From Paris/パリDAC通信第53号


2006年10月19日
対オランダ援助審査からみたDAC 
− その2 「援助審査」はお手盛り審査?−


今回は、前回に引き続き、今年、日本・スウェーデンが審査 国となって実施したDAC対オランダ援助審査 を通じて見えてきた点のひとつ、DAC「援助審査」の特徴に ついてご紹介します。

3.お手盛り審査? − 「援助審査」の目的、実施方法 

Peer=仲間による審査の効果は?

前号で、DACの「援助審査」は、DACメンバーが審査国となっ て、審査を行う、「Peer Review」であるという点をお伝えし ましたが、『「Peer=仲間による審査」なんていったら、独立 性・専門性に欠ける「お手盛り審査」になるのでは?』とい
う 疑問を抱く方がいらっしゃるかもしれません。確かに、「援助 審査」の第一の目的は、被審査国の開発問題に対する取組み状 況を審査し、積極的な点は評価し、改善が必要な点についてはDAC から被審査国政府に対する勧告(recommendations)を出すこ とにより、被審査国の援助の効果を向上させることにあり、独 立的な視点が必要といえるでしょう。

しかしながら、DACの「援助審査」では、主に、被援助国、他 ドナー(DACメンバー、世銀、国連等)、市民社会組織、被審 査国の援助関係者(国会議員、学会、NGO等)からのインタビ ューを実施して第三者の意見を取り入れる以外、第三者が主体 となって独立審査を実施するようなことは行っていません。第 三者による独立・専門的、厳格な審査を金科玉条のごとく掲げ てはいないのです。

審査+相互学習+α=「援助審査」

なぜでしょう?DACの「援助審査」では、DACメンバー国間の 相互学習(peer learning)を、もうひとつの重要な目的とし
て有しているからです。すなわちこの「援助審査」を通じて利 益を受けるのは、被審査国だけではないのです。特に、審査国 は、DAC事務局の援助審査担当者と共に、被審査国の本国での 審査(本国審査)、被審査国が援助活動を行っている途上国での現地審査等において、関係者(被審査国政府援助関係者、他DAC メンバー・マルチドナー、NGO、被援助国など)と議論を行い 、被審査国の長所・短所から多くの点を学ぶことが可能なのです。もちろん、審査国でない他のメンバー国も、審査国・事務局が作成する報告書案についてDAC全体で議論を行う「援助審 査会合」への参加を通じて、経験を共有することができます。

また、報告書は、DACの議論を経た後、外部にも一般公開され るため、DAC以外の援助関係者にも、各DACメンバー国による援 助政策・体制・実施状況についての情報リソースとして機能し ます(各国の「援助審査」結果) 。また、DAC事務局では、各国の「援助審査」を通じて把握さ れた、情報を統合的に分かりやすく取りまとめた報告書の作成 を行っています。)

更に、昨今、新しくドナーとして活動を展開する所謂新興ドナ ー(例 中国)を、「援助審査」の一部に参加させることによ り、新興ドナーが、DACメンバー国の取り組みを学び、自身の 援助政策立案、体制構築、援助実施の効率化を行う手助けを行う、といった試みも少しずつ見られるようになってきています 。第三者ではなく、同じ「政府」という立場にある仲間による審査なので、新興ドナーも参加しやすい、という利点があると いえるでしょう。(とはいっても、新興ドナーはDACメンバーではないので、政策対話等のアウトリーチ活動を通じた相互理解醸成が、まだまだ必要と言われています。)

その他、Peerによる審査の利点として、外部コンサルタント 、学者等全くの外部第三者とは、どうしても正面を切って議
論することができない政治的な問題等について仲間同士であれば 議論できる、という点が挙げられるかもしれません。例えば、 対オランダ援助審査でも、議会が制定した「毎年援助予算の△ %を○○分野に割り当てる」(例:HIV/AIDS関連の援助にODA予算10%を割り当てる)といったspending targetの是非につい て議論が行われました。援助専門の学者等からは、真っ先に「これは投入重視の目標であり、成果重視の流れに逆行する」、 「途上国毎のニーズに即した援助実施の妨げとなる」といった 批判が出されそうですね。しかし、この「援助審査」では、被審査国・審査国の一部関係者より、このようなtargetは、「政府として、政策課題として掲げた当該問題(例 MDGs)に取り 組んでいることを、国民に分かりやすく説明する格好の手段」 、「援助担当省として、予算要求のためにある程度必要」とい った現実的な意見も出されました。結果、議論は、両者のバラ ンスをどのようにとっていくべきか、といった現実的・建設的 なものになっていきました。

一枚岩ではない被審査国

「援助審査」では、「援助審査」をうまく「利用」したいと いう考えを持つ被審査国関係者にも出くわします。当人が、普段の援助活動を通じて問題だと感じていた点を、審査の機会を利用して、DACに「指摘してもらう」ことにより、自国政府の援助の改善につなげる、すなわち外圧による改革を導き出す、 というものです。なるほど、「援助審査」で被審査国本国や途上国現場に行くと、被審査国政府関係者が一丸となって、自国 の援助政策・体制・実施状況の宣伝に徹したり、欠点をひた隠しにしたりするのではなく、「本国が掲げる政策は美しいが、それを現場で実施するリソースが足りなくて困っている」という現場担当者、「国連でのコミットに反し、我が国政府ODA予算の量はGNI比0.7%目標を達成するには程遠い」という某省担当者・・・などがちらほらと顔を見せる。一枚岩ではない被審査国。実際に、対オランダ援助審査では、審査チームに対して 、本国で掲げる地域紛争への対応を重視した政策に反し、現場 リソースが不足している現状を訴え、DACの勧告を導き出し、 見事、大使館の担当スタッフを獲得した大使に出会いました。 彼らも「援助審査」の受益者といえますね。

では、実際、今回の対オランダ援助審査で、オランダ・DAC は、どのような点につき相互学習を行うことができたのでしょ うか。次号では、本件審査で見えてきた、オランダの援助につ いてご紹介したいと思います。

(パリDAC通信担当 寺門 雅代)


バックナンバー

2006年

10月19日第52回「対オランダ援助審査からみたDAC −その1−
8月5日第51回「協力求む!?「パリ宣言」モニタリング調査の開始
6月13日第50回「続・一般財政支援の効果はいかに?

5月28日第49回「OECD閣僚理事会
5月15日第48回「一般財政支援の効果はいかに?
2月21日第47回「OECDの開発に対する取組み強化(その2)− 投資分野での取組み−
2月7日第46回「OECDの開発に対する取組み強化
1月25日第45回「スケールアップに関する議論−続編−(第2回 DAC・世銀スケールアップ会合)

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12月11日第44回「質問:ブルガリアに派遣されている青年海外協力隊の費用は、『ODA』でしょうか?
       (「DACリスト」改訂)
11月28日第43回「スケールアップに関する議論

11月1日第42回「ODA増額のためにODAを使う?」− ODAに占める開発教育・広報費の割合−
9月18日第41回「OECD/DAC事務局による2010年におけるODA量のシミュレーションと最近のDAC内外におけるホットトピック
9月6日第40回「9月国連総会(首脳会合:World Summit)とOECD/DAC
8月22日第39回「援助効果ハイレベルフォーラム・フォローアップ(その2)
7月22日第38回「パリ援助効果ハイレベルフォーラムフォローアップ
6月27日第37回「オバケODA」を退治せよ?
5月28日第36回「開発援助サポーター倍増作戦−DAC諸国における広報−
5月14日第35回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告とそのフォローアップ(その4 開発成果マネジメント)
4月18日第34回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その3 能力開発)
3月19日第33回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その2 パリ宣言と我が国の対応 )
3月4日第32号「パリ援助効果ハイレベルフォーラム
2月5日第31号「Forum on Partnership for More Effective Development Co-operation
1月23日第30号「脆弱な国家(fragile states)における援助効果向上に関するシニアレベルフォーラム
1月11日第29号「DACアウトリーチ戦略(その2)

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12月14日第28号DACシニアレベル会合(SLM)
11月16日第27号「開発援助における評価の方向性
10月29日第26回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その4 調達キャパビル)−
10月15日第25回『ニカラグア通信:現場から見た調和化・アラインメント
10月1日第24回「DACアウトリーチ戦略−対外協力関係の今後−
8月10日第23回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その2 開発成果マネジメント)−」
7月28日第22回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その1)−」
7月12日第21回「ODAでCO2排出権を買えるのか?」
6月12日第20号MDGsへの貢献はどう図るべきか?
5月30日第19号「対フランス援助審査」

5月18日第18号「OECD閣僚理事会(5/13-14)」
5月4日第17号 「援助量と援助効果の向上」

4月18日16号「DACハイレベル会合 報告」
4月6日15号「DACハイレベル会合(4/15-16)・予告編」
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