From Paris/パリDAC通信第37号 |
2005年6月27日
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皆さんは「phantom aid」という言葉を耳にしたことはありますか?今回は「phantom aid」(=実態の無いODA、ここではそのまま「オバケODA」と訳しました)に対する批判とODA統計に関するトピックのご紹介です。
1.「オバケODA」とは? 「DAC統計で発表された2003年のDACドナー全体のODA額は690億米ドル、GNI比にして0.24%とされている。しかしこれらの60%は「オバケODA」であり、これを除外して残る「本当のODA」は、270億米ドル、GNIではたったの0.1%でしかない。」 これはActionAidというNGOが発表した報告書「Real Aid」からの一節です。「また、アドボカシーNGOがcatchyな言葉を使ってドナー批判をしているのか。」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんし、一部の記述は断片的な情報もしくは事実誤認に基づく部分もあります。しかしながら、よく内容を見てみると、彼らの主張には、ドナー側も素直に耳を傾けていく必要もある問題意識に基づいているものもあります。以下は、ActionAidが「オバケODA」として、ODA額から全部もしくは一部を除外した種類の援助です。 1)貧困に焦点を当てていない援助 いかがでしょうか。例えば、報告書では、1)の「貧困に焦点をあてていない援助」の例としては、日本の輸出業者のための市場開発やFDIの受け皿を作ることを主目的にしており大規模インフラに傾注しがちとされている我が国の対ベトナム援助が引き合いに出され、いつもの「貧困vs成長」論争や「開発目的vs国益」論争の様相を呈す主張も見られます(なお、右のベトナムの例は、我が国対ベトナム国別援助計画の情報を基に書かれています。)。しかしながら、例えば、「この空港により、この国の輸出能力が強化され、経済成長に不可欠であり、これによって達成できた経済成長により、ひいては貧困層に裨益することが期待される」との説明で建設された空港は、本当に経済成長につながっているのでしょうか。本当に貧困層に裨益がみられるのでしょうか。DAC評価ネットワークでも因果関係の証明は難しいといわれていますが、少なくともこれらの因果関係が強化されるよう、例えば、法制度整備やサプライサイドの能力開発等、輸出能力の強化のための協力を伴わなければ、もしかしたら上記の因果関係説は単なる仮説で終わってしまい、所謂効果の無い援助となるのかもしれません。その意味では、確かに「一部の」援助は(「オバケODA」とするか否かは別として)見直しが必要なものもあるのではないかと感じます(ActionAidは、1)に当てはまる援助の「一部」のみを「オバケODA」としています。) 次に、「7」ドナー国内での移民・難民受け入れ費用」はどうでしょう。確かに、移民・難民を受け入れることは大変重要な活動とはいえますが、ActionAidの指摘するとおり、果たして、ドナー国内で使用された移民・難民の受け入れ費用(例 住宅手当等)は、直接途上国における貧困削減に利用される資金ではありません(むしろドナー国内に資金が落ちる。)。これらを、途上国開発のための資金、すなわちODAとしてカウントすべきなのか、議論が必要かもしれません。もしかしたら、これらは、ODA以外の国内予算によって、「純粋に」開発目的のODAに追加的に実施されるべきなのかもしれません(国によっては、国会との関係でODA予算でないとこのような活動費用を予算として確保できない、という事情もあり、難しい問題かもしれませんが。。。)。
2.「オバケODA」批判の問題意識と今後 以上のように「オバケODA」批判を紐解くと、国民の税金としての援助資金の使用方法にかかわる以下の問題意識に基づくといえます。 A)援助資金は効率的・効果的に使われるべき(「オバケODA」のうちタイプ3)、4)、5)、6)が主に当てはまる) A)の援助の非効率性に関わる問題意識については、長年国際的な場で扱われ、先の「パリ宣言」に見られるとおり、DACを中心として、世銀、各種地域開発銀行、UN関連機関、途上国より一層の努力へのコミットが示され、ドナー機関の改革、援助の現場でのドナー行動変革を目指しDACでも重点的に扱われています。 一方、B)は、各方面でODA増額が指摘され、ODAの額に対する注目が更に高まる中、0.7%目標に向かって各ドナーが各自のODA量につきある意味宣伝合戦を行っている状況の下、本当に途上国のためになっている資金のみをODAとしてカウントすべき、という考えに基づき、昨今急にDACやその他の国際的な場で表立って主張されるようになった新しい視点と、私は感じています。すなわち、このような宣伝合戦の中、発表されているODA統計を詳しく見ていこう、という問題意識です。先の世銀・IMF合同開発委でウォルフェンソン世銀総裁も、実際は、多くのバイの援助資金(彼の試算によれば、全体の70%)は、途上国で落とされていない(本国のODA管理費や高いコンサルタント・専門家費用に消えている)と、同様の指摘を行っております。これらの声を受け、DACでも今年以降、自ら発表するODAの中身についてどのように対外的に説明していくか(例 2004年の最大のODA受け取り国はイラクとなる模様だが、債務救済のODA計上方法等、統計的になぜこうなったのかわかりやすい対外向けの説明を検討している)、またこれまでのODAカウントのルールに見直しは必要ではないか、といった視点から、今後この問題に取組みを進めていく予定です。特に、他の分野に比べて定義が明確に定まっておらず、どのような活動が含まれているのか分かりづらい「技術協力」に何が含まれているか、という点につき調査・検討を開始する予定です(現行のDACの統計に興味のある方は、DACのHP をご参照ください。)。 (パリDAC通信担当 寺門雅代)
2005年5月28日第36回「開発援助サポーター倍増作戦−DAC諸国における広報−」
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