From Paris/パリDAC通信第36号

 

2005年5月28
開発援助サポーター倍増作戦 
− DAC諸国における広報 −


  「MDGsを達成するためには、ODA量を倍増する必要がある」。ミレニアム・プロジェクトのサックスレポート以降特に、最近の開発関係の議論の中でよく聞かれる話ですが、日本のように国家の財政が厳しい状況にある国には、非現実的、一体どうやって実現するのか?という質問が帰ってくるでしょう。そのために、IFF、国際税等、様々なイニシアティブが検討されていますが、今日はその回答のひとつとして、「国民の開発援助に対する支持も倍増させる!」という地道な手段に関するDAC等での議論についてご紹介します。

 DACでは、国民の開発援助に対する支持の向上を重要な課題のひとつとして、OECD開発センターと共同で「DAC情報責任者非公式会合」を数年に亘って開催しています。そこでは、各DACメンバー国の広報担当者等が集まり、それぞれの経験を共有したり、問題点を議論したりしています。

 今年の会合は3月上旬にパリにて開催され、以下に関する議論が行われました。

1.インド洋沖津波地震災害への支持は何故高かったのか?これは、先進国の人々はいざとなれば寛大に困った人々を助ける意思と能力がある証拠といえるのか?

⇒ インド洋沖津波災害に対する多くの支援は、先進国には潜在的に困った人々を助けるために支援・資金を提供する意思・力があることの現れであり、こうした潜在的な力を引き出してODA支持につなげていくために広報の役割が重要である等の意見に対し、一方で本件は被害者に欧州等外国からの旅行者が多く含まれており、メディアカバレッジも高かったため多くの支援をひきつけることができた特別なケースとする意見が出されました。更に、本件に対して表明されたプレッジが確実にかつ必要な支援活動に費やされたことを示さないと逆にODA支持低下につながる恐れもあるため留意すべき、最近は活動のインプットよりアウトプットへの国民の関心が高いという意見も出されました。

2.MDGs知名度調査。ヨーロッパ諸国のドナーのキャンペーンは効果をだしているのか?

⇒ 国連ミレニアム+5会合とMDGsに関するコミュニケーション戦略に関連して、最近欧州で実施されたMDGsの知名度等に関する調査につき紹介がありました。MDGsの知名度については、スウェーデン、伊、オーストリアが上位3者であり、最下位は仏、それにギリシャ、英、デンマークが続いています。上位の国々は、長い間本件に関する一般対象向けの運動(例 伊で行ったMDGsと平和運動を統合したキャンペーン、CSOを巻き込んだパレード)を行ってきたことが有効に働いたという分析がなされました(各国の取組み概要については別添2を参照)。

3.援助効果向上アジェンダの売り込み。

⇒ 援助効果向上の取組みを如何に一般に伝えるかという点につき議論を実施した。本件に関する広報はODA支持向上のためにも重要であるが、本件は「結果」ではなく「プロセス」なので、広報が難しいという課題が共有されました。また、短期的には支持が低下しても、失敗を含めたODAの実態を国民に伝えることが重要との意見も出されました。

⇒ 英のコンサルタント(Roger Riddel氏、Oxford Policy Management)の発表では、一般大衆はODAについては無知といっても過言でなく、短期的には支持を失ってもODAの実態への認識を高める必要があり、(特に自国(英)の大衆は)その機は熟したというメッセージがありました。その際、広報担当者が打ち破らないといけないODAにまつわる神話として、以下が紹介されました。日本の広報においても点検が必要??

  • 一般が抱いているODAに関する神話:ODA予算の大部分は人道援助に充てられている、ODAはニーズに応じて配分されている、貧困削減の達成のためには全てのODAを貧困層に直接届ける必要がある、ODAさえあれば貧困削減は達成可能である
  • ODA広報担当者が持つ神話:貧しい人を助けたいと思う人は皆ODA支持者である、ODA支持率アップのためには成功事例を報道することが有効

 DACでは、引き続きこのような会合やドナー同士の情報交換を通じて、開発援助への国民の理解や支持の向上に関する各メンバーの取組みをサポートしていく予定です。筆者個人としては、@このような各メンバーの取組みがどれほど、国民の支持の向上に貢献しているのかを分析して、今後の取組みのための戦略をたてる必要がある、Aこのような取組みは、開発援助への支持だけでなく、究極的には、その他一般の国民の開発問題への態度にも影響をもたらすことが理想、と感じました。Aの点については、先日のDAC対スウェーデン援助審査でも、スウェーデン開発担当大臣が同様の発言をしていました。同国がODA/GNI比1%を2006年までに達成することをコミットしている点について「国家財政が厳しくなった際にはこのようなコミットは保てるのか」という質問がなされた際、「国民の支持を向上させることが重要、しかし「真の支持」、すなわち、開発援助そのものだけでなく、途上国の開発に影響を与えるその他の要素(例 農業、貿易政策等)への理解と支持を挙げることこそが課題である」とのこと。

 皆さんは、日本のODA関連の広報についてどうお考えでしょうか?

(パリDAC通信担当 寺門雅代)


バックナンバー

2005年5月14日第35回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告とそのフォローアップ(その4 開発成果マネジメント)
2005年4月18日第34回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その3 能力開発)
2005年3月19日第33回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その2 パリ宣言と我が国の対応 )
2005年3月4日第32号「パリ援助効果ハイレベルフォーラム
2005年2月5日第31号「Forum on Partnership for More Effective Development Co-operation
2005年1月23日第30号「脆弱な国家(fragile states)における援助効果向上に関するシニアレベルフォーラム
2005年1月11日第29号「DACアウトリーチ戦略(その2)
2004年12月14日第28号
DACシニアレベル会合(SLM)
2004年11月16日第27号「開発援助における評価の方向性
2004年10月29日第26回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その4 調達キャパビル)−
2004年10月15日第25回『ニカラグア通信:現場から見た調和化・アラインメント
2004年10月1日第24回「DACアウトリーチ戦略−対外協力関係の今後−
2004年8月10日第23回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その2 開発成果マネジメント)−」
2004年7月28日第22回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その1)−」
2004年7月12日第21回「ODAでCO2排出権を買えるのか?」
2004年6月12日第20号MDGsへの貢献はどう図るべきか?
2004年5月30日第19号「対フランス援助審査」

2004年5月18日第18号「OECD閣僚理事会(5/13-14)」
2004年5月4日第17号 「援助量と援助効果の向上」

2004年4月18日16号「DACハイレベル会合 報告」
2004年4月6日15号「DACハイレベル会合(4/15-16)・予告編」

2004年3月14号


2003年12月13号
2003年10/11月12号
2003年7月21日11号

2003年7月7日10号
2003年6月22日9号
2003年6月9日8号
2003年5月5日7号
2003年4月28日第6号
2003年4月17日第5号
2003年4月7日第4号
2003年3月31日第3号
2003年3月24日第2号

2003年3月10日第1号

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