もあり、案件形成の上では有効なシステムである。しか し、保健セクターとしてみると、日本は病院建設だけでなく、技術協力で医療 技術者も送れるし、ボランティアで協力隊を派遣することも出来る。また、イ ンフラ整備は保健の向上に欠かせないことから、インフラ面でもサポート出来 る。

(11)またNGOのキャパシティ・ビルディングも今後の課題である。現在、 NGOに約150億円を草の根無償として使っているが(別途、国内NGOに約50億 円)、日本としてNGOのキャパシティ・ビルディングに十分な支援をしている とは言い難く、より戦略的にNGOとのパートナーシップを組む必要があると思 う。USAIDはNGOの専門性の向上、規模の拡大に知恵と金を使っている。

(12)パートナーシップについて、日本はマルチの援助機関に対しても多額 の拠出金を出している。世銀のPHRD基金、ADBの特別基金や奨学金、ユネスコ のキャパシティ・ビルディングのための基金等があり、エイズ対策の他、人材 育成に活用されている。また、日本が拠出する人間の安全保障基金の中から も、エイズなどの保健問題に資金が使われている。更に、日本は、ポリオ根絶 に向けて毎年約40億円程度の予算でユニセフとの協力で2005年の根絶に向けて 世界的な貢献をしている。

(13)今後の日本の国際保健協力への課題はまだまだたくさんある。国際的 に援助機関の間で調和化の動きが見られるが、日本国内の省庁間、実施機関間 の調和化も大切である。外務省、財務省、厚生労働省などの省庁間、JICA、 JBICなどの実施機関間、そしてNGO間での連携・協調である。自分はNGOでも働 いていたが、NGO間の連携、協調も重要でありながら、なかなか出来ていない と感じる。

(14)国際保健に携わる人材育成も大きな課題である。国際保健に携わる日 本人の多くが、日本から出て行ってしまっており、日本国内で活用するシステ ムが育っていないので、何とか取り組みを進めていきたい。

(15)JICAの保健医療に対する協力の概要をご説明したい。まずODAには贈 与と借款、国際機関への出資・拠出がある。JICAは二国間協力の中の技術協力 を行う専門機関であり、その他文部省は留学生受け入れ、厚生省は研修生の受 け入れなど技術協力をやっているが、単独の最大の技術協力の実施機関として JICAが位置付けられている。無償資金協力のうち、病院建設や医薬品供給など の協力は外務省で所管し、JICAはその委託を受けて実施を推進している。二国 間貸付はJBICが担当している。

(16)日本のODA予算については、2002年度約9000億円のうち、JICAは約20 %を担当している。また、無償資金協力の一部も受託しているため、全体とし ては約3000億円を持っている。

(17)JICAのスキームとしては、専門家派遣、研修生受け入れ、技術協力プ ロジェクト、青年海外協力隊、国際緊急援助隊、開発調査がある。また、NGO と協力して草の根技術協力も実施している。JICA自身がやるのでなくNGOに やってもらうというのが趣旨である。また無償資金協力も実施している。

(18)JICAの組織は、役員、官房、地域部、技術協力事業部、開発調査事業 部、その他がある。特に社会開発協力と医療協力の比重が近年大きくなってい る。

(19)技術協力プロジェクトは、専門家の派遣、研修生の受け入れ、機材供 与、という3つの基本スキームから成り立つ。最近はスキームが柔軟になって きており、この3つに加えて現地国内研修、第三国研修、青年海外協力隊派 遣、草の根技術協力などを組み合わせながら、全世界で50以上の協力をしてい る。

(20)JICA事業の特徴は、本質的・哲学的な問題も含めて考えなければなら ないが、他の先進国の協力と違うという点だが、相手国が将来自立出来る手助 けをする、という理念である。キーワードは、途上国自らが自分たちでやると いうプロセスを重視するところにあり、ひいては事業の成果が持続され、協力 が終了した後も途上国主導で事業を続けていけるようになる。また、日本の経 験の共有というのも、支援者としての日本の存在を示し、『友人を作る』とい う側面もある。アジアのトップランナーとしての経験から、欧米が高みに立っ て協力するよりも、途上国の現場では生きると思う。

(21)保健医療分野における協力の評価については、大変難しい問題であ る。保健は保健分野だけで目標を達成できるものではなく、ご存知の通り、国 の経済発展で全体としての開発が進むと、保健分野の指標も改善されている。 JICAに来る前は厚生労働省で仕事をしてきたが、日本の保健医療水準が良く なった理由は、保健行政のみならず、全体として国が豊かになり生活が改善さ れたからである。従って、JICAが取り組んできている、例えば保健人材の育成 などの事業は、その国や地域の保健セクター全体から見れば必要なことである が、ある一定の大きな目標、例えば乳幼児死亡率の低減などへの成果を出すこ とを重点に置いた場合、JICAのそれらの事業の貢献はほとんど数字として表れ てこないので、評価をどのようにすべきか大きな課題である。

(22)もう1つの問題は、保健セクターでの協力は結果が出るまで時間がか かる。乳幼児死亡率が下がる等の成果が出るまでにはいろいろな過程があり、 それを理解したうえで支援する必要がある。

(23)JICAは色々な保健プロジェクトを実施してきた。昔は病院を作って医 療技術を移転する。研究所を作り、そこのラボを構築する。そのような形態 だったため、技術移転としてのみ捉えて実施しやすかった。しかし、それ自体 意味があり大切なことであるが、基本的な保健サービスのための制度が脆弱な 中で、従来の『点』の協力でどれだけ意味があるか。そのような問題点から、 現在ではシステム作り、地域保健にシフトしてきている。

(24)日本は今後何を対象に、どういう分野の問題に取り組むかが問題にな ろう。日本は、今後も感染症対策(結核、マラリア・寄生虫、エイズなど)に 力を入れる。特に日本が貢献出来る分野として結核が重要なのは、1951年まで 日本は結核が死亡原因のトップで、これを克服した経験があり、結核研究所な ど各種機関という宝を持っている。また、寄生虫については日本がイニシア ティブをとっており、日本国内において克服した経験がある。エイズ対策も重 要だが問題が大きくリソースが充分でない。やっていくが、日本のアプローチ にメリハリをつければこのような順番ではないか。

(25)母子保健については、人口爆発の中で家族計画をやって人口を増えな いようにするニーズがあったが、人口増加が収まってきたので、今後は特に妊 産婦死亡を減らすことに力をいれたい。

(26)JICAの保健医療協力アプローチについて、端的に重要なのは人材育成 である。日本への研修生受け入れ7000−8000人のうち保健分野で1000−2000人 程度の実績がある。二番目に、行政能力強化支援が挙げられる。途上国保健省 内に専門家をアドバイザーとして派遣したり、技術プロジェクトを実施しシス テム作りを支援する。三番目としては、プライマリヘルスケア、その他、国際 機関等との協力がある。

(27)人材育成について、一例を説明したい。人口6000万を抱える農業を中 心とした中国安徽省で実施されたプロジェクトで、プライマリヘルスケアの末 端のレベルのサービスを行うスタッフのレベルを上げることにより、保健医療 水準の向上を図ることを目的とし、省の中央の訓練センター、16の支部に対 し協力している。中央の訓練センターの訓練水準を上げて、最終的に末端の保 健医療の技術者の能力を向上させるという協力方法を取った。しかし5年間の JICAによる協力には限界があるので、これを中国に引き続き実施してもらい、 国内の他省にも広めてもらう。行政部門のコース、教員のコース、実際の技術 者のコースの3つに分け、日本人でなく中国人にやってもらう。コースそのも のの運営は中国人がやる。成果として、省の正式な教材として取り上げられる ようになった。日本が協力を終えた後も省が継続できるようになっている。

(28)実務者としての仕事をする中での問題意識を申し上げれば、保健医療 分野単独で努力しても、キャパシティがついても、国全体としての発展がない と保健水準も容易に上がらないと感じている。安全な水もままならず、下水処 理施設もない、廃棄物やゴミが散乱する中では、保健分野だけの協力には限界 がある。

(29)また、評価の仕方も課題である。JICAは本年10月から独立行政法人に なる。これで自由度を高めて効率的な運営が出来るようにすることを目標とし ている。仕事そのものをJICAの判断で出来るようになる一方で、効率性、透明 性、説明責任が求められる。併せて、独立行政法人の理念として成果主義が言 われる。それでは、保健医療分野の成果は何か。5年のプロジェクト期間で乳 幼児死亡率が下がるとも思えない。その時、例えば、乳幼児死亡率が下がらな かったからプロジェクトの効果はなかった、と言われた時にどう答えるか。人 づくり、システムづくり、行政能力強化を行うというJICAの協力自体は間違っ ていないと思うが、単にプロジェクト個別の目標だけを達成できればよいと説 明する訳には行かないだろう。一方で、広義の視点から、プロジェクトは人間 的な国同士の信頼醸成に貢献しているという観点からは、双方が満足し、理解 が進めば成果があったといえるのではないか。それを最初にしっかり位置づけ ないと、死亡率等の議論をしても木を見て森を見ないことになる。保健プロ ジェクトに対しどういう評価基準を作るのか課題である。

(30)私は保健分野で働いているので保健への協力は大変重要と思うが、実 際に日本のODA予算配分を見ると割合が少ない。今後どうなっていくべきか。 どのようなトレンドがあるのか。やはり保健がこれだけ重要ということをア ピールして、この分野を選択し集中することが必要だと思う。

(31)(上記意見に対して)日本の場合は前年度に比べてどうかいうことで 決まっており、予算をセクター毎に決める形になっていない。ある国に1件規 模の大きい案件が決まった後は、同じ国に同じような案件をすぐには出せな い。(例えば、技術協力が1件動いている時に、それが終わらないと次を出せ ない。)そのため、今の形態では一気に2〜3倍には増やせない。私自身は保健 医療を担当しているので2〜3倍は増やす必要があると思う。ただし、各分野の 担当者は、自分の分野が一番重要だと主張するものである。しかし、現地にい けばニーズはいくらでもあるのが実態だ。これまでは日本の援助全般はインフ ラ中心であり、それを批判する向きもあるが、現場を見るとインフラは絶対に 必要で、例えば車道ができれば病院へのアクセスも良くなるので、インフラが 悪いとはいえない。

(32)日本の保健分野の援助の良い点は理解できるが、今後は、自ら良い援 助を続けるだけでなく、それを他のドナーにも幅広く広げていく努力こそ必要 ではないか。世界エイズ結核マラリア対策基金が出来、疾病毎のアライアンス が多数形成され、世界レベル・地域レベル・国レベルで関係者が相互に協力し て取り組みを進める中で、日本だけが単独で援助を行っていては、その知見が 生かせないのみならず、正当な評価も得られない。バイの援助主体から、この ようなパートナーシップに目を開き、積極的に関与していくことが大事だと思う。

(33)(上記意見に対して)日本の従来の伝統的な支援形態は、日本人が親 身になって、いわば地に足のついた形で美しい信頼関係が途上国との間で生ま れ、高く評価されることが多い。しかし、これからの時代、即ち国際社会にお ける成果重視の潮流に対し、それだけで果たして良いのか。従来のままの支援 を続けていると、世界の流れから日本の援助は取り残され、プレゼンスが小さ くなっていくものと思われ、見通しは厳しい。これは、国内においても、独立 行政法人の中でのJICAの存在をアピールする上で課題にならざるを得ない。し かし、この問題意識はJICA内部で必ずしも十分な形で共有されていないように 思われる。今回のUSAIDとの協議や、先週のジュネーブでのWHO総会など、この 2週間弱の間の他のドナーや国際機関などとの対話によって、従来のバイだけ での協力形態から、今後は本格的にパートナーシップをどう使いながら国際保 健への協力を進めるか考えなければならないということを、より強く認識し た、というのが率直なところである。但し、パートナーシップは言葉としては 美しいが実態が伴わない場合もままあるので、それは避けなければならない。 これらの実行のためには、組織、そして人員体制も併せて考える必要があり、 すぐに全てを変える事は出来ないが、決意表明を含めて以上の通り考えてい る。

(34) 日本の援助のプレゼンスや広報という点では、 USAIDでは、保健セクターに最低でもMPH(公衆衛生学修士)を持つ者、 中には博士号を持つような専門家が約200人、エイズだけで40人もいる。 世銀も保健医療専門家が200人ほどいる。日本では外務省でひとり、JIC Aでも藤崎部長はじめ数名程度と少ない。 日本の援助でよく言われるのが、日本のプレゼンスの低さである。例えば、援 助国のドナー会合、特にセクター別の会合に日本は出席してこない、または会 合に出席しても議論に参加していないという声が聞かれる。保健セクターでも 専門的な議論が必要な中で、日本は専門家が出席しないことが多く、議論につ いていけないというケースが少なくない。戦略がしっかりしていないため、そ れをきちんと説明できないというケースもあるようだ。日本は、現場できちん と発言して、専門的な立場から話を出来る人を増やさなければ、国際保健協力 の場でついていけない。人員だけの話ではなく、基本理念や政策を整える必要 も同時にある。今回USAIDを訪問し、保健医療分野で働くスタッフは公共衛生 学の修士号(MPH)は最低保持しており、それに加えて博士号や医師免許を持つ 人が200人、エイズの専門家だけで40人いると知った。世銀でも高度に専門化 したスタッフが200人ほどいると聞く。一方、日本では、外務省では1人だけで ある。JICAでも藤崎部長を始め数名いるが絶対的に人数は少ない。専門家でな くても、保健医療を担当して、相当な経験と知識が増えても、異動によってま た新たな人が担当になり、知識と経験が積み重ねることが困難である。行政官 は必要だが、援助の専門性が高くなった今、専門家とタイアップしてやらない と質が保てない。また、専門家が政策や戦略作りにも関与しないと、多様化・ 高度化・専門化した世界のニーズについていけない。日本では、行政官が雑用 やロジから専門的な政策作りまですべてをこなさないといけない傾向がある。 政策立案や戦略作りなどの重要な部分について行政官の創造性と生産性を高め るには、より役割分担を明確化し、専門家、民間会社、コンサル、NGOなどと の連携や契約、人事交流などを進める必要がある。これらの連携にも戦略性が 必要で、今のところ、日本のODAとして、大学、NGO、コンサルなどに何を期待 し、それぞれの役割をどのように分担し、活用していけば、よりよい援助がで きるかについて十分な議論ができていない。現状では、プロジェクトでも専門 家は技術面のみ少し手を加えるだけで、任期終了で帰ってしまう。大学の先生 は研究が中心であり援助の実態を知らない場合も多い。専門家の質にもばらつ きがある。こういう限定された人達のみで保健協力を実施しているように感じ る。しかし一方で、保健関係の大学院を出て色々な機関で経験をしている若い 人達が、なかなか国内で就職先がないため、「フラフラしている」と言われて しまう始末である。人員を増やす話をすると、予算がないといつも言われる が、もっと専門家が日本のODAの政策立案から研究へ、現場へ、またODAの政策 立案へといった循環の中で、質の向上を期待出来るような、人材活用を促すシ ステムが必要である。

(35)今指摘されたように、お金もない、優秀な人材も集まらない、それら の人材は「ふらふらしている」のが現状とすると、今後どうすべきか。

(36)(上記意見に対して)例えば、JICAには約1200人の職員がいるが、そ れぞれのセクターで戦略を作り、他ドナーや国際機関の専門家と議論できる人 材がどれだけいるだろうか。人員は増やせないというかもしれないが、これま での技術協力プロジェクトで派遣した専門家を見ると、必ずしもこれだけの人 数が必要だろうかというものもある。このうちひとりでも、保健医療重点国、 または地域にアドバイザーやセクター調整として送り、国または地域の、課題 毎(エイズ対策、母子保健など)の戦略作り、プログラム作り、ドナー協調を していけば、援助の戦略性、整合性、機動性を高め、質とインパクトとプレゼ ンスを向上させることができると考える。

(37)プロジェクトの成果や目標達成度をどのように計ろうと考えている か。世銀のプロジェクトの成果指標(Outcome Indicator)では、乳幼児死亡率 等はマクロ過ぎてプロジェクト単独の成果を計る指標には向かないので、医療 従事者の知識レベルの向上についてテストする等の指標を開発しているが、ど う思うか。

(38)(上記意見に対し)プロジェクトの中で成果達成は指標を決めて計っ ているが、決まった指標は特にない。しかし、指標を達成することだけが先走 ることは避けたい。現状では指標は定量的な成果を計ることしか出来ないが、 定性的な成果を計る方法があれば、それを使うことでさらに深みのある協力が 出来る。

(39)JICAのウェブサイトについて、英語での情報が不十分との認識があ る。外務省でも今後英文でのウェブサイト作成に力を入れる予定か。

(40)(上記質問に対し)ウェブサイトの英語ページの充実は当然やらなく てはならない。しかし、すぐに簡単には出来ない。最近では、以前に比べては 充実しているが、まだ国内向け情報発信が中心である。

(41)ポリオについて、日本は資金も人材も多く投入しているが、小さい町 から人を連れてくるときに、本来は他にも予防接種が必要である。その時にエ イズ対策教育をやるなど、他のセクターとのパートナーシップをしているの か。

(42)(上記質問に対し)ポリオ撲滅についてはご指摘のとおりで、ポリオ ワクチン接種の際に、ビタミンAや健康教育、他のワクチンなども付加するこ とがある。ポリオ根絶に向けた世界的な潮流の中で、莫大な資金を他に多くの 健康問題があるのに、地域ではそれほどケースの多くないポリオに選択的に費 やすのはどうかという声もなくはない。しかし、少ない現地資源で全部を盛り 込もうとするとかえってポリオのプログラムに支障が起こることもあるので、 現場や介入によって状況は異なる。但し、ポリオだけをバーティカルに実施 し、他のバーティカルなイニシアティブを無視するのは問題である。日本はユ ニセフやWHOとマルチーバイで協力して取り組んでいる。

(43)実は日本は国際保健において数々の協力をしてきたが、外から見てい てもどかしいと思うのは、あまりにODAがスキーム毎に細分化されていて、特 定国への日本全体としての貢献が見えにくくなっていることである。日本は、 セクター全体のニーズから入ってプロジェクトを決めるのではなく、使えるス キームや資金の規模からプロジェクトを決めている印象を受ける。例えば世銀 では、借款のプロジェクトに合わせて贈与のコンポーネントをつけるなど、 JBICとJICAが一緒になったようなことをやっている。日本でこれをやろうとし ても、スキーム・組織・省庁という垣根がハードルになっている。これをどう 考えるか。

(44)(上記質問に対して)インパクトを見せるには戦略性をもって、日本 の援助の優先課題はこれ、それ以外にはやらないという欧米型の援助の方が効 率・効果はあがるだろう。ただ、現地のニーズに耳を傾け、欧米があまりやり たがらない課題にも取り組む、「隙間産業」的な援助も個人的には悪くないと 思っている。世銀はPRSPを使って効率的にプロジェクトをはめ込んでデザイン しているように見え、またPRSPを含む国家戦略作り、優先課題への集中的資源 投入など、各ドナーが途上国の中央レベルで大声で叫んでいても、実は地域レ ベルの問題が解決せず、末端まで裨益していないことが良くある。日本のプロ ジェクト型支援は、確かに援助効率などの議論と共に進化していかなければな らないが、これらの地域や課題の実際のニーズを汲取り、地道に対応している 現実は、現場では十分なインパクトがある。現場の政府と検討して、他のド ナーが着目せず資金が行かないようなプロジェクトに日本が協力していくとい うのは、一つの方法ではないか。例えばザンビアのスラム地域で下水を作る。 これはザンビアのPRSPには関係していないが、住民の保健状態の向上は期待出 来る。このような「隙間産業」も悪くないのではないか。ただ、日本はそれら の必要性と効果をきちんと整理し、国際社会に自らの立場をきちんと説明する ことと、それでも改善すべきことは真摯に議論し行動していくことが必要だ。

(45)MDGsなどのいわば成果主義のアプローチが主流となりつつある中で、 日本は今後どのような貢献の仕方をすると考えるのか。


(46)(上記の質問に対して)MDGs達成には国別のアプローチが重要で、 日本も国別計画のなかでわが国の役割を示し、他ドナーとの連携が必要であ る。援助が個別に、複雑かつ重複した手続きをもって行われる状況は、途上国 にとっても負担となり、援助協調、調和化の流れは必要だ。しかし、SWAPやコ モンバスケットへの統一化という流れでなく、多様なモダリティーをいかに活 かし、効率を高めるかという議論や、地域や国ごとに異なるニーズや状況の中 で、各国でいかに現場に則した調和化を進めるかが鍵であろう。日本は時とし て、特別のプロジェクトとして独立していることが多く、また現地ニーズでな く、自らのキャパシティに則して案件を形成することがあるので、改善すべき ことは大いにある。何かの特別のプロジェクトに一気に集中して資源を投入す る方式でなく、人材育成支援やマネジメント型の支援を長期に行うことが効果 的ではないか。言うまでもなく、こういう場合でも各ドナーとの計画や調整は 不可欠である。とにかく、改善をいかに行動に移すか、いつまでも議論ばかり していてもはじまらない。

(47)日本の国際保健協力の重点分野は何なのかもっと前面に打ち出して、 それに応じた資源配分をすれば、日本の支援が拡散しているという印象を拭い 去れるのではないか。フィリピンにいた時に色々な保健プロジェクトに手をつ けたが、コアとなるものがなかった。それが徹底されると、現場でも重点分野 に集中して質の高い協力が出来ると思う。

(48)(上記質問に対して)重点分野と言われると、感染症と母子保健とい うことになるが、地域保健システムや疫学研究所への支援なども、最終的には どれも感染症と母子保健に裨益することになる。しかし、過去において、我々 は単独のプロジェクト毎に独立した評価しかせず、包括的・政策的に事業効果 を示すことをやってこなかった。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

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