2003年10月2日BBL概要

「貿易と開発 −カンクンWTO閣僚会合を振り返りつつ

10月2日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「貿易と開発 −カンクンWTO閣僚会合を振り返りつつ」をテーマに約20名の出席を得て、JICA米国事務所にて開催されました。

冒頭に、大嶋勝氏(在米国日本大使館 書記官(経済班))より、ご自身が交渉に参加されたメキシコ・カンクンでの第5回WTO閣僚会議(9月10日〜14日)の概要について、臨場感あふれる交渉模様の説明を含め、キックオフ・プレゼンテーションしていただきました。プレゼンテーションの後、WTO加盟国としての途上国の比重が相対的に大きくなり、WTOの組織としての変質とそれに伴う途上国関係という新たな課題が圧し掛か
るという現実の中、どのように途上国関係を築くべきか、民間をどう取り込んでいくのか、日本の対応はどうあるべきか等につき、参加者の間で活発な議論がおこなわれました。


【冒頭プレゼンテーション】

 9月10日から14日にかけてカンクンにて開催されたWTO閣僚会議に応援出張という形で参加した。本日はその際に自分が感じた印象を中心にお話しさせて頂くが、政府の公式の立場とは何ら関係はなく、全くの個人的な印象・見解であることを予め申し上げておきたい。

1.カンクンへの道

カンクン閣僚会議は、2005年を最終期限とするドーハ・ラウンドの中間地点である。これまでの交渉においてほとんどの分野で、ドーハにおいて設定されたスケジュールより遅れが見られた。例えば農業と非農産品アクセスについては、もっと早い段階にモダリティという枠組みが設定されることが予定されていたが、これが遅れた理由としては、モダリティが決定すれば交渉の大きな部分が決着したことになると思うが、交渉の前半戦においては各国とも妥協できる状況にはならなかったということではないかと考えられる。なお、カンクン閣僚会議に先立ち、一部の加盟国からは、同会議はあくまで中間地点であり、最終的な成果を得る場ではないとして期待値を下げようとする動きも見られた。また、カンクン前の最後のジュネーブにおける交渉で、医薬品アクセス問題が合意されたが、合意するにあたっては最後に途上国側の抵抗があり、一旦会議を休会して関係国に1日かけて最後の説得を行い、8月30日になってようやく合意したとの経緯がある。これが今回の閣僚会議の予兆となる出来事だったのかもしれない。

2.カンクン閣僚会議の内容

(1)WTOの変質
95年から98年にかけて、外務省内のWTO担当部局に属していたが、その時と比べ、WTOの組織としての変質を感じざるを得ない。148ヶ国のWTO加盟国中、100ヶ国以上が途上国というように、加盟国中の途上国の比重が増し、以前に比べると途上国の声が大きくなっている。また、経済ルールを決める場というよりも政治的な観点からの発言が多くを占めていた。また、先進国対途上国の対立の構図が色濃くなり、日本の農業問題といったいわば先進国間の問題は、日本国内における扱いに反し、全体の中では相対的に小さかった感がある。

(2)会議の運営方法
会議は農業、非農業産品の市場アクセス、シンガポール・イッシュー、開発、その他という5つの作業部会と、綿花イニシアティヴのための新たなフォーラムに分かれて同時進行で進められた。それぞれの部会にファシリテーターが設けられ(綿花イニシアティヴについては、事務局長が担当)、全体会合、少数国会合及び「告白プロセス」と呼ばれるファシリテーターと各国とのバイの会合が行われた。全体会合や少数国会合だと各国とも建
前上自分のポジションを崩せない。「告白プロセス」において各国の本音を各ファシリテーターが個別に聴取し、それを踏まえて議長がペーパーをまとめるということが行われた。公式の全体会合等では各国とも従来のポジション通りの発言を行っていたが、別途近い意見の国同士でグループを作り、多数派工作、グループ化を図ることにより自らの意思をより議長案に反映させようとしていた。議長案が示された後、Head of Delegations Meeting (HODs)と呼ばれる会合が開催され、そこでは、議長案に対する各国の反応を集め、コンセンサス形成を図ることが期待されたが、各国ともこれまでの主張を繰り返すだけで、交渉というよりは政治的な意見表明に終始していた。

(3)主要な争点

(イ)シンガポール・イッシュー:ワシントンからジュネーヴの様子をみている限り、シンガポール・イシュー(投資、競争、貿易円滑化、政府調達の透明性)についてそれ程大きな隔たりがあるとは考えていなかった。カンクンの現場にいってみるとシンガポールイシューに積極的なのは数カ国だけで、残りの100ヶ国くらいは反対というように賛否に歴然とした差があったのが印象的であった。

(ロ)農業:日本にとって関心が高いのは市場アクセス(関税削減問題)であるが、カンクンではむしろ輸出補助金、国内支持といった補助金削減に途上国の高い関心があった。市場アクセスについては途上国側としても自分たちが身を切られる話であるので、あまり追求してこなかった。これに対し、米国のラウンドにおける主要な目的は途上国の関税を削減し、市場の新規開拓を図ることであろうが、途上国側にとっては関税収入という財源を失う上に、輸出されてくる米国農産品が補助金に染まっているものであるということは受け入れがたいということであろう。

(ハ)綿花イニシアティヴ:カンクンでの会議に先立ち、綿花の市場アクセスの問題が西アフリカ諸国より持ち出された。米国を主要なターゲットとし、綿花に対する国内補助金・輸出補助金を全部撤廃してくれという要望である。当初は西アフリカ4カ国の発案だったが、最終的には途上国全体の要望という大きな話になり、政治的に極めて重要な話となった。

(4)グリーン・ルームでの交渉
最終的に25ヶ国程度の少数による「グリーンルーム会合」と呼ばれる会合が行われたが、これは各国から閣僚プラス一人の計二人という少人数の会議で、閣僚会議の中で政治的ステイトメントでなく本来の交渉らしいやりとりがはじめてが行われた。シンガポール・イシュー、開発、非農産品市場アクセスの順番で議論することになったが、シンガポール・イシューの議論が続き、農業の順番も来ないまま、交渉は終了した。シンガポール・
イシューで交渉が決裂した要因としては、先ずは途上国側にシンガポール・イッシューの交渉に対する硬い拒否があったということがあるが、それに加え、先進国側としても、農業の議論に入り、先進国側の姿勢が問われる事態になるよりは、シンガポール・イシューの段階で途上国側が交渉に非協力だとのイメージのまま交渉を決裂させた方が無難という思惑もあったのかも知れない。

(5)日本の対応
先進国対途上国という対立構造が出来上がり、日本の市場アクセスの問題はむしろ先進国間、若しくは先進国と大規模な輸出を行う途上国との問題であったことから、日本の存在は相対的に小さくなった。勿論積極的にバイ会談等を行い日本の立場を説明するとともに全体の方向性を模索した。それ以外にも欧米と途上国が争っている
綿花や補助金問題の仲介役という役割も有り得ようが、特定の品目で柔軟性を示すことが難しいとの事情もあり、そこでのリーダーシップを示すことは容易ではなかった。

3.評価と今度の見通し

(1)ラウンド交渉に与える影響

(イ)スケジュール:政府としては、スケジュール通り2005年の交渉妥結を目指して今後も努力するということである。他方、米国大統領選挙もはじまるし、欧州もEC委員長の交代の時期に差し掛かるし、米国などからはスケジュール通りの交渉は難しいのではという意見がでてきている。

(ロ)FTA推進への流れ:全体にWTOを通じた多角的貿易自由化から各国個別の自由貿易協定(FTA)へと暫く流れが変わる可能性も考えられ、実際に米国もFTAを積極的に推進している。他方、米国ではカンクンでの態度をみて途上国とのFTA推進を留保すべしとする意見もあり、例えばFTAAやCAFTAとの関連では、ブラジルやコスタリカ、グアテマラのように、カンクンで建設的な交渉姿勢を見せなかった国とFTAの交渉を進めることについては見直すべしとの圧力が米国議会からでている。また、米国がタイとのFTAを立ち上げる話もあるが、タイもカンクンでブラジルと同じグループに属していたことから、今回のFTAの立ち上げを見直すべしという動きもある。例えばイラク戦争に際する米国の政策に賛同したシンガポールと反対したチリとの取り扱いに差異を設けたように、政治的な要素が対外経済活動に影響をあたえていることも今後の動向を見る上で勘案すべき点であろう。

(2)途上国の取り扱いと先進国間の今後の協力
今後の交渉については、予定されたものの殆どが延期されていることから、暫くは休止状態であり、各国とも今後の取り進め方については五里霧中の感があろう。しかし一つ明確なことは、途上国の意見をどうやって取り込んでいき、交渉へ目を向かせるのかというのが重要な課題であるとのことである。日・欧・米の三極間で対立が無いわけではないが、先進国と途上国の対立から比べれば、例えば日米の対立点は比較的小さい。もっと先進国で団結し、途上国にアメを与える方向に進めないと、交渉のブレークスルーは見出せないのではないか。

(3)WTOの将来
今回のWTO閣僚会議は失敗したといわれている。しかし、同じく失敗したシアトルの場合は、NGOの激しい反対運動と議長国であった米国の議事運営の失敗というのが一般的な見方であるが、今回はWTOの組織自体が変質したという感じを受ける。貿易ルールを作る機関としてのWTOの役割が地盤沈下し、国連総会のようになっては組織として意味がなくなる。WTOは裁判所機能ももっていて、その面は将来性もあるだろうが、今回の交渉を見る限り、新しいルールを作り、関税を下げて自由貿易体制を推進するルール・メイキング機能の方の将来性については心配が残る。

【席上の意見交換】

1.カンクンでの議事運営、リーダーシップ

(イ) ゼーリック米国通商代表は本当にカンクンでの交渉に積極的であったかは疑問が残る。これまではファストトラックの確保、各種FTAの推進に力を入れてきたわけだが、WTOでのシンガポール・イッシューについてどの程度力を入れているのだろうか。

(ロ) シアトルでは米国の議長としての議事運営が問題になったが、今回の墨の貿易大臣はもともと世銀にて貿易通でならした人物でもあるので、それなりに議事のリーダーシップの努力があったのでは。

(ハ)
議長の運営についていえば、5WG+1というファシリテーター方式(綿花は事務局長担当)でやり、運営方法自体についていえば非常に良かったのではないかと思われる。最後のグリーンルーム会合での会議の打ち切り方に疑問を呈する声もあるが、概ね高い評価を与えても良いのではないか。


2.日の対応

(イ)コメに関しては、従来の姿勢では駄目であるとの意見が、カンクン決裂以後、日本国内メディア等から出始めているが、それが日本農業のより一層の効率化につながるのであれば、それがカンクンの成果なのかもしれない。

(ハ) 確かに、コメを含む農産品でもってカンクンの交渉が挫折した状況もありえたわけで、そのような状況を回避すべく対策も考えていたが、結局そこに至るまもなく会議が決裂した。今は会議直後でもあり、カンクンではコメについても何の結論も出ず終了し一安心という趣もあり、日本が最終段階にならないとなかなか譲歩できないという現実を考えれば、今の状況で新たな進展は考えられない。

(二) 省庁による差異はあろうが、政府の総合的な評価としては、コメが話題にならなかったことは成功であり、ラウンドの審議は先延ばしすれば良し。しかし、長期的にはWTOが壊れるのは日本としては困る。従って向こう2年程度の短期間については、日本の貿易関連の最優先事項はバイのFTAにとことんシフトするという方向性であろうか。

(ホ) 日本は基本的にはマルチ重視なので、WTOもFTAも全部一緒に走らせるというのが基本方針である。但し、WTOが動かないということがあれば、暫くはFTAを積極的に推進するということかもしれないが、やはりWTO最重視ということは変わらない。


2.途上国との関係

(イ) WTOも国連における多国間外交の構造が出ているように思う。国連では、途上国が経済問題を政治化し、途上国として一枚岩にならないと途上国の立場を守れないことからブロック交渉化し、外交のスタイルが硬直化しているとおもう。途上国のG77のブロック化とそれを受ける先進国の窓口は同じくグループ化しているEUであり、また米国や日本については、政策が微妙に違うし自国の利益もあるような国はどうしても間に立つこともできない。途上国の比重が増す組織の変質にあわせてWTOでの交渉スタイルを考え直していくかが重要であり、先進国の交渉のダイナミズムのなかに途上国の意見を早い段階から内部化していくことが重要なのではないだろうか。

(ハ) WTOやFTAはあくまでも機構なのであって、機構が貿易を造るわけではない。各国の実体経済が貿易活動をしていくわけである。世間での政策議論では、貿易となると直ちにWTOとかFTAに関する議論に絞られてしまうことは納得がいかない。途上国がグローバライゼーションのなかでいかに経済統合できるのかをファシリテートするのかがWTOであったとしても、途上国がグローバライゼーションの中で実際に貿易活動が出来
るだけの足腰を鍛えるという側面のが重要視されていない。ポスト・カンクンの取り組みでも、ルール作りという機構面と同時に、産業育成、インフラ強化等、途上国の実体経済に関する側面での支援との連携を議論することも忘れてはならないであろう。


(二) 途上国関係では、日本を含めたアジアのカードは有効であり、例えば綿花イニシアティブであれば、実はアジア全体ではアフリカから年間に7億ドル程度綿花を買っているわけで、アジアのアフリカから主要輸入産品としては、原油、金、プラチナに続く輸入額である。アジアの繊維産業をささえているのがアフリカの綿花であり、その繊維がアフリカに輸出されてアフリカで伸びている服飾産業を支えていたりする。このようなダイナミズムの中で実際の経済は動いているので、実際のデータをもって如何に通商外交の中で信頼醸成を図るかも必要ではないであろうか。

(ホ) 貿易に関わっている人と開発に関わっている人では、双方の側面から同じことを議論しているはずだが、議論が集約化が図られていないというのが実の感触である。途上国関係では、WTOでは始まったばかりであるが、国連では経験があるは事実であろう。途上国との関わり方について、WTOということに捉われることなく、貿易・開発双方の視点から考えるということが必要だということは、当然そうだと思う。しかし、他方でWTOとしての役割はあくまでもルール作りなのであり、WTOとして世界の通商活動のためのlevel playingfieldをつくるということである。勿論、途上国には発展段階に応じた柔軟性を認め、キャパシティビルディング活動をし、それなりの便宜を図っているが、貿易機関であるだけにどうして限界があるのではないかと思う。WTOでも国連やその他開発機関との協力を進めるということが論じられているが、WTOのみで何が出来るかというと疑問がある。

(へ) バイのFTAでは、米国が途上国とのFTAを結ぶときに、キャパシティビルディングとセットで話をするということはあるし、日本もそのようなバイのコンテキストだと同様のことを考え得ると思う。しかし、マルチの場合は、WTOという機関がそこまでの機能を果たしうるだろうかというのは疑問ではある。ルールはルールなので、fairnessが一義的な意味をもつ。ある程度の柔軟性を途上国に認めるとしても、全く別のルールをつくるわけにはいかない。途上国に対する配慮は重要であろうが、今回のように政治的な思惑で動いている時には、途上国に徒に譲歩を示し続けることがWTOの将来にとり必ずしも正しい行動とは言えないのではないか。


3.貿易と開発のモード・ギャップ

(イ)貿易とファイナンスや援助の関係者とはモードが異なり、貿易は交渉モードになりやすく、ルール違反だと騒いだり、非協力、国際的孤立や失敗の張本人となるリスクで圧力をかけたりしつつ、最後まで負けないように戦い、ぎりぎりで妥結していく。それに対して世銀等の開発機関の態度は、ルールだからやれと言っても途上国は動かないので、様々なベストプラクティスを紹介したりしながらアメを与えるというように、リベラルな説得モードに入っている。WTOはルールの交渉機関なので、ルール交渉のセンターだと認識している。そういった観点から、貿易の問題が世銀等の援助の世界で如何なる形で議論にされているのか興味がある。世銀がモデルを提供すれば、JICAやJBICも参考にできるのではないか。OECDでも投資協定の交渉が破綻したが、交渉モードからは遠ざかり、よく対話し、技術協力でもお手伝いしましょうということになる。IMFも同様で、コンディショナリティで政策変更を押し付けるより、対話やTAによる共同作業を重視するいわば「みなさんに愛されるIMF」作りを目指している。WTOはまだ非常に特異な存在だと思うが。WTOの中に他の進み方もあり得るという意見もあるのだろうか。

(ロ) 世銀のなかでの貿易の位置づけというのは基本的にはマクロ的な視点が主であろう。オペレーションとのリンケージについてはこれからが課題なのかも知れない。WTO関連のIntegrated FrameworkでDiagnostic Studyということで、非常に緻密な調査というのをしているが、その調査レポートを民間セクター開発といったオペレーション活動にどう吸い上げさせるかということのリンケージを強めていくことが重要と思う。

(ハ) カンクンでのWTO閣僚会議とドバイでのIMF・世銀の合同開発委員会・年次総会が時期をほぼ同じくして開催され、貿易が合同開発委員会の議題の一つに採り上げられるなど、世銀内でも色々と議論はされている。世銀の行っている具体的な活動としては、一つは調査分析で、例えば最近刊行されたGEP(Global Economic Prospects)2004もドーハラウンドのもたらす途上国・世界経済への便益を詳細に説くなど、客観的な視点を提供することでWTO貿易交渉を支える環境を作ろうとしてきている。また、貿易の円滑化やWTO交渉能力強化といった分野でのキャパシティビルディング活動も行っている。さらに、PRSPにも貿易をどのように取り入れていくかとか、貿易関連のレンディングを行っていこうという話が出てきているようだ。


4.民間との関係

(イ)経済産業省での通商政策・経済協力政策の実務を通じて難しいと感じたのは、政府ができることと、民間が自発的にできることとを峻別した上で、後者を如何に(政府が)支援できるのかということである。貿易をやる部局が開発の仕事をわからないように、開発関係の人が貿易振興がどのようにその国の経済発展につながるのかという地点で具体的なプロジェクトを作り上げるプロセスが確立されていない。WTO協定を如何に円滑に履行するかという観点でJICAとも協力してやっていたが、政府だけではなくて、民間の自発的な意思というのを如何に掘り起こしていくのかというアプローチが欠けていた。そのような視点を具体化できるような取り組みを政府がしていくべき。JBICのように実際に開発金融を担当する部局がどこまでその国のマクロ経済に従ってローンという支援につなげていけるかといったことも含んでこよう。WTO関連もIntegrated Frameworkという支援枠組をもっているが、WTOはやはりルール作りなので、WTO自身の技術支援としては加盟国がいかに円滑に加盟できるかという限定された支援しかできない。そのようなWTOの能力をわきまえた上で、世銀、IMFといった他の国際機関、あるいは日本のJICA、JBICといった機関が補完していくことができるかが鍵であろう。

(ロ) 民間の活動のWTOへの取り込みの観点では、シンガポール・イッシューの中でも、特に投資を挙げることができるのではないか。日本としても民間の強い要望を受けて交渉に臨んでいる。投資ルール化により、本来恩恵があるはずの途上国の反対で議論が頓挫したというのは皮肉である。


5.幅広い議論ベース

(イ)外務省によるWTOのメールマガジンが最近読みやすい。国内世論にもっと訴えかけるなと政府としてできるのではないか。

(ロ) 本日の議論も省庁座談会のようであろうが、如何に民間ビジネスを取り込んでいくかが必要であろう。ひとつ外務省がもっとオープンに情報を開示していくというの努力がメルマガにも見える。また、途上国との関係の問題について世論をリードしていくという努力も必要なのではないだろうか。、これまでは先進国の企業の観点でしかアピールしていなかったが、日本の消費者の意識形成をリードすることも大切であろう。

(ハ) 民間企業がボランタリーにチャリティーをやるというのは世界中で有り得ないわけであり、相手の政府のガバナンスが乏しいほうが儲けも良くなるのが現実。そういう現実が冷徹にあるわけで、FTAが遅れても、個別企業レベルでは別に困らない。公務員に企業の本音は伝わっていないし、研究者も情報にアクセスできる場がない。企業の観点からすると、政策議論が随分異なる観点で動いているようにも見える。

(二)果たしてFTAというのは企業が各国に進出していく意識を刺激する効果はあるのかないのかといえば、商社も現地事務所があり、現地のひとたちの情報は現地のバイアスがかかっている。特定国とのFTAだとするとその国とのビジネスが最優先という声は一握りであろう。

(ホ) 外務省の情報発信をもっと強化するということは必要であろう。政治的な問題とは異なり、経済問題については発信に対する制限は小さい。しかし世論形成となると現実的には微妙な問題がある。メキシコFTAを始めとするFTA交渉においては真のニーズ、国益を見極める必要があろうが、そのためには体制を整える必要がある。


6.日本の通商外交体制

(イ)外務・経産・農水という三省庁体制を見直し、日本版USTRを設置するというアイディアは如何か?カンクンのような局面において、アドホックに、総理官邸が指揮権を発動し、各省縦割りの構造を越えて総合的にものごとを判断し決断できるような人物に、権限を集中して委ねるようなやり方をすべきではないか。

(ロ) 確かに日本の顔といったものは必要かもしれない。但し、肝心なのは誰が最終的な決断するかということであり、どのような組織を作ったとしても最終的な責任の所在が曖昧であれば意味がないのではないか。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

貿易ネットワークフォーカルポイント 吉野 裕

Top