From Paris/パリDAC通信第48号

2006年5月15日
一般財政支援の効果はいかに?

 5月9日、OECDにおいて、一般財政支援の合同評価に関する会合が開催され、ウガンダ、モザンビーク、ベトナム等7つの途上国での国別事例研究等を基に取りまとめられた報告書を公開、DACメンバー国等のドナー、右途上国、NGO等の議論が行われました。

 「一般財政支援は本当に効果をあげているのか?」「かえって汚職を増殖させるのではないか?」
財政支援を行っているドナー国・途上国、また、そうでない国も、現在ODA全体の約5%を占めているとされる(あるドナーは、国によっては自国のポートフォリオの半分以上を一般財政支援としている例もある)この新しい援助モダリティの効果には強い関心があることでしょう。

本件評価は、その問いに答えるために、DACメンバー国等30以上の国・機関、そして途上国が合同(実際の調査・評価はバーミンガム大学等が実施)で行ったもので、ウガンダ、モザンビーク、ベトナム等7つの途上国での国別事例研究、そして関係ドナー間による議論を重ね、1年以上の作業を経て、報告書が完成したものです。

その評価結果は?本件報告書は前傾OECDホームページで入手可能ですが、7カ国もの国別評価の実施、また評価項目は多岐にわたることから総合報告書だけでも300ページを超えるものです。以下、お忙しい方のためにかいつまんでfindingsをご紹介差し上げます。(報告書に関するOECDプレスリリースもあわせてご参照ください。)

○ 全体的評価
国別評価を行った途上国では、一般財政支援について全体的にpositiveな効果が見られる。

○具体的には・・・
・ ドナー・途上国間のパートナーシップ向上・対話強化に貢献(但し、改善の度合いは漸次的であり、また本件効果は誇張されるべきではない)
・ 全ての国別事例研究で、途上国側の政策・戦略に対するドナー支援のアライメントにインパクトがあることが観察された(しかしながら、実際の効果は、途上国側の政策・戦略そしてオーナーシップの質による)
・ ドナーの調和化を促進
・ 途上国の予算計画・公共財政管理の向上に寄与
・ 一般財政支援が他の援助モダリティに比して、汚職を招く危険性がより高いとの実証は得られず
・ 特に教育・保健セクターの予算が向上し、サービスの拡大がみられた(質の向上が今後の課題)
・ 一般財政支援自体の貧困削減に対するインパクトについては実証されず(実証の難しさ、データ不足等)etc

「財政支援推進派VSプロジェクト型派」の対立。DACドナー間の援助モダリティに関する議論はこのような二項対立構造と見られてきました。実に、関係者によると、本件報告書の作成過程では、あまりにドナー間の意見が異なり、取りまとめに苦労したとのこと。今回、このような形でひとつの報告書、白黒の判決でなく、あるていど現実的・建設的な内容と評価できる報告書が作成されたことにより、今後DACドナー間の現場での対話が進むことが期待されますが、報告書に対するドナーの反応は?そしてこの報告書はどのように利用されていくのでしょうか?5月9日の会合では、このような点についてドナーが種種発言を行い、今後に関する話し合いが行われましたので、次の機会に皆様に紹介できればと思います。

(パリDAC通信担当 寺門雅代)


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