From Paris/パリDAC通信第33号


2005年3月19日

パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告
(その2 パリ宣言と我が国の対応 )

 今回は、先日簡単なご報告を差し上げたパリ援助効果ハイレベルフォーラム(HLF:2月28日〜3月2日)に関し、その成果であるパリ宣言と我が国の対応につきご紹介します(青文字部分は著者の所感・コメント等)。

1. パリ宣言


(1)パリHLFの最大の成果として、援助効果アジェンダの背景や今後のコミットメントの大枠を記した@「ステートメント(Statement of Resolve)」、A「オーナーシップ」「アラインメント」「調和化」「開発成果マネジメント」「相互説明責任(Mutual Accountability)」の課題毎にパートナー国・ドナーそれぞれのコミットメントが盛り込まれている「パートナーシップ・コミットメント」、B定量的に「パリ宣言」の進捗状況を測定できるように設定した「指標(Indicators of progress)」の3部で構成されるパリ宣言が採択されました。


(2)2年前に採択したローマ宣言と比べ、パリ宣言は以下の特徴を有しています。

  • 「パートナーシップ・コミットメント」の中で、「オーナーシップ」「アラインメント」「調和化」「開発成果マネジメント」「相互説明責任(Mutual Accountability)」のイシュー毎にパートナー国、ドナー、それぞれがとるべき行動計画を約し、action-orientedな内容。
    (→ 今回、「パートナーシップ」の言葉が強調されている背景には、援助効果アジェンダにおけるパートナー国の責任・役割の重要性への認識が高まった現れといえます。今回のパリHLFでもパートナーの発言(後半の閣僚級会合では少々減退。。。)が活発に出されたのは、彼らの本アジェンダに対する認識が深まっていることを示しているものといえると思います。)

  • 上記パートナーシップ・コミットメントから、定量的にモニタリング可能な項目を選び、12項目の指標を設定し、今後、本年9月までに、指標8(アンタイド化の項目)を除く11項目に具体的数値を設定し、現地の既存の枠組みを最大限に利用しつつ、モニタリングを行う点(モニタリングの方法については、12月までに決定予定。次回会合の2008年までに2ラウンドのモニタリングを実施する予定)。
    (→ 今後、指標、評価の専門家による技術グループで提案が行われ、それを基に6月頃にDAC援助効果作業部会を中心に議論が行われる予定です。なお、次回のHLFは2008年に途上国で行われる予定。今回、ローマから二年後の開催でしたが、成果を出すまでに時間がかかること等への配慮が働いたものと考えられます。また、現場の声としては、「HLFの準備、DACにおける議論への対応で、実質的な援助協調等への時間が割けない!」という声も一部あったことに鑑み、3年後の設定は、事態の是正につながれば・・・と個人的には感じています。)
  • ローマ調和化宣言以来の援助効果のアジェンダであった「オーナーシップ」「アラインメント」「調和化」に、「Mutual accountability(相互説明責任)」「Fragile states(「脆弱な国家」)における援助効果向上」「能力開発(capacity development)」「開発成果マネジメント」が新たに追加された点。
    (→ 今回は、(同じ概念を必ずしも想定しているわけではないが)能力開発の重要性を指摘する発言が多く目立ちました。本件については、これまで中心的に取組みを行ってきたLENCDや、DACのGOVNETとの協力の上、今後取組みが強化されることが予想されます。パリHLFでの分科会や今後の見通しについては、他の分野と共に次号以降で紹介予定。)

(3)パリ宣言の起草過程における最大の争点は、「指標」に付する達成数値目標の設定方法でした。イギリス、オランダ、ノルウェー等のEU諸国、世銀ウォルフェンソン総裁、一部パートナー国より本HLFにおいて数値目標を決定し、行動計画に具体性をもたせるべき」と主張、ノルウェー、EUからは、「数値目標を設定できる国(注 EUでは独自に数値目標を合意していた)は、数値目標を設定し、その旨パリ宣言に記すべき」としました。一方、アメリカ、日本等は、各指標について、現在どのような状況かというベースラインが分からない中、達成すべき数値目標を設定するのは論理的でない等の理由から、妥協案として、ベースラインが不明な指標については今後早急に調査・検討を行い、国連「ミレニアム+5」会合の行われる9月までに決定すべきとし、最終的にはそのラインでパリ宣言が採択されることになりました。一方、EUの各国独自の努力をパリ宣言に反映させるべき、という主張に関しては、パラ9の「独自の努力は歓迎されるべき」とされ、各国は自主的に今後独自の努力を発表し、まとめて公表されることになりました。

(→ 達成すべき数値目標の設定が今回行えなかった理由としては、純粋に準備・交渉の時間が足りなかったことが挙げられると思います。その制限下でも、積極的に数値を設定すべしとしたイギリス、ノルウェー等のEU諸国の主張は、自身の努力への自信の現れなのでしょうか。確かに、EUは事前に数値目標を合意しており、積極的な努力があったといえるでしょう。一方、アメリカ、日本、(準備段階ではドイツ、カナダも含む)等が「ベースライン無しでの数値設定は非論理的」といったのは、単なる数値コミットメントを回避する口実といえるのでしょうか。。。「日本人」としての立場でものを言えば、「時間が無い中、無理やり、何でもいいから数値をいれろという主張はあまりに乱暴(一部の発言者は、「そんなことはMDGsだって同じ!」と開き直る始末。)。やはり現状をしっかりと把握して科学的に物事を進めるのが、本当の援助効果を達成するための正攻法。」という「まじめな、慎重な立場」が背景にあるものと考えられます。要は、「論拠に基づいた約束をしたい、そしてそのように約した事項はがんばって守る」日本人(その他の国は不明)と「とりあえず努力目標的な数値だけ入れて、努力をうながすことが重要」とするヨーロッパの一部の人々の性格(制度)の差といえるのでしょうか。いずれにしても各国の「本音」は今後の議論で見えてくるはず。個人的には、「ウソのない」「本当に途上国の現場にとって必要な援助効果向上のアジェンダがうまく進むようなインセンティブになるような」目標が設定されるようにと願っています。)

2.我が国の対応

(1)パリ宣言は、我が国が強く主張した、パートナー国のオーナーシップ、能力開発、国家開発戦略への整合性確保(alignment)が反映された点、評価ができるといえます。

(2)また、我が国は、パリ宣言のモニタリングは、定量的指標(quantitative indicators)と定性的指標(qualitative indicators)の2つをバランス良く組み合わせるべき、モニタリングは、既存の枠組み(ドナー支援国会合や被援助国・ドナーが参加する現地ベースのワーキンググループ等)を最大限活用すべき、との主張を行いました。今後の具体的な議論で右が確保されるよう積極的なインプットを行う次第です。
(→ 「定性的指標」を考慮して、定性的な評価をすることの重要性は、指標の検討を今後行っていく中で協力が想定されているDAC評価ネットワークの関係者も主張しています。パリ宣言の定量的指標は、援助効果向上の要素のほんの一部しか選んでいない(これはモニタリングを簡単にするためにそれを招致で12こにしぼったという背景有り)ため、数字が一人歩きして、全体像を歪める惧れがあること、また一部の指標は定量的だけではモニタリングが不可能なこと、更には、数値だけでは、何でそのような状況が起こったかを分析して,今後の改善につなげることが不可能な点、不十分という点がその重要性の根拠として挙げられます。)

(3)パリ宣言の採択を、我が国の援助の効果向上に向けた改革につなげるため、パリHLFでは「行動計画」を独自に発表し、宣言に対する我が国のコミットメントを示しました。本計画は、在外公館の現状、声を吸い上げとりまとめたもので、援助効果向上においては、(イ)オーナーシップは、援助効果向上を図る上での出発点、(ロ)同時に、パートナー国政府・他ドナーとのパートナーシップが重要、(ハ)適切な能力開発が伴わなければならない、(ニ)途上国の開発政策との整合性(アラインメント)を確保する、(ホ)パートナー国の各種制度(含む、公共財政管理)の改善に向けた努力を支援する、(ヘ)わが国の実施体制のより一層の強化が重要、との認識の上、これらに必要な取組みを約しているものです(近日中に外務省のHPにて閲覧可能になる予定)。

(パリDAC通信担当 寺門)


バックナンバー

2005年3月4日第32号「パリ援助効果ハイレベルフォーラム
2005年2月5日第31号「Forum on Partnership for More Effective Development Co-operation
2005年1月23日第30号「脆弱な国家(fragile states)における援助効果向上に関するシニアレベルフォーラム
2005年1月11日第29号「DACアウトリーチ戦略(その2)
2004年12月14日第28号
DACシニアレベル会合(SLM)
2004年11月16日第27号「開発援助における評価の方向性
2004年10月29日第26回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その4 調達キャパビル)−
2004年10月15日第25回『ニカラグア通信:現場から見た調和化・アラインメント
2004年10月1日第24回「DACアウトリーチ戦略−対外協力関係の今後−
2004年8月10日第23回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その2 開発成果マネジメント)−」
2004年7月28日第22回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その1)−」
2004年7月12日第21回「ODAでCO2排出権を買えるのか?」
2004年6月12日第20号MDGsへの貢献はどう図るべきか?
2004年5月30日第19号「対フランス援助審査」

2004年5月18日第18号「OECD閣僚理事会(5/13-14)」
2004年5月4日第17号 「援助量と援助効果の向上」

2004年4月18日16号「DACハイレベル会合 報告」
2004年4月6日15号「DACハイレベル会合(4/15-16)・予告編」

2004年3月14号


2003年12月13号
2003年10/11月12号
2003年7月21日11号

2003年7月7日10号
2003年6月22日9号
2003年6月9日8号
2003年5月5日7号
2003年4月28日第6号
2003年4月17日第5号
2003年4月7日第4号
2003年3月31日第3号
2003年3月24日第2号

2003年3月10日第1号

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