2004年1月28日BBL概要 |
多角協力の意味合いと方向性を考える |
1月28日のDC開発フォーラムBBL「多角協力の意味合いと方向性を考える−米州開銀のインターリージョナルプログラムの経験から−」は、米州開発銀行ジャパン・プログラムの清水育子氏をキックオフスピーカーとしてお迎えして行われました。清水氏には、米州開発銀行のジャパン・プログラムの紹介、その経験を踏まえた国際金融機関における多角協力の意義・展望などについて語っていただきました。清水氏の発表後には高橋千絵氏(ウォーリック大学教育学博士(開発援助))よりジャパン・プログラムを例にした多角協力アプローチの問題点などに関してコメントを頂きました。 会場での清水氏、高橋氏からの意見及びキックオフの後の参加者との議論のハイライトは以下のとおりです。 南南協力・多角的協力とジャパン・プログラム 1. これまでに開発フォーラムでは、南南協力とは、途上国同士が共通の開発課題に互いに協力して取り組む体制のことで、タイプとしては、開発課題の解決を目指す技術協力を中心とした垂直型、交流による横の繋がり、ネットワークの構築を目指した水平型がある、等のコメントがあった。 2. 東南アジアの経験を他の地域・途上国の発展に役立てることが可能(?)という意味では、南南協力というアプローチに対する日本へ(?)の期待は高い。その一方で、南南協力体制における日本を含めた先進国ドナーの役割・付加価値についてまとまった意見は見られない。 3. 1999年の設立以来、米州開発銀行の統合・地域計画局に位置づけられ、ジャパン・プログラム(JP)は中南米・カリブ諸国とアジア諸国の間での技術協力(TC)のブローカー、需要と供給のマッチ・メーカーとして機能を果たす。プログラムの目的としては、1)アジア諸国の発展の経験・知識を共有することで中南米・カリブ諸国の経済・社会発展を支援すること(“Knowledge Exchange for LAC Development”)、2)中南米・カリブ諸国とアジア諸国の間の交流を通して両地域の相互理解と親睦を深めること (“Smaller Pacific”)、が挙げられる。 4. JPの第一フェーズ(1999−2004)では、セミナー、ワークショップ、トレーニング、小規模パイロット・プロジェクト、比較研究といった様々な形態の技術協力プロジェクトが実施されたが、第二フェーズ(2005−)では、パイロット・プロジェクトの実施にプログラムの重点が置かれる。 ジャパン・プログラムの事例: 「教育と社会復興」プロジェクト 1. 2002年、「教育と社会復興」プロジェクトが立ち上げられた。プロジェクトは、中南米・カリブ諸国とアジア諸国の紛争中・後の社会復興期における教育セクターのケース・スタディ(事例研究)を通して両地域間の知識・ベスト・プラクティスの共有を目指す。プロジェクトは、ケース・スタディ実施の第一フェーズとシンポジウムにおける研究発表の第二フェーズに分けられた。 2. ケース・スタディのフェーズでは、幼児から大人までを対象にした平和・人権教育(インドネシア、フィリピン、ペルー)、元兵士・ゲリラの社会復帰のための技術教育(エルサルバドル、コロンビア)、教員の流出地域におけるの国内避難民対象の遠隔教育(コロンビア)、インディアンや少数民族を対象とした多言語教育(グアテマラ、カンボジア)、紛争の傷跡の残る国境付近または学校のない村における教員育成(ラオス、ベトナム)、地方分権に力を置いた教育改革(エルサルバドル)等が研究対象として分析された。 3. 第二フェーズの研究発表としては、昨年11月、「紛争中・後の社会における子どもと青年の未来:中南米とアジアにおける教育と社会復興」 と題するシンポジウムが、両地域の教育、復興支援の専門家、マルチ・バイのドナーを招いて開催された。3日間に亘るシンポジウムでは、上記ケース・スタディの分析を基に、ベスト・プラクティス、それぞれの経験から学ぶべき点、課題などが議論された。さらに、政策課題の提示、今後の地域間交流のアクション・プランの作成が行われた。 4. 「教育と社会復興」プロジェクトの具体的な成果としては、1)中南米・カリブ諸国とアジア諸国のNGO同士のネットワークの構築、2)「教育と紛争」という新しいトピックに対する米州開銀内での認識・理解の向上、3)米州開銀と他のドナー間での「教育と紛争」という問題意識の共有、4)草の根NGOグループと国際機関の互いに異なる視点・論点の存在認識、5)日本の関心である「人間の安全保障」という概念のアピール、という点が挙げられる。その一方で、プロジェクトの成果(構築されたネットワーク、問題認識・理解の向上というモメンタム)をいかに維持するかという課題が残されている。 国際金融機関における多角的協力の課題・展望 1. JPの実施プロジェクトの持続性・波及効果が一つの課題である。現在のところ、一プロジェクトあたり$150,000の上限があるため、規模の経済を利用した大規模なプロジェクトの実施は難しい。また、セミナー・ワークショップなどは「無難な」技術協力のプロジェクト形態ではあるが、一回限りのイベントになりがちで、そこで構築されたネットーワークにも持続性がない。持続性・波及効果を狙うという意味では、JPの技術協力は米州開銀の実施するローンに繫がり易い既存のセクター・トピックを扱うべきであるが、そのような技術協力には革新的な要素が欠ける恐れがある。米州開銀内での、JPに対する認知度・信頼度の向上・維持なくしてはプロジェクトに持続性・波及効果を求めることは難しい。 2. 二つ目の課題として「あいまいなアカウンタビリティー」の問題がある。JPが日本政府の資金援助によって設立されたことを考慮すると、日本の「顔」をどこかで提示する必要があるかもしれない。その一方で、JPは米州開銀というマルチのプログラムであり、また中南米・カリブ諸国、アジア諸国の政府・市民グループを技術協力プロジェクトの参加者として抱えており、バイ・マルチの援助におけるアカウンタビリティーの所在がはっきりしない。 3. 一つ目の課題と関連するが、今後は、パイロット・プロジェクトの本来の意義とも言える革新性を追及する一方で、米州開銀のローン担当スタッフ・受益国カウンターパートとの連携・協調を通し持続性・波及性とのバランスを図ることがJP成功のカギとなるのではないだろうか。 4. JPのプロジェクトを通して、マルチ・アクター参画型協力を推進し、より大きな人材・資金を動かすことを狙うことも成功要因の一つとして考慮されるべきではないだろうか。 ジャパン・プログラムの今後の発展のために 1. 国別戦略・セクター別戦略を踏まえ、JPのプロジェクトをIDBの主流ローンに繋げていくことが必要。また、プロジェクト・サイクルにおいては現場の声を各ステップで反映。 ジャパン・プログラムを例にした国際金融機関における多角的協力アプローチへの問題提起 1. 南南協力・多角的協力におけるバイ・ドナーの役割・存在意義とは?単なる資金提供機関にとどまるべきか、或いはそれ以上の積極的な関与をするべきなのだろうか。 2. JPのような小規模だが革新的なプロジェクトはいかにその存在感をIDB内にてアピールし融資につなげることが出来るのだろうか。 3. 他の地域・機関による南南協力・多角的協力の実施から学べる点は何か。 4. 「教育と社会復興」プロジェクトの例をとると、紛争後の社会復興期における教育アプローチ、特にノン・フォーマル教育のアプローチは南南協力・多角的協力に向いているかもしれない。紛争後に共通した諸問題(教育システムの崩壊、教育規範の再編、技術トレーニングの必要性、など)が中南米・カリブ諸国とアジア諸国の間で見つかりやすかったのではないだろうか。南南協力では単に成功例をコピーするのではなく、個々の異なるニーズに適応し、コミュニティーの住民が主体となって教育分野の復興を果たすというプロセスを大切にしたい。 5. JPのプロジェクトではNGO同士の協力が多く見られるが、NGO間の連携・協力体制を設立・維持することは 時に困難であることを認識する必要があるかもしれない。NGO間の協力は従来の援助形態と比べると水平型である為,相互学習の姿勢は自然に期待できるが、南のNGO間にも上下関係があり、更に資金等をめぐる競争関係が見られるのではないか。 6. ここで前提とするNGO間の連携体制では、明確な融資、被融資の関係でない為に、コミットメントの問題が出てくるのではないか。知識、技術協力体制でも参加国の中にインプットとアウトプットに差が出て,アウトプットの低い側の動機が低くなれば運営に影響する、という認識を支援する側はもつ必要があるかもしれない。 7. NGO間の連携・協力体制が上下関係・主従関係によって占められることを防ぐためには、参加団体の組織力(プロジェクト運営能力、資金、人材資源、組織学習能力、特に多角的協力で要されるネットワーク力など)の違いに注意してプロジェクトの選択・計画が行われる必要がある。南南協力・多角的協力にドナーの関与する意義は、組織力向上に投資するなど、そうした第三者的な配慮にあるかもしれない。 8. 今回のJP主催のセミナーに見られるように、南南協力・多角的協力の根本の一つには組織間の学習にある。セミナーの参加者にみられた、個人レベルの学習を、いかにして組織レベルの学習, つまり環境の違う国、組織で、既存の制度、価値観、戦略にチャレンジし、変化をもたらすかが、言うまでもなく大きな課題である。 その他の論点 1. 南南協力・多角的協力とは、従来のバイ・マルチの援助の代替アプローチとなるものなのか、或いは補完的アプローチとなるものなのだろうか。-― 例えば中南米ではドメスティック・バイオレンス禁止法が存在する国が多く、アジアでは少ない。中南米の経験に触れることでインドネシア政府はこの法律を推しているインドネシアNGOとの対話を深めた。また、中南米・カリブ諸国社会における女性の政治参加は、アジア諸国、特にインドネシアやタイで、女性の社会進出を促す産業政策を立案する際に参考となる。相違点が抽象的であると難しいが、地域・社会の相違点を見つけてそれをプロジェクトとして形成するのが、多角的協力を補完的アプローチで進めていけるドナーの役割である。(トライ&エラー的なやり方より、ある程度の分析とスクリーニングを済ませてからマッチメーキングをするのがより持続的、というコメントあり) 2. JPの本来の目的は、中南米・カリブ諸国社会の開発問題に行き詰まった米州開銀及びその被融資国に「アジアの知恵」を貸してあげようというものであったのではないだろうか。また、アジア諸国、特に日本と共通の価値観を持った「仲間」を中南米・カリブ地域に増やすという狙いもJPにはあったであろう。 以上の論点をはじめとして、日本の援助における南南協力・多角的協力アプローチの役割など、関連した政策提言や具体的なアイディアなど、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。 (コミュニケーション&アウトリーチ担当 早川元貴) |