2003年7月2日BBL概要 |
日本はアフリカ開発に如何に取り組むべきか −TICADIIIに向けてのワシントンDC開発フォーラムの貢献− |
7月2日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「日本はアフリカ開発に如何に取り組むべきか−TICADIIIに向けてのワシントンDC開発フォーラムの貢献−」が、約20名の出席を得て行われました。 冒頭、ワシントンDC開発フォーラム『アフリカ・ネットワーク』フォーカル・ポイントの粒良麻知子が、TICADIIIに関する9つの論点についてのプレゼンテーションを行い、その後、出席者間の議論で様々な意見が出されました。 出席者からの意見の主要なものは次の通りです(順不同)。なお、冒頭プレゼンテーションは下記ウェブサイトをご参照ください。 http://www.developmentforum.org/africa/TICADIII_BBL.htm また、当メールの全内容は、下記ウェブサイトでご覧いただけます。 http://www.developmentforum.org/africa/TICADIII_BBL_Discussion.htm 【ポイント】 (1)TICADIIIの成功と独自性 ●アジア・アフリカ協力、オーナーシップに基づくモデルを作る ●パートナーシップを通じて既存のイニシアティブの付加価値を高める方向がよいのではないか ●10年、15年と長期的に見て、どのようなイニシアティブを作るか意見をまとめる必要 (2)TICADIIIの不明瞭さ ●TICADで合意される内容は誰の政策かという問題 ●TICADは抽象的でサブスタンスが無いという印象を与えるが、日本のアフリカ援助のこれまでの実績をうまく参加者に印象付けることが重要 (3)オーナーシップ ●最近のオーナーシップは、最初の頃と中身が異なってきており、宣伝のしかた、巻き込み方を考えるべき (4)オーディエンス ●なぜアフリカに援助をしなければならないのかと疑問の声が上がり、内向きになりかけている日本国内がターゲット ●国内は参加という意味で主要なターゲットであり、多くの関係者に知恵を作りだすプールに参加してもらう (5)日本の「アジア重視」とTICADIII ●アジアに対する日本のプレゼンスを示す上で、TICADIIIを通じたアフリカとの関係を活用すれば独自性が出る。 (6)日本社会を巻き込む貿易 ●輸送コストを支払う市民レベルのネットワークを作り、政府がそれを保証したらよいのではないか ●日本がNEPADの生みの親と国際機関の中で認識されていない。他に主張すべき実質があるはず (7)開発援助と貿易の関係 ●輸出をしなければならないのは外貨獲得のためであり、経済発展には輸出は必ずしも必要ではない ●アジア・アフリカ関係における輸出入の双方を組み合わせた工業化戦略 (8)国民への説明とメディア戦略 ●日本人に経済的メリットを示すことが重要 ●メディアを通じたわかりやすい宣伝の仕方 ●水産資源という観点 ●利益・メリットを表に出して議論するべき (9)アフリカ側の反応 ●オーナーシップは大切だが、それに金をつけることが義務化すると問題 ●アジアが入っていることが一番うけている (10)NGOとの連携 ●TICADIIIとNGOの連携ができればよいが、例えばNEPADは、アフリカのNGOを参加させたがらない (11)サイドイベント ●ワシントンDC開発フォーラムからのインプットとして、具体的なサイドイベントを提案するのがよいのではないか ------ 【本文】 (1)TICADIIIの成功と独自性 TICADI、IIの時は別として、現在は先進国ドナー・国際機関による多様なイニシアティブが濫立し、TICADIIIはその一つに過ぎない。独自性の鍵として、アジア・アフリカ協力、オーナーシップに基づくモデルを作ることなどが考えられる。また、パートナーシップを通じて既存のイニシアティブの付加価値を高める方向がよいのではないかと思われる。 行事の成功自体も大切ではあるが、10年、15年と長期的に見て、どのようなイニシアティブを作るか意見をまとめる必要がある。 --- (2)TICADIIIの不明瞭さ TICADで合意される内容は誰の政策かということがよく問題となる。TICAD参加者は、日本政府のアフリカ支援政策を合意する場だと思っているが、日本政府の側からはTICADの合意と日本のコミットメントは別ものということになる。では、TICADにはどういう実体があって、どんな予算を使って何が出来るのかとなると良くわからない。そこが苦しい対応だ。世銀としても、TICADで合意されたことが将来の世銀のオペレーションを拘束するとは言えない。共催者としてもフラストレーションがある。 参加者からは、日本のコミットメントが前面に出てこないため、TICADは抽象的でサブスタンスが無いという印象になる。ところが、現場レベルまで踏み込むと、技術協力を中心に日本はアフリカで相当な活動をしている。惜しむらくはそれが外に見えないことである。TICADの場で日本のアフリカ援助の実績をうまく参加者に印象付けることが重要だと思う。その中には、国連・世銀を通じたものも含めるべきである。先日JICAからアフリカでの活動状況をブリーフするFAXが来たが、大変良い試みだと思う。 TICADで美しいものを並べているが、本当にやりたいことと、やりたくなけれどもやっているふりをしていることを、最後にきれいにまとめるだけである。これでは、説明するときにインパクトがない。TICADで本当に言いたかったことは何か。また、本気でアフリカの国がやる気にならないと、できることが限られてくるという側面もある。 --- (3)オーナーシップ アフリカの発展のためには、アフリカ自身がしっかり取り組まなければならないというオーナーシップの議論は大切だ。しかし、最近のオーナーシップは、英国などが言い始めたことになっており、最初の頃と中身が異なってきている。最後においしいものを取るのは英国や米国である。宣伝のしかた、巻き込み方を考えたほうが良い。 --- (4)オーディエンス 国内のオーディエンスが大切であるのは、国際社会のアフリカに対する関心が高まっている中で、日本国内の関心が低く、TICADIIIを通じて、国民のアフリカに対する関心を高めてもらい、同時に、政府が日本国民のアフリカに対する関心の度合いをくみ上げていく必要があるからである。 国内のオーディエンスについて、10年前のTICADIの時には、日本以外の先進国ドナーが援助疲れを見せる中で、日本のイニシアティブが唱える国際的なメッセージに大きな意義があった。しかし、今は、日本の対アフリカ援助額が減るのに対し、他の先進国ドナーの援助は増え、対アフリカのイニシアティブが次々と出されている。そもそも、なぜアフリカに援助をしなければならないのかと疑問の声が上がり、内向きになりかけている日本国内がターゲットだというのはわかる。 国内はオーディエンスというより、参加」という意味で主要なターゲットだと思う。TICADI、II、IIIという一連の流れの中で、TICADIIIについては特に日本の国内世論のサポートが脆い時期である。共催者だけに知恵を求めるのではなく、多くの関係者の知恵を集め、知恵を作りだすプールに参加してもらうようにするのが良い。 --- (5)日本の「アジア重視」とTICADIII アジア重視のためにもTICADは使える。アジアの中でFTAの議論をすると、中国、インドと日本のつばぜりあいがある。しかし、アフリカは平たくいえば植民地主義が残っており、形式的には独立しているものの、欧米の利権の中にとじこめられている。これを開放することが本来のオーナーシップであったと思うし、議論の軸はアフリカを中心にして、欧州vs米国vsアジアとなる。アジアとの関係を今なら日本がアフリカと橋渡しできるし、対欧米の観点から、アジアのアフリカにおける共通利益を育てていく場としてTICADは最適である。中国やインドもそこに入るのはウェルカムであり、アジアに対する日本のプレゼンスを示す上で、アフリカとの関係を活用すれば独自性が出る。 --- (6)日本社会を巻き込む貿易 TICADIIIで、小さくてもよいから何らかの成功事例を出す必要がある。アフリカの援助に関わっており最近もギニアで村落開発に携わっているが、彼らがマンゴーなどの生産物を輸出する時にかかる輸送コストが非常に高いことが問題である。そのため日本の社会を巻き込んだ形の貿易が行われることを望む。自由・公平な貿易でなく、偏りがあっても良い。輸送コストを支払う市民レベルのネットワークを作り、政府がそれが正しい流れであることを保証する。このような形の援助があっても良い。 アフリカに限ったことではないが、国内の農業保護政策がわが国のFTA交渉やWTO対応全ての足を引っ張っている。いろんな国際交渉を見ていると、国内で整理できていないことが国際会議にそのまま出てくることがある。日本国内の制約を外にさらけ出して、それを理解してくださいとお願いしてしまう場面があり、交渉上は不利ではないかと感じる。その一方で、公式文書に形式的な文言を入れることに随分エネルギーが使われており、形を取って実を失っている。TICAD10周年宣言では、日本がNEPADの生みの親ということが書かれているが、国際機関の中で本当にその様に広く認識されているとは思えない。他に主張すべき実質があるように思う。トータルな外交戦略やアフリカのためということを考えると、もったいない。 --- (7)開発援助と貿易の関係 開発援助と貿易の関係は、世銀もIMFも大きな関心を持っている。自由貿易が開発の条件ということで世銀が旗を振っている。ロゴフIMF調査局長は、自由貿易が開発とリンクしているということは実証されていないと話しており、貿易自由化が本当に必要なものかわからない。途上国の売りたいものは先進国が政治的にブロックしているものである。これはそろそろ整理したほうが良いというように良心的なエコノミストは思い始めている。 輸入品をいれると物価が高くなるという問題はあるが、発展するためにはモノをつくって輸出しなければならないという話がすぐでる。輸出をしなければならないのは外貨獲得のためであり、経済発展には輸出は必ずしも必要ではない。東チモールは国民の4分の3が自給自足農業である。必ずしも生活向上のためには売る必要はない。生産性をあげて、家族の食糧を確保できるようになること自体が発展であり、貿易は関係ない。アフリカも含め、多くの途上国においては必ずしも輸出産品に特化する必要はなく、自国内で売買し、稼げるように底上げするという支援が重要である。 (上記意見に対するコメント)理念的にはそうだと思うが、他方でIMFが主唱するように、対外債務があり、国別借り入れ可能額は輸出額にリンクしているので、これを減らしてよいかという問題がある。 (上記コメントを受けて)外貨を稼がなければいけないという前提はある。輸入は必要であり、それに見合う輸出は必要である。PRSPとHIPCは頭の痛い問題であるが、HIPCは過去の援助の失敗を清算するものであり、今後はグラントの比率を増やしたり、グラントとローンの使い分けを明確化したりする。ローンを借りるということは、将来外貨を返す必要があるということである。将来の生産性向上を見込んで外貨を借りる場合には、それなりの覚悟が必要である。これまで債務を積み上げた国は、国内需要は別として、とりあえず輸出する戦略が必要だろう。 工業化を考えると、市場規模を考える必要があり、その中ではやはり貿易が成長の推進力として重要である。市場規模の経済を生かして工業化戦略が立てられる。アジアやラテンアメリカなどでは国によっては国内市場の規模から輸入代替が功を奏している例もあるが、アフリカの小国では必ずしもそれが当てはまらない。工業化は輸出戦略に拠るところが大きい。例えばアフリカがアジアから機械といった生産財や中間財を輸入し、またアジアがアフリカから消費財を輸入することいったように、アジア・アフリカ関係において輸出入の双方を組み合わせた工業化戦略が考えられる。 援助財源を増やせない中、貿易・投資といった潜在的経済利益のある分野を育てることが重要だと思う。日本は、アフリカを援助対象とのみ見なし、パートナー(ジョーカー?)としての重要性を過小評価しているかもしれない。世銀では貿易品目としてアフリカから何がどの国にどのように輸出されているか細かくデータを分析している。まだ、入り口段階だが、アジアとアフリカの重要性も数字で出せると思う。TICADIIIから1年後に、来年の10月頃を目指してTICAD-NEPADの貿易・投資会議が出来れば良いと思う。 --- (8)国民への説明とメディア戦略 なぜ日本人がアフリカに融資・開発しなければいけないのか、という点に関心を持っている。この問いに対しては、日本人に経済的メリットを示すことが重要である。例えば、JBIC橘田氏が述べているように、欧米はアフリカへの関心が石油にあることを明確にしている。こういった説明を全面的に行えば、なぜアフリカを援助する必要があるのか、一般の日本人にとってわかりやすい。 援助においては善意も重要なファクターであり、例えば日本ではユニセフへの募金額が非常に大きい。メディアを通じて子どもの写真でアピールするとインパクトが大きい。例えば、ナショナル・ジェオグラフィックの写真もインパクトがある。わかりやすい宣伝の仕方が大事である。 開発でかわいそうな子どもということになると、貧困削減や保健教育につながっていき、それは重要ではあるが、日本はそれを旗印に開発するのではなくて、むしろ、水産資源という観点から考える方がよいのではないか。 日本で問題なのは、日本のメリットを口に出すことは行儀が良くないと思われていることである。知っていてもあえて表に出さない場合が多い。そのような意思決定のプロセスは根強い。ワシントンDCから貢献できるものとしては、どんなに行儀が悪くても、ある程度利益・メリットを表に出して議論することではないか。そうすれば、日本企業もメリットを受け、日本の利益となるだろう。 --- (9)アフリカ側の反応 アフリカ側もTICADIIIを通じて何をしてもらえるのか知りたがっているが、それを明確にできていない。せめて過去に日本政府がやったことを明らかにすることが大事である。資金量については確かに大きいのだが、G8でコミットした額が守られていないという風に逆の議論になったりする。また、NEPADはAUのプログラムであって組織ではない。アフリカ側はNEPADのプログラムにお金を置いてもらいたいと思っているが、NEPAD支援という言葉と実態がずれている。個人的には、オーナーシップは大切だが、それに金をつけることが義務化すると問題だと思う。国際社会の協調は推進すれば推進するほど、TICADの独自性がなくなっていく。世銀から言うのもおかしいが、TICADは世銀や国連とは別のことをやると言った方がわかりやすい。それから、アジアが入っているのが重要。ここが一番うけている。しかし、悲しいことに、アフリカが日本の資金支援の元にマレーシアから受けた技術援助が良かった、中国のことを学びたいという声があっても、日本から学びたいという声は弱い。構造改革の遅れと不況の長期化の中、金は欲しいが日本からは学ぶことは余り無いといった風潮が出ることを懸念している。 TICADIIIについて過大評価も過小評価もしないことが大切である。アフリカ側、あるいはNEPAD側の期待の度合いをコントロールする必要がある。 --- (10)NGOとの連携 TICADIIIとNGOの連携ができればよいが、例えばNEPADは、アフリカのNGOを参加させたがらないようである。 日本のNGOの連合対であるACT2003は、アフリカのNGOを招いて、8月にシンポジウムを行うので、これにも注目したい。 --- (11)サイドイベント ワシントンDC開発フォーラムからのインプットは、具体的なサイドイベントの提案が良いのではないか。例えば、日本で元首レベルのアフリカからのゲストが講演するなど、『アフリカ・ネットワーク』が媒体となり、潜在的に日本で行動を起こしてくれそうな人にアイディアを提供するというマッチングの作業ができればよい。 以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。 |