2003年6月16日BBL概要 |
開発援助の結果重視アプローチについて −世界銀行での取り組みを素材に考える− |
6月16日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「開発援助の結果重視アプローチについて−世界銀行での取り組みを素材に考える−」が約30名の出席を得て行われました。 冒頭に廣光俊昭氏(世銀日本理事室審議役)より、開発援助で結果重視が重要とされるようになった背景や、世銀での主な取り組み(MDGs等モニタリング、コーポレートレベルでの取り組み、IDAでの取り組み)について説明した後、留意点・継続的な論点として、PRSPの役割、グローバルレベルと国レベルのモニタリング・評価の関係、指標選定、途上国の能力、先進国を対象とするモニタリング・評価等について問題提起がありました。これを受けて、日本としてどのように取り組むべきか、特に世界的なトレンドに如何に関与していくかについて、活発な議論が行われました。 会合の概要について、アメリカン大学国際関係修士課程1年の藤木美里さんに次の通りまとめていただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。本テーマは、ミレニアム開発目標(MDGs)、貧困削減戦略文書(PRSP)、モニタリング・評価等にも関わる重要な課題ですので、大変長文となりましたが、お時間がありましたら是非ご一読いただければ幸いです。 ●冒頭プレゼンテーション(廣光俊昭氏) 1.はじめに 世銀の日本理事室で3年余り勤務してきた。本日は、開発援助の結果重視アプローチについて、という標題を頂いている。まず開発援助の世界で結果重視ということがいわれるようになった背景を概観し、ついで世銀での主な取り組みを3点(MDGs等のモニタリング、コーポレートレベルでの取り組み、IDAでの取り組み)紹介し、最後に留意点を挙げて、今後の問題提起としたい。 2.背景 (1)援助効果とパフォーマンスの関係への認識の深まり 背景として第一に挙げられるのは、開発援助の経験の蓄積やその計量的分析を踏まえ、援助効果と途上国自身の政策パフォーマンスの関係についての認識が深まってきたことがある。具体的には、政策環境が良好な国に援助をした場合には効果が上がるが、政策環境が良好ではない場合には援助が有効に利用される場合が少ないということである。過去50年超の経験を踏まえてこのような認識が強まってきた。 (2)援助効果への懐疑論 第二に、援助の効果への懐疑論の強まりを指摘しなければならない。納税者、さらに議会からみれば、援助疲れということになる。例えば、アフリカには独立以来多額の援助を実施してきたが、実際には独立時よりも経済状態が悪くなっている国が少なくない。こうした状況のなかで、援助は効果があったのかという当然の疑問が出されている。冷戦中のように政治的要請で援助を行うことがなくなるにつれて、援助効果が認められないと援助を正当化することが難しくなってくる。米議会でも問題意識は旺盛で、IDA増資等の法案・予算を通すためには議会の承認を得る必要があるが、これらの場を通じて援助の効果について厳しく問われるようになってきた。また、市民社会も、援助効果の改善を図っていくことに当然の関心を有している。 (3)モンテレイ・コンセンサスの成立 第三に、モンテレイ・コンセンサスの成立を挙げることができる。2001年3月にメキシコのモンテレイで先進国と途上国の首脳クラスが一同に会して開発資金のあり方について議論した。モンテレイ・コンセンサスは、途上国と先進国が相互に責任を負うという形式をとっているのが特徴である。途上国は政策を改善する努力をする一方で、先進国では必要な援助をする、また貿易促進のために努力するという双方向で義務を負う形になっている。この合意のフォローアップという観点から、途上国の政策努力、MDGsへの進展がどれだけ進んでいるか計測をしなければならないという問題意識が強まった。 こうした背景を踏まえ、結果重視の問題は、過去3回のIMF・世銀合同開発委員会で、中心的な議題になってきた。開発委員会等での大臣レベルの議論に基づきつつ、世銀で具体的な取り組みの検討が進められてきた。 3.世銀での取り組み (1)MDGs等のモニタリング ご存知かと思うが、MDGsとは首脳レベルで合意された開発に関する国際的な目標である。一番主要なものは2015年までに貧困層を半分以下にしようというものであり、他は教育、ジェンダー、乳幼児死亡率等、主として社会セクターでの開発目標が掲げられている。また、先進国の援助などの開発に関連する政策に関する目標も含まれている。 国際合意である目標に向けた進捗状況をモニタリングする必要があるというわけで、今年の4月の開発委員会で議論を行った。春の開発委員会にはモニタリング進捗報告書の雛形が提示され、今後、春と秋に開催される開発委員会には毎回進捗報告書が提示されることになった。モンテレイ・コンセンサスを反映し、報告書では、途上国での取り組みのみならず、先進国での取り組み(マクロ経済、援助の量と質、貿易の開放度等)をもカバーするものとなっており、これが第一の特徴である。マクロ経済ではIMFが主要な役割を担い、援助の量と質についてはDACが中心になり、援助のGNP比やアンタイド化などの指標を通じてモニターし、貿易についてはWTOやOECDが作成している指標を活用している。 モニタリングの枠組みでは、MDGs等の最終的な開発目標のみならず、最終目標に達するまでの中間的なターゲット、つまり、経済成長、民間部門開発、インフラ(電化率や道路の整備状況など)、汚職対策などのガバナンスについても、モニタリングの対象としている。これは、(1)MDGsへの進捗の過程で問題が発生した場合、早期の段階で問題を発見し、解決策を練るには、中間的な指標をモニターすることが有益であること、(2)最終的な目標にモニターの視野を限った場合、民間部門開発やインフラ整備など、持続的貧困削減に不可欠な施策が疎かになりかねないというインセンティブ上の問題があること、の二点を踏まえたものである。 (2)コーポレートレベルでの取り組み 従来から、世銀ではOEDという事務局から独立し、理事会に直属する評価部局が存在しており、事務局の活動に対して評価・勧告を行ってきた。具体的には個別融資案件を評価するほか、世銀が関与しているプログラム(例:HIPC、PRSP、CDF)に対する評価を実施している。また、事務局内に業務の遂行状況のモニタリング組織としてQAG(Quality Assurance Group)という組織を設置して、融資案件などの実施状況のモニタリングを実施している。 これら従来からの取り組みに加え、最近の結果重視の要請を踏まえて、コーポレートレベルでは、以下の取り組みを行っている。従来のモニタリング・評価(M&E)の対象は融資案件等の一件一件のプロダクトレベルに偏っていたが、より重要なのは、世銀がある途上国に国全体として如何に関与しどのような効果を生んできたかを評価することではないか、という問題意識が強まってきて、国レベルのM&Eを強化する方向性が出てきた。 それを具体化するために、結果重視CAS(result based Country AssistanceStrategy)をパイロットベースで導入することが決まっている。結果重視CASの主な特徴は二点ある。まず、(1)CAS Thematic Results Matrixなるものを導入し、世銀の介入が最終的な目標であるMDGs等にどのような経路で貢献しているか因果関係の系列(Result chain)を明確化することとして、CASのアカウンタビリティを高めようとしている。また、(2)CASに基づく世銀の支援の実施状況を踏まえ、事務局がCAS Completion Report(CASCR)を作成することを決めた。CASCRは、CASが有効に機能したか否か事務局自身が自己評価するため報告書である。CASCRを踏まえ、さらにOEDが独自の評価を加え、CASの実施の良否をレーティングすることになった。すなわち、まず、CASを作成し、実施し、実施を踏まえCASCRで自己評価を行う、そしてOEDが最後に独立の評価を加える、という仕組みを作りあげるということである。これらの過程で得た教訓は今後の業務に反映される。これは手間がかかる作業でもあり、まだ、全面的に採用というわけではなく、パイロット的に導入されたことになっている。現在のところ、スリランカCASで採用されている。 コーポレートレベルでは、その他、PRSPのresult focus・モニタリングシステムの強化に取り組むこととしている。PRSPでモニタリングの対象となる指標を設定し、PRSPの実施状況をモニターしていくことが、国レベルのM&Eの基本的枠組みとなる。世銀は途上国の統計能力等の能力構築への支援等を通じて、これをサポートしていくことにしている。また、結果の出やすいもののみスタッフが取り組むことがないように、良好な結果が出にくいケース(ポストコンフリクト国など)にも取り組みを促すなど、インセンティブ上の問題にも配慮することとしている。 (3)IDAでの取り組み IDAは譲許的資源を途上国に提供している関係上、3年毎に増資をしており、その過程でドナーから様々な注文がつくことになる。コーポレートレベルの取り組みに加え、IDAを特に取り出して論ずるのは、そうした背景に基づくものである。IDAでは、以前から、Performance Based Allocation (PBA)を導入していた。PBAに基づき、政策環境が良好な国にはIDAリソースの配分を増やし、そうでない国にはIDAリソースの配分を減らしてきた。PBAでは、2つの変数から方程式を作って配分額を決めてきた。一つはCPIA(Country Policy andInstitutional Assessment)であり、経済運営、構造政策、社会政策、公的部門といった途上国の政策環境についてスコアをつけている。二番目の変数が、Portfolio Performance Ratingで、世銀が対象国に有するポートフォリオの実施状況をみて、レーティングを行う。これら二つの変数を基本としつつ、一人当たり所得をも加味して、IDAリソースを配分額を決めていくという客観性の比較的高いシステムを導入していた。 こうした従来からの取り組みに加え、結果重視の要請を踏まえ、IDA13合意では、IDAのインプットについて1、2年目の進捗目標が、またCountry Outcomeについて1年目の進捗目標(教育、保健、民間部門開発での開発目標)が定められた。インプットとは、IDAが途上国に行うインプット、アウトカムとは途上国で実際に起こる開発効果である。さらに、来るIDA14での結果計測制度を強化するため、事務局からは15のCountry Outcome指標の候補(貧困率、乳幼児死亡率、HIV等のMDGs指標、開業のコスト、公的支出管理等)が提示され、ドナー、受益国と協議を行っているところである。これらCountry Outcomeの達成度に基づいて、IDAの機関としての成績を計測しようということになっている。15の指標は公にされているが、最終的なものではない。 4.留意点・継続的な論点 以上が、世銀での具体的な取り組みの概要ということになるが、これらの取り組みを考える際の留意点をいくつか挙げて、今後の議論に供したい。 (1)PRSPの役割、国ベースの取り組みとグローバルベースの取り組みの関係 PRSPとは途上国自身が作成する開発・貧困削減戦略ペーパーであるので、これがドナー共通のプラットフォームの役割を果たすことが自然の流れである。PRSPの実施状況を途上国自身が計測していくことが重要で、その途上国自身の取り組みをベースに、各ドナーがM&Eを実施していくことになる。他方で、MDGsという国際合意に向けて国際社会がどのように進んでいるのか、というグローバルレベルでのM&Eという要請があり、国レベルでの活動とグローバルレベルでの活動の関係をどう整理するか、という問題が生ずる。なお、中所得国については、PRSPがないので、共通のプラットフォームがないなかで、どうM&Eをしていくかという問題がある。 (2)M&Eの指標の選定の問題 また、M&Eの指標の選定の問題が重要な課題になっている。どのような指標がM&Eにおいて必要にして十分であるのかという問題である。貧困削減に不可欠な成長を如何に位置付けるのかという問題があり、さらに最終目標に至らない中間的な指標(例えば保健の分野での改善のためには道路整備や電力整備も必要)をどう扱うのかという問題がある。インセンティブ上の問題、すなわち先ほど述べたように、指標でモニターをしない分野が疎かにされたり、結果の出にくい分野・国がなおざりにされたりするリスクに配慮が必要である。指標の解釈の問題も難しい論点を孕んでいる。指標は政策環境としても結果としても解釈できる場合がある。例えば、CPIAは、資源を有効に活用するための政策環境があるか否かを測るための指標として作成されているが、CPIAを構成する個々の指標はある国で開発という結果が出ているかどうかを知る指標として解釈される可能性も孕んでいる。 (3)途上国の負担 途上国の能力上の負担への配慮も重要な論点となる。先ほどPRSPのところでみたように途上国が M&Eにおいて果たす役割は大きい。その一方で、多くの途上国で指標を作る統計能力が十分にあるわけではない。如何に本件を開発効果を促進する上で有意義なものとするかという問題意識も看過できない。本件は、途上国からみれば、えてして指標の作成など途上国に負担かける話に偏りがちであり、途上国の間には、果たして本件が途上国にとって本当に利益のあるものなのかどうか、疑問に考えている向きもないではない。 (4)他機関との関係 他機関(国連、地域開発銀行(RDBs)、バイ(米国ミレニアム挑戦会計=MCA等))との役割分担・協調の問題も難しい問題である。各機関は異なったミッションを掲げている。また結果帰属の問題としたが、様々なドナーのインプットのあるなかで、どのドナーのインプットがどのような効果をもたらしたか、という帰属の問題をどう扱うかという問題もある。これは技術的には簡単ではないというのがコンセンサスだとは思うが、この簡単ではない作業を避けて通ることができるのかどうか、という問題である。 (5)先進国 最後に、先進国を対象とするM&Eの問題がある。どのような指標を選択するのかという問題(開発コミットメント指標の例)。Performance Based Allocation (PBA)がバイの援助に持っている意味合いの評価、そして先進国に対してどのように実行を促すことができるかという問題もあろう。 以上、論点の紹介にとどめたが、これらの問題すべてに現在のところ決まった答えがあるわけではない。各機関、各国で知恵を絞っているのが現状ではないか。 ●意見交換 1.結果重視アプローチに関して、二つの切り口がある。一つは、世銀の持っている枠組みに対して、日本が世銀に対するステークホールダーとして主張していくこと、もう一つは、世銀等の動きを参考にしながら、日本のやり方を変えていくこと、という切り口である。広義の日本の国際協力のあり方、世銀に対する日本のアプローチも含めて、どうするか。これを踏まえての悩みについて伺いたい。 →(廣光)世銀のステークホールダーという視点で言えば、最終の目標であるMDGsのみをカバーする偏ったモニタリング・評価システムにならないように注意することが重要だと思う。究極の目標に至る中間的な経由点(成長、民間部門開発、インフラ、ガバナンス)にも焦点が当たるM&Eにすることが重要だと思う。世銀は貧困削減・MDGsの達成を機関としてのミッションに掲げている関係上、ともすれば、貧困・社会セクターの目標に近視眼的にフォーカスし、持続的な貧困削減に成長やインフラ整備が果たす役割について認識が疎かになるきらいもあった。こうした問題意識から、M&Eにおいても、インフラやガバナンスに焦点を当てるものにすることが重要と指摘してきており、春の開発委員会で提示された枠組みは、我々の問題意識にかなったものとなっている。ただ、欧州諸国を中心に貧困削減、教育、乳幼児死亡率などによりフォーカスし、アカウンタビリティを高めることが大事という声も依然強い。 世銀を参考にしながらという部分について言えば、日本のバイの援助が、世銀などで進めているM&Eの活動にどのようなインプットをしたいと考えているのか見えにくいという感じを持つことがあった。例えば、PBAに対してバイではどのような問題意識を持っているかといった論点がある。また、現在の方向ではPRSPをベースにM&Eをやることになっているが、日本自体がPRPSをベースに援助をやっていくということにもうひとつなりきれていないことも、気がかりな点であった。 2.欧州・中央アジアを世銀で担当している現場の立場から申し上げると、M&Eを見ている立場やCPIAを導入しようとしている立場と、自分たちの立場の間に隔たりを感じる。年間10〜20本、プログラムを実施しながら支援を進めているが、OED、QAGは若干現場から遠い存在であり、本当の意味での開発目的を考えるというより、紙でどう説明するかを判断するあまり、国がどう変わったかという点はおろそかになる。プロポーザルをどう書いたかなど、紙でわかる範囲で物事を考えるような感じがあり、第二のカントリー・ディレクターではないし、本来の開発目的とずれている。この現場とのずれは毎回の議論で焦点となる。現実はどうなっているか、それを勘案して最後は評価されるが、OEDはあまりに文書主義である。 とはいいながら、QAGは頑張っている。設立当初は事後評価しかしていなかったが、プロジェクトの準備期間中ないし始めたときから、選択したプロジェクトに関わっている。QAGはアドバイザー的な立場としてやっている。良い人を連れてきて、良いアドバイスをして、モニタリングもしっかりしている。 しかし、M&Eは開発目的からして本当に役立っているか、まだまだ議論が必要である。定まった手法はない。指標の問題について、CPIAは、政策環境を20項目で判断しようということであり、項目の配分や比重付けの議論が続いており、この議論は終わらない。CPIAのように紋切り型に紀って捨てるアプローチについて、現場は冷ややかに見ている。民間部門について3つ、貧困につい2つという指標では簡単に測れない。かといって指標を増やせばよいというわけではない。 →(廣光)仰るようにCPIAはまさに「大胆に」政策環境をスコア化してみせたものということで、改善の余地がないわけではない。ただ、ドナーの視点から見れば、マクロな傾向として政策環境が良いところには援助をすればうまくいくが、逆も然りという傾向が出ている以上、何らかの手立てを講ずる必要があることは理解して頂く必要がある。不十分な点については、継続的な改善が図られており、最近はCPIAの指標を公表する方向が出ているが、公表の前提として指標の透明性を高める必要性が指摘されている。判断の基準の明確化を図るとともに、スコアについて途上国とも議論を深める必要性が指摘されている。その中でCPIAがよりよいものとなっていけば、よいと思う。 OEDとQAGについては、それぞれの組織での位置付けも勘案する必要がある。OEDは事務局から独立した評価部局であるが、QAGはマネジメント内の組織である。制度上は、OEDの方が辛口の評価ができるはずであり、それぞれの持ち味には違いがある。OEDの文書主義という点については、評価の透明性を考えると、文書主義的になるのはやむをえない部分があろう。もちろん、業務は文書だけでは動かないわけであるから、バランスが重要ということになる。 3.日本としてこのエクセサイズにインプットするとすれば、貧困削減と成長の関係であろうが、中間的な指標を入れるといっても民間部門などの準貧困削減的なものを入れただけであって、成長を通じた貧困削減という形になっていない。結局、いろいろケアしているという形であっても、最後に評価されるのが短期的な教育、保健で測られると、結局そちらに充填配分されてしまう。 また、先進国での取り組みも評価することについて、MDGs達成のために、先進国の出すべき量について実現不可能なものが出されたりする。ドナー側の責任にしようという逃げ道が用意されてしまっている。そこの橋渡しする道を作らないと、途上国のためにならないし日本のためにもならない。 せっかくPRSPを作ったので、途上国を参加させるとベトナムのように成長がほしいと途上国側から言ってくる。それを世銀とIMFの共同でエンドースするのであれば、そのプログラムでどう達成するかを測ればよいのであって、MDGsに貢献するまで測る必要がない。PRSPを測る中で、成長を入れていけばよい。これは実際に途上国にPRSPのエクセサイズをやっても、財政の話として教育、保健を重視せよということになってしまう。 もう一つは、このエクセサイズについて、中所得国をどうするかという問題を提示されたが、カバレッジに差がある。MDGsはグローバルだがIDAは最貧の対象国のみ対象である。IDA国はIDA国でなくなるためのexit strategyを考えた方が良く、中所得国を巻き込むと焦点がぼけてしまう。 最後にMDGsとの関連について述べたい。MDGsとは、信じるにせよしないにせよ、グローバルなターゲットであり、地球上の人が目指そうというものである。これが個々の国に当てはめると、焦点がぼける。一番問題なのは、中所得国と貧困国のバランスが崩れる。インドや中国は人口が大きい。アジアやサブサハラアフリカなど、それぞれについて焦点が違う。皆MDGsに戻って達成するというようにすると、金太郎飴的な評価システムになる。MDGsは皆の責任だが、PRSPは一応戦略としてあるので、統一的なMDGs指標に戻る必要がない。実際に開発効果という点に着目すれば、折角戦略を作るのであれば、その戦略に焦点を当てた方が良い。 →(廣光)国ベースのM&EとグローバルレベルのM&Eの関係という問題に還元できるのではないか。PRSPは途上国が作成する文書であり、国の開発目標はその国が主体的に決めることが当然の前提である。PRSPには、その国自身が主体的に設定した指標が掲載され、その指標を途上国自身がモニターしていく、これが基本である。MDGsにない開発目標を重視する国があっても、それは尊重されてしかるべきである。 ただ、国レベルだけでは話を終えられない事情がある。つまり、世銀や英DFIDや他の欧州諸国の機関は機関レベルでMDGsの達成をそのミッションとして掲げおり、MDGsに向けて各機関がどう貢献をしてきたのか説明を求められている。MDGsは国際的に合意されたものであり、グローバルレベルで開発を考える際には無視できない存在である。国レベルとグローバルレベルの両者を如何にバランスを取り、接続を図るか、という点が難しい論点になっている。この点、接続を促すために、具体的に取り組んでいるのは、PRSPをベースに国レベルでやる一方で、MDGsを国レベルにローカリゼーション(現地化)するというエクセサイズである。MDGsをローカリゼーションしていくなかで、MDGs等をPSRPのなかに途上国の主体性と調和的に収めていくことができれば、ギャップを縮めることができる。 中所得国についても、何かやらなければならない。しかし、PRSPという共通のプラットフォームがないので、低所得国の枠組みに集中して議論が進みがちなのが現状かと思う。意図した結果ではないが、結果として、低所得国に焦点を当てる形で議論が進んでいる。 4.Performance Based Allocation (PBA)について、成果が上がらない国に援助しても仕方がないという一方、成果が上がらないから援助が必要ということもいえる。配分の絶対量でなく、投資部分を少なくする一方で政策環境を整えるための援助を増やすなどのアプローチもあるのではないか。 →(廣光)世銀ではLICUS(Low Income Countries Under Stress:ポストコンフリクト国など)に対して、PBAに基づき融資は多くはできないが、政策環境改善のための技術支援は実施しようという方向性を出している。本件については、OECD/DACや国連とも協力して、共同のセミナーも実施している。融資は多くはできないが、政策アドバイスや人材育成は手厚めにやろうという方向である。 質問を聞いた感想だが、やはり指標の解釈が難しいということを感ずる。援助を有効に活用する上での政策環境の指標として利用するか、援助のニーズがどの程度あるのか知るための指標として活用するか、という点は一義的に答えることが難しい場合がある。米国のミレニアム挑戦会計(MCA)の指標には、初等教育完了者が何%あるかという指標も入っている。これは通常は、援助のニーズを知るための指標として解釈されているが、米国ではこれを、政府が国民に投資する意思を有しているか否かをみるための指標としても活用しているようである。 5. 課題はどれも重要であるが、解決できない。いろいろな中間的指標といいながらも、最終到達目標に近いものがある。諸課題に対して日本政府、世銀日本理事室が、どの程度強く、日本政府の立場を主張して、交渉しているのか、お教えいただきたい。 →(廣光)成長が持続的な貧困削減にとって不可欠という点は、繰り返し指摘してきて、かなり幅広く受け入れられてきていると考える。こうした観点から、成長に必要な施策をフォローするM&Eの枠組みとすることが重要だという点は、先ほどお話しした通りである。こうした主張に対して、必ずしもすべてのドナーが賛成というわけではないが、少しずつ状況は改善している。 ただ、こうした政治力学の話以外にも、成長、インフラなど、中間的ターゲットをうまくモニタリングの枠組みに盛り込むために必要なこともある。例えば、インフラについて、それがサービスデリバリーの改善を通じて果たす役割はある程度把握しやすいが、成長を通じた間接的な影響については、学術的にも十分解明できていないのではないか。 こうした問題、さらに広く成長と貧困の関係について解明を進めることの必要性を訴えてきているが、開発経済学を担当している世銀の部局でもこれを重点テーマとして今後取り組むと聞いている。 一朝一夕には進まないが、全体としては、貧困削減における成長の役割、インフラ・民間部門の役割が、世銀でも再認識されてきていると考えてよいと思う。 6.指標は見方がいろいろあり、使い方によってどちらでも使える。しかし指標を持つことが大事である。現場との感覚の違いがあるかもしれないが、指標がなければ現場も困るし、一人歩きする危険性もあるが、世銀で指標が一度確立すれば、バイの機関も含め他機関でも使われるので、指標の立て方が大事だと思う。 また、結果重視、パフォーマンス測量の点では、途上国がデータを集める能力、目標を作る能力が大事である。しかし、現実は戸籍もない途上国が多く、そういった国で死亡率を算定できるのが不思議なくらいである。統計分野は日本が得意とする分野であり、特に、基礎統計、産業統計など、日本はかなり前から信頼性の高いものが出来ている。データとりから統計にするまでの間にも、バイのドナーとしてやれるところがたくさんあり、この点で日本はリードできる。 7.米国の位置付けはどうか。国連や世銀のマルチ中心か、バイ中心か。そして、日本はどうしたらいいかのお考えを伺いたい。 →(廣光)米国については、MCAに焦点が当たりがちだが、その一方でIDAに対してパフォーマンスベーストコントリビューションをしていることは、あまり知られていないかもしれない。IDA13で設定した指標が達成できていれば米国からの出資を増加する仕組みである。バイでもマルチでも成果が出るところには金を出す、という面が米にはあるのではないか。もっとも国連になると話は違うのかもしれないが。 8.外務省では、評価担当部局の主要部分が経済協力局から大臣官房に移された。自分の活動を自己評価するのはおかしいという考えで、評価が監査として捉えられている。これは、MDGsや PRSPなど、評価をマネジメントの一環として捉え、継続的な政策改善に活かしていこうという世界的なトレンドに逆行しているのではないか懸念している。また、このような世界的なトレンドと日本のODA評価をどのように結び付けていくかが課題となると思う。 →(廣光)日本には日本の事情があり、世銀と同じ考えは採りえないという考えにもそれなり事情はあると思う。日本はMDGsからは腰を引いている感じで、MDGsをミッションにして援助をやっていきましょうとすんなりとは言えない。したがって国際的な議論とのかみ合わせに悩みを抱えることになる。先ほど言ったPRSPへの態度についても同様である。 9.日本の人事制度に問題がある。サイクルが短く、財務省国際局でも3課が開発関係をやっていて、実際そこに入るまで業務が分からないのに、2年という短期間で異動になる。MDGsなど長年やっていなければわからないことに取り組むと、わかるところについて庭先を掃くだけで終わってしまう。実際、ガーナなどの途上国の現場の話では、援助政策に長期的な視野がないことを認識せざるを得ない。たとえば、債務救済無償をやめるというと、債務救済無償をやめて削減すると、援助しても仕方ないという反応がきて、唖然とする。この人事制度の短期サイクルのために、目の前の1年、半年を追いかけるので精一杯の体制になっているのではないか。外務省の評価担当部局も、経済協力局の外に出したのであれば、そこに情熱のある人が専門官になり、20年くらいは開発に従事するくらいの人事制度の改革が必要ではないか。 以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。 |