1月13〜14日、ロンドンで「脆弱な国家(fragile
states)における援助効果向上に関するシニアレベルフォーラム(DAC、EC、UNDP、世銀共催)」が開催されました。今回は、フォーラムに出席したOECD日本政府代表部川村専門調査員の報告を基にとりまとめた概要報告をお届けします(フォーラムで配布された資料はwww.oecd.org/dac/lap/slffragilestatesで入手可能です)
1.本フォーラムでは、脆弱な国家へ援助を供与する際、援助効果向上を念頭においた戦略的なアプローチや政策の必要性をドナー間で確認し、本分野において効率的・効果的なセクターや援助モダリティに関する経験を共有し、議論を行いました。
2.脆弱な国家への援助のアプローチ
- 脆弱な国家への援助で留意すべき事項として、ドナー側の政策の一貫性・全政府型アプローチ(whole-of-government
approach)の実施や、開発分野と治安・安全保障分野(security)の連結の重要性が確認されました。更に、被援助国側との関係では、Capacity
Development や人間の安全保障の考え方に基づくアプローチの重要性、当該国の政治的意思及びオーナーシップの尊重の重要性が確認されました。
- 特にCapacity Development、オーナーシップの尊重は通常の開発援助においても具体的な手法については、特にバイドナーの間では現在作業中であり、特に軍事政権のような脆弱な国家におけるこれらの課題をどう実現するのか、個別の議論が必要と思われます(会合では、今後の課題として、それぞれの脆弱な国家が脆性を生み出す因果関係や、政治・経済学分析の必要性が確認されました)。
3.脆弱な国家支援への予算配分
議論では、「脆弱な国家へのODA量は一定しておらず、常に資金不足に陥っている(1つのLICUS国に800億ドルかかる計算になるとのこと)」、「脆弱な国家では頭脳の流出が顕著であるため、高等教育への支援を強化すべし」、「技協については、その効果・効率性につきさらに分析する必要がある(なお、オックスフォード大学のコリエー教授は、脆弱な国家からの脱却過程は、複雑な行政改革等を実行できる高等教育を受けた人々の人数が一定数を越えた後に転回点(Point
of Turnaround)を迎えることが多い、転回点を迎える前に技協を行っても無駄であり、技協は転回点を迎えた後の数年に集中して実施することが有効である(最低GDPの4%)、技協以外の援助は転回点後に量を集中することが望ましく、人道援助、一般財政支援、SWApsに集中すべきであると説いていた)」。等の意見が出され、引き続き脆弱な国家への援助の配分に関する議論の継続を求める意見が出されました。
- 本件は、主に、各ドナーの協調を進めることを目的とした透明性の観点から、予算配分に関する明確な基準を設けるべしとする英等の国々とそうでない国での意見の相違が見られましたが、本件は各国の援助政策に直に関わる話でもあり、今後は政策的な観点からの議論も活発化することが考えられます(これにあわせて、脆弱な国家における脆性の因果関係・構造を分析する必要があると認識されたことから、脆弱な国家への援助配分や援助供与を決定する基準の設定など、各DACメンバーの現在の取組につき2005年12月のDACシニアレベル会合までに纏められることになった)。
4.援助協調・アラインメント
- 議論を通じて、(1)援助効果の視点からは、脆弱な国家でも優先すべき事項は通常の国家と同じであり、例えば援助協調、援助予算の予測性の強化、ドナーの補完性、能力構築等の分野において総合的に取り組む必要である、(2)当該国の政策・重点分野にアラインできない場合、パートナー国のシステム(既存の行政システムや予算サイクル)にアラインする「陰のアラインメント(shadow
alignment)」が有効、等の結論が得られました。
- 東チモールやリベリアでは、紛争直後、援助がばらばらに実施されていたため、途上国と国連が中心になって、援助プロジェクト・プログラムのマトリクス(Transitional
Results Matrix)を作成し、不足している分野や、援助が行われているが目標が時間通りに到達されていない分野を指摘し、成果を重視した援助効果の向上に繋がり、またマトリクスの作成により、ドナー間の調整やドナーとパートナー国の対話の強化に貢献したという事例が紹介されました。
- 3月の援助効果に関するパリ・ハイレベルフォーラムを目前に、脆弱な国家への支援の重要性を協調する米、英等の国々の牽引力もあり、本トピックの議論は俄に活発化しました。議論を通じ、通常の国家における援助効果向上と同様の分野での取組が重要とされましたが、同時に脆弱な国家における脆性の因果関係・構造を分析する必要も指摘されていることに鑑み、これらの分析に基づき、これまで作業を行ってきている援助効果に関するDACの成果をどのように脆弱な国家に当てはめていくか、個別具体的な議論の必要性が感じられます。
5.援助モダリティ
- 脆弱な国家は多様であり、当該国の能力の差、社会制度・構造や歴史を深く理解した上で、援助モダリティの使い分けや配合を考慮すべき、またある程度ガバナンスのレベルが確保できるまでは技協が適当であり一般財政支援は慎重に実施すべきとする仏、米、日本と、脆弱な国家であるからこそSWApsや一般財政支援により財政がある程度確保される必要があり、短期の技協はあまり効果がないとする英、蘭、北欧諸国に議論が分かれました。
- 途上国側の出席者(シエラレオネ、東チモールなど)からは、自国の経験から、技協は紛争直後2‐3年特に有用であり、要は援助プロジェクト・プログラムの順序付けが肝心であるとの発言がありました。
(パリDAC通信担当 寺門雅代)
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