From Paris/パリDAC通信第21号 |
|
気候変動枠組条約は、主に先進国にCO2等の温室効果ガスの排出削減を義務付けた条約ですが、先進国は、プロジェクト実施費用の低い途上国で省エネなどの温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、その削減分を自国の義務達成に充てることができる「クリーン開発メカニズム(CDM)」というメカニズムを京都議定書で導入しています(詳しくはUNFCCC HP、(財)地球産業文化研究所HPを参照)。
今回は、このCDMに関するDACでの議論のご紹介です。DACはメンバー国の途上国支援活動のうち何をODAとして計上しできるかというDACの基準を基に、毎年途上国への資金の流れに関する統計を出していますが、このCDMプロジェクト実施のために利用された先進国の公的資金をODAとしてDACに報告することの可否、方法につき活発な議論を行っています。 CDMに関するDACでの議論の主な論点は、京都議定書のマラケシュ合意にある「CDM事業に対する公的資金供与がODAの流用(diversion)となってはならない」との規定の解釈方法です。ODA計上反対論者は、先進国の削減義務達成を目的としたCDMプロジェクトの氾濫により、従来のODAプロジェクトが削減されるのではないかという懸念を示し、一義的な目的が先進国の削減義務達成にあるCDMプロジェクトはODA計上すべきでないと主張。これに対し、(プロジェクト費用のうちどの程度計上するかどうかに関する考えの違いがあるものの)賛成論者は、元来CDMプロジェクトが京都議定書に導入されている精神として、このようなプロジェクトは途上国にとっても技術移転などを通じて持続可能な開発に資する、更にODAの流用に関しては、例えばODAが削減傾向にある日本のような国ではそもそもdiversionの有無をどのように判断するか定かでないこと等を指摘しています。 本件は、今年4月のDACハイレベル会合においても話し合われ、ODA計上には最後まで何カ国が反対を主張したものの、本件を解決できないことはDACのcredibilityにも関わるという認識が大勢であったため、最終的にはODA予算を用いてCDM事業を行った場合に、DACメンバーは先進国(投資国)が受け取った温室効果ガス排出削減クレジットを控除した上で、ODAとして計上できることで、メンバー国の意見が一致しました(HLMステートメント、パラ7)この決定自体、これまでの議論の積み重ねによりようやく得られた合意であり、気候変動条約という各国の利益が複雑に入り組む問題に対するDACの基本スタンスの決定として大きな評価ができますが、今後は、何を根拠に温室効果ガスの価格を決定し、どのタイミングで、ODA計上から差し引くか等、ODAの具体的な計上方法に関し、技術的な議論が積み残された形になっています。これらは、引き続きDACの下部機構会合等で議論が行われていく予定です。 CDMは、環境と経済、先進国の利益と途上国の利益、これらをうまくバランスできる新しいメカニズムとして、国際的にも注目されているため、DACでの議論でもこれらを十分に考慮したバランスのとれた決定が下されることが望まれます。 (パリDAC通信担当 寺門雅代)
|