From Paris/パリDAC通信第54号 |
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前号までは、DACの「援助審査」を概観し、その目的・特徴として、被審査国・DACメンバー間の相互学習が挙げられる、とご紹介いたしました。今年、日本・スウェーデンが審査国となって実施した、対オランダ援助審査で、オランダ・DACは、どのような点につき相互学習を行うことができたのでしょうか。今号では、この審査で見えたオランダの援助について、ご紹介します。
4.「援助審査」で見えたオランダの開発への取り組み 「優等生」オランダ 本当に優等生なのか?一体何故こんな評価をうけるのか?以下では、対オランダ援助審査を通じて見えたオランダ援助についてご紹介し、一つ目の疑問点について皆さんと一緒に考えられればと思います。第二の疑問点、何故オランダはこのような評価をDACで受けているのか、については、今回連載シリーズのテーマのひとつ、「DACそのもの」について考えるひとつの題材となりますので、次号以降取り上げたいと思います。
オランダ援助の強み −オランダ援助から学べる(かもしれない)こと− まず、「among the most generous donors within the DAC」であることは確か。オランダは、絶対額ではDACメンバー国(22カ国)中6位(2005年、50.13億ドル)ですが、対GNI比では、4位の0.82%となっています。オランダ政府は、GNI比でのODA量の維持にコミットしており、事実、97年より政策目標として、ODA予算をGNI0.8%とすることと定めています。実績としては、実に、75年より毎年国連の目標であるGNI比0.7%を超えるODAを拠出しています(同目標を達成したのは、2006年では、DACメンバー国内、オランダを含めて5カ国。)。 第二に、比較的明確な戦略や目標が掲げられた援助政策を有していると言える点。現時点でのオランダの援助政策は、2003年に採択された「Mutual interests, mutual responsibilities; Dutch development cooperation en route to 2015」。ここでは、例えば、題名に示されるとおりMDGsを重要なreference pointとし、貧困削減を主目的とした援助を展開することが明確に位置づけられています。また、いわゆる援助重点国を36カ国と指定(2003年に51カ国から削減)、支援対象セクターは各国2から3に絞ることが明確に謳われています。特に、この点については、DACメンバー国の多くは、自国の援助規模・キャパシティに鑑みて、援助対象国を絞る必要が認識される場合でも、歴史・政治・経済的背景から困難となる事情を有する中、オランダは、明確なクライテリア(貧困レベル、民主化・ガバナンス向上が見られること、ODAに対するニーズ(他のドナーの動向、一人当たりODA受取額等も考慮)、オランダによる援助の付加価値に加え、政治等含む当該途上国の関係)を掲げ、具体的な数字を示している点、わかりやすく、評価できると思います。 第三に、現場への権限委譲。ここでは詳しく述べるのが難しいのですが、在外公館には、複数年に亘る国別戦略・計画策定、予算管理(二国間協力のうち、一般財政支援(一部の公館)・人道援助(全公館)を除いたすべての予算を管理)、プロジェクト承認・実施・モニタリング、他ドナー・途上国政府との対話等に関する権限が委譲されている状況にあり、DACの中でも比較的現場への権限委譲が進んだ国とされており、制度上は、一定の条件が揃えば、機動的な援助の実施が可能な環境が備わっているといえます。 最後に、計画・モニタリング・評価のシステムを整備し、明確な目標を設定し、データ等に基づいた援助の実施・進捗管理・成果把握・事業の効果向上に努めているといえる点。例えば、「Track Record」は、当該国の援助において使用するモダリティを決定するための自前のシステムで、PRSPの質・周辺環境、政治・経済の状況、公共財政管理を含めたガバナンスの状況、ドナー・途上国間の対話の状況について、レーティング・分析を行った上で、使用モダリティの判断が行われるようになっています。DAC等の場では、財政支援と他のモダリティの相互補完性が重要という一般認識が共有されつつも、どういった条件で財政支援を実施したら効果的なのか等、具体的な議論が進んでいない中、(財政支援を一般化させたいという思いが強いからか?)自分たちなりの情報・分析に基づいて援助を展開していこうというオランダの取り組みはある程度参考になるといえるでしょう。 以上のように、オランダの援助は、明確な政策を策定し、それを実施するための戦略・ツール・環境を整備し、データ等に基づいた援助実施に努めている点が評価できると言えるでしょう。しかし、もちろん、そんなオランダにも、課題・改善すべき点があるのは、もしかしたら途上国の現場で働いている皆さんの方がよくご存知かもしれません。。。 オランダ援助の課題 例えば、前述した援助重点国の絞込み。確かに、36カ国が重点国とされ、戦略上の位置づけが上がり、オランダの二国間援助の62%(2005年)がこれらの国に配分されました。しかしながら、オランダの二国間援助予算自体は、援助予算全体の20%にしか及ばない(参考;その他主な予算配分として、20%がNGO、28%が国際機関への拠出となっている)ことを考えると、そのインパクトはかなり限られること、また、オランダの援助全体を見渡すとなおも125カ国に援助が拠出されていること(注;この統計は、たとえ一人の留学生受け入れでもその国へ援助が拠出されているとカウントされるので、多少割り引いて考える必要はあります)、などを考えると、政策はすばらしいが、必ずしも実態が伴っていないという点が指摘できるでしょう。セクターにしても、結局重点分野として絞られた2もしくは3のセクターに加えて、横断的セクターとして、ガバナンス、ジェンダーなどが入ってくるため、結局、実質的な数の削減にはなっていない実態が観察されました。 更に、より肝心な問題、すなわち、オランダの援助が本当に草の根レベルで効果を上げているか、という点については、援助審査という限られた時間での外部関係者による場では評価が大変難しいのですが、やはりいくつか疑問が残るのは確か(どの国もある程度はそうでしょうが。。。)。援助審査でも、「monitoring grass roots developments and trends while engaging fully in macro policy dialogue」が課題のひとつ、といわれました。例えば、オランダ自身も認めるとおり、財政支援型援助の志向する中結果として途上国は何ができるようになったのか、また、その結果草の根レベルで何が変わったのかといった点について十分な意識が払われていない、SWAPsの中で実施した技術協力プログラムの中で、人材育成のみに傾注しすぎて組織能力の向上が認められず協力の持続可能性に問題がある等々。。。課題は多くありそうです(読者の皆さんの印象はいかがでしょうか。。。)。 以上のように、政策が実施できていない、または、草の根での実施状況に注意が払われきっていないという原因のひとつには、やはり、現場で実行する人材が不足もしくは必要なところに配置されていない、という弱点が挙げられるでしょう。オランダには、日本のようにJICA、JBICといった援助実施機関がなく、援助予算のほとんど(80%)を外務省が直接担当しています。オランダによれば、その数約1000名。今回の援助審査では、この数自体を十分と見るかどうかの結論は明確になされませんでしたが(例えば、ある人は、ドナー協調が進み、モダリティも財政支援型に移っている中、必要なマネジメントスタッフは少なくてすむという考え方を示していました)、わが国の状況から見ると、決して十分な数とはいえないと思います。なお、適材適所という問題については、今回援助審査の中で多く指摘された重要な点の一つであり、特に、在外公館での人材の拡充が重要な課題とされました。前述のとおり、権限委譲が進む中、現場の人材が不足しているという点は、かなり憂慮すべき問題といますよね。
2006年 10月19日第53回「対オランダ援助審査からみたDAC − その2 「援助審査」はお手盛り審査?−」 2005年 12月11日第44回「質問:ブルガリアに派遣されている青年海外協力隊の費用は、『ODA』でしょうか?」 2004年 12月14日第28号「DACシニアレベル会合(SLM)」
2003年 12月13号 |