From Paris/パリDAC通信第41号 |
2005年9月18日 |
今回は、最新のDACニュースで取り上げられた、OECD/DAC事務局による「2010年ODA量のシミュレーション」と、本件に関連するDAC内外で関心が高まっている「援助の予測性向上」に関するご紹介です。 1.OECD/DAC事務局による「2010年ODA量のシミュレーション」 「OECD主要国による将来のODA額に関する公式な発表を基に、OECD/DAC事務局が試算すると、2010年のODA量は、2004年の800億米ドルから、500億米ドル増加の130億米ドルに達する。」 9月9日付け最新のDACニュースの冒頭を飾ったこのトピック。皆さんは、この数字をどうとらえますか? まず、気をつけなければならない点として、本件は、例えば、先日のG8サミットでの小泉首相演説等のOECD主要国による将来のODA額に関する公式な発表を基に、そしてこれらが全て達成された場合を想定して、OECD/DAC事務局がその責任においてシミュレーションを行った結果の数字であるということを指摘しておきます。よって、実際にこのような大幅なODA増加を達成できるかは未知数である点、気をつけていただく必要があります。例えば、イタリアは、公式に2006年までにGNI比0.33%まで増加させることをコミットしているので、2006年の試算は約55億米ドルとなっていますが、これは、2004年が約24億ドルであることを考えると、2年間にほぼ倍増させない限り実現しない、という無理な試算になっています。 では、この「シミュレーション」、どういった理由でこのような「無理」を承知で作成されたのでしょうか?もちろん、今回のようなシミュレーションの公表により、各国政府のODA増額へのコミットメントの実施状況をモニターし、右実現をencourageしたい、という意図があるのかもしれませんが、その他にも、本件背景には、現在DAC内外で関心が高まっているトピックが浮かび上がってきます。 2.「知る権利」? (1)そのトピックとは、「援助予測性」の問題。PRSPの作成等、これまで以上に途上国が長期的な開発計画を作り、中長期的な予算計画とリンクさせていくことが重要との意識が高まっている中、これらを可能とする条件として、ドナー側から期待できる援助の量に関する予測性を向上させることが不可欠との声が強まっています。これまで、DACにおいても、途上国の公共財政管理能力向上に関する議論の一環で、本件に関する議論が多少行われてきていましたが、今回は、DAC諸国全体のODA量の数値(あくまでもシミュレーションですが・・・)を出すことにより、本件問題意識に答えていくための入り口に立った、ということは可能なのかもしれません。 (2)但し、「全体でどの程度増える・・・」という情報だけでは途上国にとって役立つような形で援助予測性が高まったとはいえないですね。そこで、更に現在関心が高まっている事項として、全体として援助が増加することが見込まれている中、今度は国別に視点をブレークダウンして、(イ)1ドナーが他ドナーの(国別)援助配分の動向を知ることにより、自国の援助配分の計画を立てやすくする、(ロ)その結果、ドナーとして確実に、どのタイミングでいくら途上国に対してODAを供与できるか情報提供しやすくする、ための施策が必要、との問題意識が存在しています。そのため、DACの場では、(近い将来、中期的にも)どの程度の援助量を期待できるのか、また、それはどのチャネル(マルチ・バイ、vertical fundsか、debt reliefか)で出されるのか、等の情報を供与する必要がある、各国は自国のODA配分基準を他ドナーと共有すべき、DACとしては、ODA全体の配分状況をモニターし、援助の集中や、逆に必要な国に援助が行かないような状況を避ける必要がある等の意見が出されています(援助の集中等に関する議論は、脆弱な国家の文脈においては、既にDACの作業の中で、現在も継続しています。) (3)しかしながら、本件、多くのドナーにとっては、単年度予算等の国家予算制度や、国におけるODAの位置付け等、政治的な背景が絡む、難しい問題であるといえると思います。どのように国際的に本件に取り組んでいくか、引き続き時間をかけて慎重な検討を行っていくことが必要でしょう。 (パリDAC通信担当 寺門雅代)
2005年9月6日第40回「9月国連総会(首脳会合:World Summit)とOECD/DAC」 |